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17-10(黒崎視点)
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18時。
これから夕食だ。鉄板焼き店に入り、夏樹の好きな海産物をオーダーして食べさせた。機嫌を直してよく笑い、普段よりも食事が進んでいる。たまには食事に出かけようと、夏樹の方から言い出した。
この一か月間、全く外食しようとしなかった。切羽詰まった気持ちを晴らすように、毎日の食事作りをこなしていたのだと話してくれた。完璧主義の負けず嫌いの性格が体に負荷をかけたのだろう。
「黒崎さーん。このホタテが美味しいよ~」
「もっと食え。前菜が残っているぞ?進まないのか?」
「ゆっくり食べているんだ。鯛のマリネと山菜を合わせたやつ。家でも作りたいな」
「ステーキは?」
「うん、食べるよ!」
サーロインステーキ食べているのを見て安心した。本人が意識して食事の量を増やしたのは、悠人の協力が大きい。テイクアウトの料理を持って遊びに来ては、目の前で美味しそうに食べてくれていた。夏樹の方も自然と箸が進んで、胃もたれすら起こさなくなった。
そばにいるスタッフへ、巨峰のシャーベットと珈琲をオーダーした。前菜の鯛のマリネもだ。多めに頼んでやったから喜ぶだろう。夏樹が期待に目を輝かせている。どうも照れくさくなった。
「どうした?」
「ありがとう。会社に呼んでくれて」
「気負う必要はないぞ」
「一度決めたら、やり切りたいんだよ」
「スタートダッシュの必要はない。時と場合を使い分けろ。100%の力を出せば、負荷が掛かった時に耐えられない。80%を心がけろ。追加がきても、20%で受け止められる」
「80%にする方法が分からないんだ」
「たまには寝坊しろ。朝ご飯が作れなかったとか、遅刻するとか、そういう日を増やせ」
「うん。やってみるよ……」
「期待していない。俺が悪かった。シャーベットが来たぞ」
「美味しそうだねえ~」
しっかりしているくせに、妙なところで弱気になる。なんでもクリアしようとするからだろう。それが出来ない時に落ち込んでいる。
(母と似ている。まさかとは思ったが……)
母と話す機会が増えて、母が完璧主義者だと感じるようになった。黒崎家の中で、全てにおいて完璧にこなそうとしていたことを知った。夏樹もそういう一面がある。俺が守れば良い。
いつの間にか食事の手を止めていたようだ。夏樹から見つめられていた。今朝からの心細そうなものではなく、しっかりとした眼差しだ。無理をしているのだろう。
「夏樹。元気なふりをするな」
「黒崎さんの方だろ?ごめんね。情緒不安定になっていたよ。こんなことじゃ乗り越えられないし、心配かけるよね。だから今まで言えなかったんだ。これからは弱音を吐くよ」
「それは弱音とは言わない。言わないと分からないこともある」
「うん。俺もそう思っているし、分かったことだよ」
「そうか」
「泣いてもいいんだよ?」
夏樹が手を伸ばしてきて、頬に触れてきた。その右手の甲には傷がなく、指先に小さな傷があった。いつの間についていたのかと、軽くショックを受けた。畑でついたそうだ。知らないことはないはずだ。いや、たくさんある。見逃していただけだ。
「黒崎さんはね。背負っているものが多いんだ。小さな頃からだよね。小さな手で頑張ったんだよ。今は大きな手になっても、もっと大きなものを背負っている。俺も持ちたい。少しだけでもさ」
「負担をかけたくない」
「そういう話がしたいんだ。お互いに弱音を吐こうよ。お義父さんとママみたいに、すれ違わないようにしようよ」
「お前がやっている努力は、俺に恥をかかせないためのものだろう?中山のお母さんから、自覚を持って行動しろと言われただろう?」
「うん……」
「お前が受け取った意味と、お母さんが言った意味は違っているようだぞ?」
「え?」
「天然ボケを自覚して、何か指摘されても憎まれ口を叩きすぎるな。悔しくても、ビービー泣くなという意味だ」
「そんなことだったのー?」
「そうだ。納得いくまでやれと言って育ててきたそうだ。だから本人には言えないと前置きされた上で、両親を見習って手抜きをしてほしいと、そう仰っていた」
「ちゃんと言ってよ~~」
夏樹がテーブルの上に突っ伏した。すると、鉄板に手が触れてしまった。
「うわっ、あつ!」
「冷やしに行くぞ」
「あついーー」
「洗面所に行こう」
「平気……、うわああーーん」
「どっちだ?行くぞ」
夏樹が4度目の涙を流しそうになったから、洗面所へ急いだ。夏樹の指先を見ると、わずかに赤みがある程度だった。これなら、冷やせば痛みが治まるだろう。
