夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 18時半。

 窓の外では雪がチラついている。日の暮れが早いなと思いながら、浅漬けに使う白菜を切っている。すき焼きの具材も切り終えて、鍋の中へ入れた。今夜は冷え込んでいるから、このメニューで正解だった。

 お米は届けてもらったばかりのものだ。普段食べているものとは違う銘柄にしてみた。お店のおススメで、試食用を貰って食べてみると、黒崎も気に入っていた。お米屋さんとは、うちの家族のことを話す仲になった。こんなに人づき合いができるようになるとは思わなかった。自分自身が驚いている。

 ピーピー。炊飯器のアラームが鳴り、少し経ってから蓋を開けてかき混ぜた。

「いい匂いだな~。この銘柄にしてよかった。そろそろかな?まだかな……」

 リビングのテラス窓から玄関の方を見た。もうすぐで、タクシーのランプが見えるはずだ。

 黒崎のリクエストで、今日はシャルロットのイラストがプリントされたエプロンを着ている。キャンペーンの景品の試作品だ。

 黒崎はファンシーグッズを愛している。動物の着ぐるみパジャマ、ウサギ柄の部屋着、スリッパ、エプロンを買い集めている。それが毎日の活力になるならばと、しぶしぶ付き合ってやっている。

「冷えているね。ウーン、何をしようかなー?遅いなあ?」

 どうも手持ち無沙汰だ。テレビを観て待っていよう。アンも退屈そうに寝転がっている。昼間はお義父さんの家で遊んでいたから、疲れているようだ。

 テレビを付けると、ニュースが流れていた。千尋製菓の話題が出ており、落ちていた業績が回復しつつあるというものだった。そして、週刊誌で見たことのある人が映し出された。どこかの会場で会議をしている。業績が上がったそうだ。

「……『専務取締役……早瀬孝則氏により……上方修正、業績回復の』……」
「……早瀬さんのお父さんだ。優しそうな人だなあ」

 映っているのは早瀨さんのお父さんだ。黒崎が言うには、早瀨さんは実家を嫌って家を出たそうだ。黒崎ホールディングスに就職したのは、実家への反抗心からだと聞いている。お母さんや、おじさん達がうるさいらしい。しかし、早瀨さんが黒崎ホールディングスに就職するのを、お父さんは応援してくれたそうだ。しかし、そのことで、お父さんと早瀨家との仲が悪くなったと言っていたそうだ。

「……家のつながりが大事にしている人達だって、黒崎さん、言っていたなあ。俺の両親、おじいちゃん達と会っていないな。仲が悪いもん。あ、タクシーだ。パパが帰って来たよー」

 アンが玄関へ走って行った。俺も後からついて行き、玄関を開けて門へ向かった。
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