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12時半。
5つの雑誌から取材を受けた。アマチュアバンドを紹介しているサイトの人もいた。さっき悠人が戻ってきて、ゼロスペースも取材を受けていると言っていた。並川さん達の件では残念そうにされた。今後コンテスト出場はしないこと、たまに友達のライブに出る程度にすると答えた後だ。それ以上の突っ込んだ質問はされなかった。
「ありがとうございました。記事の掲載が決定しましたら、ご連絡します」
「よろしくお願いします」
取材の人が通路へ出た。悠人の隣にいるのは、IKUの社員の加藤さんだ。悠人に付き添っている。まだ正式に契約を交わしていないけれど、所属するという返事をしたから、所属ミュージシャンも同然だ。その姿はキリッとしていて、今朝のような様子ではなかった。
俺はというと、取材の間は黒崎が付き添っていた。ステージで緊張したか、ホッとしているか等の質問には自分で答えた。それ以外は全て黒崎が答えた。悠人とは大違いだ。
「もっとしっかりするよ。黒崎さんに付き添われているし」
「……まだそれで構わない。他の奴から声をかけられていないだろうな?」
「ゼロスペースのメンバーだけだよ」
「……そうか」
「そんなに心配するなよ~」
心配症のパートナーの頭をうちわで叩いた。仕返しに頬をつねられたから、耳たぶを引っ張ってやった。さらに下唇を引っ張られた後、頬をつねり返してやった。
「黒崎さんっ、痛いってば」
「……おまえこそ手を離せ」
「ウーーーッ」
「……泣かすぞ」
「いたっ、やめてよ~っ」
次第にエスカレートしていき、喧嘩に発展しそうになった。お互いにやめておこうというムードになっていると、甘い声のやり取りが聞こえてきた。そっちを向くまでもなく、誰かは分かっている。
「裕理さん。もっと右だよー」
「……ここか?」
「そうそう。ひゃひゃひゃ~、くすぐったいよーっ」
「……ここは?」
「そこは違うだろー。だめだよ」
「……どうしてー?」
ソファーに座った早瀬さんの膝枕で寝転がった悠人が、耳かきをしてもらっている。触れるのは頭ぐらいだろうに、早瀬さんの手が別のことをしている。なんだか羨ましい。
「黒崎さん。耳掻きしてよ」
「我儘を消費するのか?」
「サービスしてよ」
「……言い方からして図々しくなったぞ」
「あんたと暮らしているとね~、自然にねー、こうなるんだよ~」
「……嫌味が自然に言えるようにもなった」
「負けていられないからね、ウーーーッ」
これだけは負けないものがある。唇の厚さだ。思いきり尖らせて突き付けてやると、予想通りに手を伸ばしてきたから、後ろへ下がって阻止した。そこでタオルで顔を隠して、魔の手から防御した。すると今度は足首を掴まれて、足の裏を刺激された。
「ちょっと、やめろよ~っ」
「くすぐってやる」
「うひゃひゃひゃひゃ~、やめひゃえええっ」
「逃げるな」
「あの、ここは……」
「……控え室だ。起き上がってくれ」
いつの間にかソファーへ押し倒れていた。ソファーの背越しに向こうを見ると、全員から視線を向けられていた。悠人たちも大人しくなっていて、生暖かい目で見つめられていた。一気に恥ずかしくなったのは、黒崎も同じだ。着ているTシャツの裾を直していると、黒崎から抱き起された。悠人が笑い出している。ぷぷぷと。
「20組のステージが終わったよ!」
「そうなんだ~、あの……」
「はいはい、仲が良くていいことだよ。これでも飲んで落ち着きなよ」
悠人が空気を読んだ。ドリングカウンターでアイスコーヒーを淹れて持って来てくれた。そして、何もなかったかのようにモニターを眺め始めた。その後ろ姿は悠然としていた。
5つの雑誌から取材を受けた。アマチュアバンドを紹介しているサイトの人もいた。さっき悠人が戻ってきて、ゼロスペースも取材を受けていると言っていた。並川さん達の件では残念そうにされた。今後コンテスト出場はしないこと、たまに友達のライブに出る程度にすると答えた後だ。それ以上の突っ込んだ質問はされなかった。
「ありがとうございました。記事の掲載が決定しましたら、ご連絡します」
「よろしくお願いします」
取材の人が通路へ出た。悠人の隣にいるのは、IKUの社員の加藤さんだ。悠人に付き添っている。まだ正式に契約を交わしていないけれど、所属するという返事をしたから、所属ミュージシャンも同然だ。その姿はキリッとしていて、今朝のような様子ではなかった。
俺はというと、取材の間は黒崎が付き添っていた。ステージで緊張したか、ホッとしているか等の質問には自分で答えた。それ以外は全て黒崎が答えた。悠人とは大違いだ。
「もっとしっかりするよ。黒崎さんに付き添われているし」
「……まだそれで構わない。他の奴から声をかけられていないだろうな?」
「ゼロスペースのメンバーだけだよ」
「……そうか」
「そんなに心配するなよ~」
心配症のパートナーの頭をうちわで叩いた。仕返しに頬をつねられたから、耳たぶを引っ張ってやった。さらに下唇を引っ張られた後、頬をつねり返してやった。
「黒崎さんっ、痛いってば」
「……おまえこそ手を離せ」
「ウーーーッ」
「……泣かすぞ」
「いたっ、やめてよ~っ」
次第にエスカレートしていき、喧嘩に発展しそうになった。お互いにやめておこうというムードになっていると、甘い声のやり取りが聞こえてきた。そっちを向くまでもなく、誰かは分かっている。
「裕理さん。もっと右だよー」
「……ここか?」
「そうそう。ひゃひゃひゃ~、くすぐったいよーっ」
「……ここは?」
「そこは違うだろー。だめだよ」
「……どうしてー?」
ソファーに座った早瀬さんの膝枕で寝転がった悠人が、耳かきをしてもらっている。触れるのは頭ぐらいだろうに、早瀬さんの手が別のことをしている。なんだか羨ましい。
「黒崎さん。耳掻きしてよ」
「我儘を消費するのか?」
「サービスしてよ」
「……言い方からして図々しくなったぞ」
「あんたと暮らしているとね~、自然にねー、こうなるんだよ~」
「……嫌味が自然に言えるようにもなった」
「負けていられないからね、ウーーーッ」
これだけは負けないものがある。唇の厚さだ。思いきり尖らせて突き付けてやると、予想通りに手を伸ばしてきたから、後ろへ下がって阻止した。そこでタオルで顔を隠して、魔の手から防御した。すると今度は足首を掴まれて、足の裏を刺激された。
「ちょっと、やめろよ~っ」
「くすぐってやる」
「うひゃひゃひゃひゃ~、やめひゃえええっ」
「逃げるな」
「あの、ここは……」
「……控え室だ。起き上がってくれ」
いつの間にかソファーへ押し倒れていた。ソファーの背越しに向こうを見ると、全員から視線を向けられていた。悠人たちも大人しくなっていて、生暖かい目で見つめられていた。一気に恥ずかしくなったのは、黒崎も同じだ。着ているTシャツの裾を直していると、黒崎から抱き起された。悠人が笑い出している。ぷぷぷと。
「20組のステージが終わったよ!」
「そうなんだ~、あの……」
「はいはい、仲が良くていいことだよ。これでも飲んで落ち着きなよ」
悠人が空気を読んだ。ドリングカウンターでアイスコーヒーを淹れて持って来てくれた。そして、何もなかったかのようにモニターを眺め始めた。その後ろ姿は悠然としていた。
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