これから夕食だ。鉄板焼き店に入り、夏樹の好きな海産物をオーダーして食べさせた。機嫌を直してよく笑い、普段よりも食事が進んでいる。たまには食事に出かけようと、夏樹の方から言い出した。
この一か月間、全く外食しようとしなかった。切羽詰まった気持ちを晴らすように、毎日の食事作りをこなしていたのだと話してくれた。完璧主義の負けず嫌いの性格が体に負荷をかけたのだろう。
「黒崎さーん。このホタテが美味しいよ~」
「もっと食え。前菜が残っているぞ?進まないのか?」
「ゆっくり食べているんだ。鯛のマリネと山菜を合わせたやつ。家でも作りたいな」
「ステーキは?」
「うん、食べるよ!」
サーロインステーキ食べているのを見て安心した。本人が意識して食事の量を増やしたのは、悠人の協力が大きい。テイクアウトの料理を持って遊びに来ては、目の前で美味しそうに食べてくれていた。夏樹の方も自然と箸が進んで、胃もたれすら起こさなくなった。
そばにいるスタッフへ、巨峰のシャーベットと珈琲をオーダーした。前菜の鯛のマリネもだ。多めに頼んでやったから喜ぶだろう。夏樹が期待に目を輝かせている。どうも照れくさくなった。
「どうした?」
「ありがとう。会社に呼んでくれて」
「気負う必要はないぞ」
「一度決めたら、やり切りたいんだよ」
「スタートダッシュの必要はない。時と場合を使い分けろ。100%の力を出せば、負荷が掛かった時に耐えられない。80%を心がけろ。追加がきても、20%で受け止められる」
「80%にする方法が分からないんだ」
「たまには寝坊しろ。朝ご飯が作れなかったとか、遅刻するとか、そういう日を増やせ」
「うん。やってみるよ……」
「期待していない。俺が悪かった。シャーベットが来たぞ」
「美味しそうだねえ~」
しっかりしているくせに、妙なところで弱気になる。なんでもクリアしようとするからだろう。それが出来ない時に落ち込んでいる。
(母と似ている。まさかとは思ったが……)
母と話す機会が増えて、母が完璧主義者だと感じるようになった。黒崎家の中で、全てにおいて完璧にこなそうとしていたことを知った。夏樹もそういう一面がある。俺が守れば良い。
いつの間にか食事の手を止めていたようだ。夏樹から見つめられていた。今朝からの心細そうなものではなく、しっかりとした眼差しだ。無理をしているのだろう。
「夏樹。元気なふりをするな」
「黒崎さんの方だろ?ごめんね。情緒不安定になっていたよ。こんなことじゃ乗り越えられないし、心配かけるよね。だから今まで言えなかったんだ。これからは弱音を吐くよ」
「それは弱音とは言わない。言わないと分からないこともある」
「うん。俺もそう思っているし、分かったことだよ」
「そうか」
「泣いてもいいんだよ?」
夏樹が手を伸ばしてきて、頬に触れてきた。その右手の甲には傷がなく、指先に小さな傷があった。いつの間についていたのかと、軽くショックを受けた。畑でついたそうだ。知らないことはないはずだ。いや、たくさんある。見逃していただけだ。
「黒崎さんはね。背負っているものが多いんだ。小さな頃からだよね。小さな手で頑張ったんだよ。今は大きな手になっても、もっと大きなものを背負っている。俺も持ちたい。少しだけでもさ」
「負担をかけたくない」
「そういう話がしたいんだ。お互いに弱音を吐こうよ。お義父さんとママみたいに、すれ違わないようにしようよ」
「お前がやっている努力は、俺に恥をかかせないためのものだろう?中山のお母さんから、自覚を持って行動しろと言われただろう?」
「うん……」
「お前が受け取った意味と、お母さんが言った意味は違っているようだぞ?」
「え?」
「天然ボケを自覚して、何か指摘されても憎まれ口を叩きすぎるな。悔しくても、ビービー泣くなという意味だ」
「そんなことだったのー?」
「そうだ。納得いくまでやれと言って育ててきたそうだ。だから本人には言えないと前置きされた上で、両親を見習って手抜きをしてほしいと、そう仰っていた」
「ちゃんと言ってよ~~」
夏樹がテーブルの上に突っ伏した。すると、鉄板に手が触れてしまった。
「うわっ、あつ!」
「冷やしに行くぞ」
「あついーー」
「洗面所に行こう」
「平気……、うわああーーん」
「どっちだ?行くぞ」
夏樹が4度目の涙を流しそうになったから、洗面所へ急いだ。夏樹の指先を見ると、わずかに赤みがある程度だった。これなら、冷やせば痛みが治まるだろう。
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