夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 午前11時。

 コンテストが開始されて、一時間が経った。メンバー達が控え室のモニターを眺めている。あと30分程度で移動が必要だ。スタッフさんが呼びに来るのを待っている。さっきまで大和が来ていた。すっかり意気投合して、悠人と語り合っていた。そろそろ順番が近くなり、隣の控え室へ戻ったばかりだ。

「おおー、これはー?」
「ほお……」

 藤沢と悠人が感嘆のため息をついている。会場を映しているモニターを見ながらだ。俺は黒崎から苛められている。憎まれ口を叩いてしまい、両方の頬をつねられたところだ。

「いたたたっ。やめてよ~っ」
「……お前が悪い」
「なんだよ~。元デート相手が来ている確率を計算しただけじゃん。あくまでも、数字の世界だし」
「……無駄な知識は頭から消せ」
「……うっうっ」
「夏樹?おい、痛むのか?」
「ひっく、ひっく」
「力を入れていない。見せてみろ」
「ふん……」

 こっちで暮らし始めた後は、黒崎の元デート相手には遭遇していない。今朝の悠人達の件で連想してしまったわけだ。我ながら性格が悪いと自覚をしつつ、その確率を割り出した。大した数が出ないことで安心しようとした。しかし、導き出した数字を見て呆然とした。

「今日の観客500人当たり、10人もいるんだよーっ。どういうことだよーっ」
「……どこから出た数字だ?そもそも把握していないだろうが」

 黒崎が眉間に皺を寄せながらも、落ち着いている。根拠のない数字だと思っているからだろう。そこで、伊吹からのラインを見せてやった。過去10年間のデート相手の数が載っている。常時7人が存在していた。そこから割り出したという数字だ。

「……これは何だ?」
「ふん。伊吹お兄ちゃんからのラインだよ。聡太郎君の応援に来ているんだ。さっき連絡を取って、送ってもらったんだ」
「……捨ててしまえ。ろくなことをしない兄貴だ」
「何するんだよ~。削除された~っ」

 黒崎からスマホを奪い取られた結果、そのメッセージを削除されてしまった。また送ってもらえばいいと息巻いていると、聡太郎から声を掛けられた。

「……俺達は機材の確認に行くけど、どうする?このタイミングで見ておく必要がある。いろんなケースがあるから」
「それは何?」
「えーっとね……」

 悠人が代わりに答えてくれた。今日のような規模のコンテストでは、スタンバイしている楽器に嫌がらせをされることがあるという。つまり、ライバルの楽器が標的だ。人目がある以上、全体を壊すことは出来ない。差し込んでいるピックを抜き取る程度なら可愛いもので、ギターの弦に傷をつける人がいるらしい。聡太郎から肩を抱かれた。これから先は汚いこともある。その反対に、こうしてメンバー同士で助け合う関係もある。だから落ち込まないでねと、優しい声で励まされた。
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