夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 ガーー、ピーー。

 会場内の音が大きくて、メンバーの話し声が聞こえづらい。二曲目に入るまで、わずかな時間しかない。スタッフがキーボードを移動している間に、奥の方で休憩した。今回は息苦しさがない。何台もカメラが向けられているが、平気だ。

「……ポジショニングは?」
「……OK!」

 ステージ照明が暗くなった。これから二曲目を披露する。悠人がキーボードを弾く。シンセサイザー、ピアノ、オルガンの音色に変化する。ベースは聡太郎が弾き、ドラム、ギターという構成だ。讃美歌をイメージしている。

「……resumption、再開、聴いてください」

 パイプオルガンの音が奏でられて、ステージ上部からの白い光が差し込んだ。俺は胃のあたりで両手を組み、スタンドマイクに向かって歌声をあげた。

「……Trying to regain my way in this lifeーー、自分に約束したーー、Hope there is a wayー、forgive us our trespassesーー、as we forgive themーーー」

 静まり返った会場内に響き渡ったのは、バンドという船が岸に到着した音だ。大海原へ出発した船が岸に辿り着き、3人のメンバーが降り立った。そして、俺と悠人が出発した。

 この先、誰と出会うのだろう?この船に乗る人は、どこにいるのだろう?きっと素敵な人だろう。今日の思い出を共有できるように、みんなで力を合わせて漕ぎ出した。
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