165 / 348
14-10
しおりを挟む
午前11時。
コンテストが開始されて、一時間が経った。メンバー達が控え室のモニターを眺めている。あと30分程度で移動が必要だ。スタッフさんが呼びに来るのを待っている。さっきまで大和が来ていた。すっかり意気投合して、悠人と語り合っていた。そろそろ順番が近くなり、隣の控え室へ戻ったばかりだ。
「おおー、これはー?」
「ほお……」
藤沢と悠人が感嘆のため息をついている。会場を映しているモニターを見ながらだ。俺は黒崎から苛められている。憎まれ口を叩いてしまい、両方の頬をつねられたところだ。
「いたたたっ。やめてよ~っ」
「……お前が悪い」
「なんだよ~。元デート相手が来ている確率を計算しただけじゃん。あくまでも、数字の世界だし」
「……無駄な知識は頭から消せ」
「……うっうっ」
「夏樹?おい、痛むのか?」
「ひっく、ひっく」
「力を入れていない。見せてみろ」
「ふん……」
こっちで暮らし始めた後は、黒崎の元デート相手には遭遇していない。今朝の悠人達の件で連想してしまったわけだ。我ながら性格が悪いと自覚をしつつ、その確率を割り出した。大した数が出ないことで安心しようとした。しかし、導き出した数字を見て呆然とした。
「今日の観客500人当たり、10人もいるんだよーっ。どういうことだよーっ」
「……どこから出た数字だ?そもそも把握していないだろうが」
黒崎が眉間に皺を寄せながらも、落ち着いている。根拠のない数字だと思っているからだろう。そこで、伊吹からのラインを見せてやった。過去10年間のデート相手の数が載っている。常時7人が存在していた。そこから割り出したという数字だ。
「……これは何だ?」
「ふん。伊吹お兄ちゃんからのラインだよ。聡太郎君の応援に来ているんだ。さっき連絡を取って、送ってもらったんだ」
「……捨ててしまえ。ろくなことをしない兄貴だ」
「何するんだよ~。削除された~っ」
黒崎からスマホを奪い取られた結果、そのメッセージを削除されてしまった。また送ってもらえばいいと息巻いていると、聡太郎から声を掛けられた。
「……俺達は機材の確認に行くけど、どうする?このタイミングで見ておく必要がある。いろんなケースがあるから」
「それは何?」
「えーっとね……」
悠人が代わりに答えてくれた。今日のような規模のコンテストでは、スタンバイしている楽器に嫌がらせをされることがあるという。つまり、ライバルの楽器が標的だ。人目がある以上、全体を壊すことは出来ない。差し込んでいるピックを抜き取る程度なら可愛いもので、ギターの弦に傷をつける人がいるらしい。聡太郎から肩を抱かれた。これから先は汚いこともある。その反対に、こうしてメンバー同士で助け合う関係もある。だから落ち込まないでねと、優しい声で励まされた。
コンテストが開始されて、一時間が経った。メンバー達が控え室のモニターを眺めている。あと30分程度で移動が必要だ。スタッフさんが呼びに来るのを待っている。さっきまで大和が来ていた。すっかり意気投合して、悠人と語り合っていた。そろそろ順番が近くなり、隣の控え室へ戻ったばかりだ。
「おおー、これはー?」
「ほお……」
藤沢と悠人が感嘆のため息をついている。会場を映しているモニターを見ながらだ。俺は黒崎から苛められている。憎まれ口を叩いてしまい、両方の頬をつねられたところだ。
「いたたたっ。やめてよ~っ」
「……お前が悪い」
「なんだよ~。元デート相手が来ている確率を計算しただけじゃん。あくまでも、数字の世界だし」
「……無駄な知識は頭から消せ」
「……うっうっ」
「夏樹?おい、痛むのか?」
「ひっく、ひっく」
「力を入れていない。見せてみろ」
「ふん……」
こっちで暮らし始めた後は、黒崎の元デート相手には遭遇していない。今朝の悠人達の件で連想してしまったわけだ。我ながら性格が悪いと自覚をしつつ、その確率を割り出した。大した数が出ないことで安心しようとした。しかし、導き出した数字を見て呆然とした。
「今日の観客500人当たり、10人もいるんだよーっ。どういうことだよーっ」
「……どこから出た数字だ?そもそも把握していないだろうが」
黒崎が眉間に皺を寄せながらも、落ち着いている。根拠のない数字だと思っているからだろう。そこで、伊吹からのラインを見せてやった。過去10年間のデート相手の数が載っている。常時7人が存在していた。そこから割り出したという数字だ。
「……これは何だ?」
