夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 ワーー!アイアンーー!

 2曲目が終了した。これで自分たちのステージが終わった。大勢の人に手を振った。その中で、ジャンプしながら手を振っている人を見つけた。4列目のサイド方向だ。照明が反射して見えづらいものの、大きく手を振った。

「ナツキーー!」
「あれ?お母さん?あ……マジで?」

 大きな紙を持ったグループがいた。俺達のバンド名が書かれてい。そこでは、母と伊吹、久田さんが手を振っている。沙耶さんもいた。ジャンプをしているから目立っている。

 母から大声で呼びかけられた。さすがに恥ずかしい。ステージサイドへ戻ろうとすると、カメラが俺達の応援団を映し始めた。そのタイミングで、前方からのカメラがこっちを向いた。俺の家族だと知られたようだ。

「ヒャーーーッ。恥ずかしいーー」
「おーい!みんなが手を振ってるよーー」
「ありがとうーー!」

 うちわを持って手を振りながら、サイドへ引っ込んだ。悠人たちが俺の分まで観客に応えてくれている。そして、すぐにスタッフから指示が来て、こっちへ戻ってきた。

「なつきーー。どうしたんだよー?」
「賑やかな人にカメラが寄っていたんだよ~」
「ああー、4列目?ああいう人、いいよね?」
「それはお母さんだよ……」
「そうだったんだね!光で顔が分からなくてさー。最高だったよ。桜木さんも分かったよね?……そうだ、大和のところへ行ってくるよ!」

 これからゼロスペースの演奏が始まる。悠人が大和そばへ行くと、他のメンバーから抱きつかれた。ありがとうと。こちらこそだと、悠人が言い返している。

「あんな事が起きて、気持ちがグラついていたんだ……」
「これから出番だからさ。気持ちを切り替えようよ」
「うん。後で話したい!」
「もちろんだよ。さあ、呼んでいるよ」

 悠人がメンバー達の肩を叩いて、呼び出しスタッフへと促した。嫌がらせには困ったが、おかげで団結力が強くなり、気持ちを立て直せたと思う。

 バタバタ……。

 悠人が走って戻ってきた。スタッフさんから控え室に戻るように指示されたそうだ。ゼロスペースの演奏は聞けそうもない。控え室へ戻ってモニターを観ても、終わりかけだろう。動画配信を観ようねと話し合った。

 わいわいと話しながら歩いていると、待機中のバンドの前を通りかかった。例の18番目のグループもいる。聡太郎のことを見ていたが、大和たちのように話したいなという雰囲気ではなかった。関わり合いにならないように通り過ぎた。

「アイアンエンジェルさーん。取材が来ているので部屋に戻ってくださいーー」
「ええー?」
「ほお……」

 並川さんの反応を見ると、いい事のようだ。そばから視線を感じたから振り返ろうとすると、聡太郎から肩を抱かれた。そして、まるで俺と悠人のことを庇うようにして、足早で歩き始めた。
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