夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 午前7時半。

 我が家の門の前にタクシーが停車した。アンと一緒に門へ出ると、佳代子さんと田辺さんが見送りに出てくれていた。黒崎を見て、今日も男前ねと言って微笑んでいる。俺もそう思う。その黒崎から頭を撫でられた。

「いってくる。今日はいつも通りに帰る」
「今夜はすき焼きにするよ。九条ネギがたくさん収穫できたんだ。今朝の分だよ」
「そうか。楽しみだ」

 俺とアンの頭を撫でた後、黒崎がタクシーに乗り込んだ。彼は晩ご飯に好物が出ると分かると上機嫌になる。だからこそ、わざと出発の時に伝えている。一日の活力にしてもらいたいからだ。

「いってらっしゃい」
「気をつけてねーー。……夏樹君、おすそ分けよ。この間のお礼の分」
「ありがとうございます。これ、美味しかったマフィンです」
「あら、ありがとう」
「まあ、美味しそう」

 3人と1匹で黒崎のことを見送った後、和菓子とアンに食べさせるオヤツを物々交換した。最近の話題は、黒崎がさらに素敵になったというものだ。

「余裕が出来てきたわねえ」
「ここに越してきたとき、小さな子だったのに。女の子かと思ったのよ」
「やっぱりそうなのね。見たかったわ~」

 田辺さんは10年前にここに引っ越してきた人だから、最近の黒崎しか知らない。そこで、アルバムを見せようと思った。

「アルバムを見てもらいたいです。俺でも黒崎さんのイメージが変わりました」
「へえーー。ぜひ!」
「圭一君は恥ずかしがり屋さんだったのよ。大人しくて、にこにこ笑っていて。いつもお絵かきグッズを持っていたのよ。あんまり可愛いから、変な人がウロいたの。でも自分の身を守らないといけないから、拓海君が工夫をして、男の子っぽい格好をさせるようになったの。それでも変な人がウロつくものだから、小学5年生ぐらいの時は、張り詰めた空気になっていたみたい」
「へええ……」

 黒崎が小学5年生ぐらいになった写真では、すでに今のイメージだった。だからそうなったのかと納得が出来た。

 拓海さんは、黒崎を育てる役目をお義父さんから言いつかっていたそうだ。ママの体調が悪いからだった。お義父さんから頼まれなくても、拓海さんなら率先して黒崎の面倒を見てくれたのだろう。中学生の時に、母方の祖父母の元に行ったのは、ママが再婚するからだけではなく、体と心を強くするために、親元から離れて暮らす目的があったそうだ。

 拓海さんと離れるときはどんな思いをしたのか、お義父さんからの命令がされたき、どんな気持ちだったのかは、まだ黒崎から聞いていない。でも、おかげで喘息がよくなったから、引っ越して良かったのだとは言っていた。海のそばにある土地だから、空気が違うからだろう。それに、沙耶さんと怜さんとの出会いがあった。

「さて。支度しないとなあ」

 これからお義父さんの家へ行く。今日のお客さんを迎えるためだ。昨日のうちに焼いておいたマフィンの入った袋を持って、アンの先導でお義父さんの家へ向かった。
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