「ふん。伊吹お兄ちゃんからのラインだよ。聡太郎君の応援に来ているんだ。さっき連絡を取って、送ってもらったんだ」
「……捨ててしまえ。ろくなことをしない兄貴だ」
「何するんだよ~。削除された~っ」
黒崎からスマホを奪い取られた結果、そのメッセージを削除されてしまった。また送ってもらえばいいと息巻いていると、聡太郎から声を掛けられた。
「……俺達は機材の確認に行くけど、どうする?このタイミングで見ておく必要がある。いろんなケースがあるから」
「それは何?」
「えーっとね……」
悠人が代わりに答えてくれた。今日のような規模のコンテストでは、スタンバイしている楽器に嫌がらせをされることがあるという。つまり、ライバルの楽器が標的だ。人目がある以上、全体を壊すことは出来ない。差し込んでいるピックを抜き取る程度なら可愛いもので、ギターの弦に傷をつける人がいるらしい。聡太郎から肩を抱かれた。これから先は汚いこともある。その反対に、こうしてメンバー同士で助け合う関係もある。だから落ち込まないでねと、優しい声で励まされた。
0
あなたにおすすめの小説
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?
甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。
だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。
魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。
みたいな話し。
孤独な魔王×孤独な人間
サブCPに人間の王×吸血鬼の従者
11/18.完結しました。
今後、番外編等考えてみようと思います。
こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
取り残された隠者様は近衛騎士とは結婚しない
二ッ木ヨウカ
BL
一途な近衛騎士×異世界取り残され転移者
12年前、バハール王国に召喚された形代柚季は「女王の身代わり要員」として半引きこもり生活をしていたが、ある日婚活を始めることに。
「あなたを守りたい」と名乗りを上げてきたのは近衛騎士のベルカント。
だが、近衛騎士は女王を守るための職。恋愛は許されていないし、辞める際にもペナルティがある。
好きだからこそベルカントを選べず、地位目当てのホテル経営者、ランシェとの結婚を柚季は決める。
しかしランシェの本当の狙いは地位ではなく――
大事だから傷つけたくない。
けれど、好きだから選べない。
「身代わりとなって、誰かの役に立つことが幸せ」そう自分でも信じていたのに。
「生きる」という、柔らかくて甘い絶望を呑み込んで、
一人の引きこもりが「それでもあなたと添い遂げたい」と言えるようになるまで。
龍の無垢、狼の執心~跡取り美少年は侠客の愛を知らない〜
中岡 始
BL
「辰巳会の次期跡取りは、俺の息子――辰巳悠真や」
大阪を拠点とする巨大極道組織・辰巳会。その跡取りとして名を告げられたのは、一見するとただの天然ボンボンにしか見えない、超絶美貌の若き御曹司だった。
しかも、現役大学生である。
「え、あの子で大丈夫なんか……?」
幹部たちの不安をよそに、悠真は「ふわふわ天然」な言動を繰り返しながらも、確実に辰巳会を掌握していく。
――誰もが気づかないうちに。
専属護衛として選ばれたのは、寡黙な武闘派No.1・久我陣。
「命に代えても、お守りします」
そう誓った陣だったが、悠真の"ただの跡取り"とは思えない鋭さに次第に気づき始める。
そして辰巳会の跡目争いが激化する中、敵対組織・六波羅会が悠真の命を狙い、抗争の火種が燻り始める――
「僕、舐められるの得意やねん」
敵の思惑をすべて見透かし、逆に追い詰める悠真の冷徹な手腕。
その圧倒的な"跡取り"としての覚醒を、誰よりも近くで見届けた陣は、次第に自分の心が揺れ動くのを感じていた。
それは忠誠か、それとも――
そして、悠真自身もまた「陣の存在が自分にとって何なのか」を考え始める。
「僕、陣さんおらんと困る。それって、好きってことちゃう?」
最強の天然跡取り × 一途な忠誠心を貫く武闘派護衛。
極道の世界で交差する、戦いと策謀、そして"特別"な感情。
これは、跡取りが"覚醒"し、そして"恋を知る"物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる