夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 ひと通りの話し合いが終わり、雑談の時間を向かえた。視線を落とすのは悪い癖だと自覚しているのに、ついやってしまった。すると、悠人が肩を寄せてきた。さらに、ツンツンと肩を突かれた。

「ゆうとー、どうしたんだよ?」
「不安になっているんだろー?俺がいるから大丈夫だよ」
「バレたか……」
「いつも世話になっているからさ。こういう時ぐらいは根性を見せるよ。一緒に乗り越えるんだ。頑張ろうね!」
「うんっ。自分が情けなくさ」
「いつもの夏樹はどこに行ったんだよー?」

 この和やか空気の中で、俺たちを見ていた人から笑い声が立った。初々しくていいねと、遠藤さんが笑っている。この感じがいいのだと、高宮さんが飯野さんに話しかけた。

 コンコン!

 会議室のドアがノックされた。その後、広報担当部署の3人が席に着き、次の打ち合わせが始まった。これからの活動スケジュールのうち、レコーディング日程やライブの計画についてだ。

「……9月30日に告知予定です。佐久弥のソロ活動PRにも絡めて、メンバー紹介は記者を集めてのものになります……」
「2人には外出時の制限がある。……電車通学は一カ月前から控えて欲しい」
「……当社で車を出します。不便かと思いますが。急にスタジオへ入って頂くこともあります。深夜になったり長時間だったりしますので、安全の確保です」
「はい」

 自分に出来ることは、細かくメモを取ることだ。あとで資料を受け取ったとしても、ここで見聞きしたことの詳細はないかもしれない。悠人はメモを取らずに、遠藤さん達との会話を続けている。ディベートの授業でチームを組んだ時のようだ。

(役割分担が出来ている。今までだったら反対なのに。俺がしゃべって、悠人がメモを取っていんだ。適材適所って、こういうことなのか……)

 話が進むにつれて具体的な内容に入った。ここでやっと、デビューすることを実感できた。コンテストに出場した後、一年に満たずに訪れたチャンスを前にして、現実感がなかった。

「夏樹君。デビューする実感がないだろう?佐伯君は当時を振り返ってどうだった?」
「僕も同じでした。実感したのは、デビューステージの直前でした。2人はしっかりしています。……夏樹、悠人!いいスタートを切っているぞー。自信が無いのは良いことだ。……俺って才能があるからと言いだして、切磋琢磨しなくなる子がいる。君達はその反対だ。伸びしろがある。……そろそろスタジオに入りますか?」

 みんなが席を立ち始めた。これで打ち合わせが終了した。今から場所をスタジオに移して、佐久弥とサポートメンバーとで音合わせをする。準備できた楽曲を、実際にバンドとして演奏して確認するためだ。
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