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24-7(夏樹視点)
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17時半。
お義父さんの家にお邪魔している。今夜はここに泊まる。絨毯の上には、アンの3つのオモチャが転がっている。アンが使うベッド用のクッションと、給水器も並んでいる。俺の荷物はパソコンと絵本、教科書類だ。夕方、大学から帰ってきた後、手早く段ボールに詰めて、ここに来た。
「アンー、それはダメだよ」
「……」
「パパが居なくて寂しいんだね。もうすぐ隆さんが帰ってくるよ。少し留守にしているだけだよ」
「……」
アンも寂しいようだ。黒崎が使っているハンカチで遊んでいる。お義父さんが居れば和らぐだろう。ここで暮らし始めて、全く人を警戒しないようになった。黒崎が可愛がりまくるし、お義父さんがあちこち散歩に連れて行っているからだろう。俺と散歩するときは、この庭限定だということも理解している。その時は走り回ることなく、ピタッとそばに居てくれている。
アンの頭を撫でていると、ドアがノックされた。山崎さんだった。これから夜間のお手伝いさんと交代するそうだ。
「いつもすみません。アンと遊んでもらって」
「いえいえ。アンちゃーん。また明日ね。今晩のお菓子が冷蔵庫にあるからどうぞ。カンテールのフルーツタルトよ」
「ありがとう。久しぶりだなあ」
「おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
山崎さんが帰ったことで、さらにアンが寂しそうにしている。膝の上に抱き上げると着信音が鳴った。黒崎だろうか?
画面を見ると伊吹だった。仕事がひと段落したのだろう。今日は剣道部の子から伊吹の評判を聞いて驚いた。自慢のお兄ちゃんだなと、憧れの目まで向けられた。剣道部のOBとして練習を手伝うことがあり、伊吹は交流がある。
「もしもし。今日はありがとう」
「連絡が遅くなった。奥村のことを剣道部の後輩が説得した。悠人君関連のデータは消去したようだ。バックアップしている分があるかもしれない」
「仕方ないよ。撮られてマズイものはないって、本人が話していたよ」
「何かあればすぐに言え。今度はお兄ちゃんが出て行くぞ」
「頼りになるよ。悠人が憧れているんだって。話がしたいってさ~」
「そうなのか。憧れかー。うひゃひゃひゃ~。お兄ちゃんとしては当然だぞっ。聡太郎に良いところを見せたい思いもあった……」
「そうだよねえ。見直したはずだよ」
「悠人君は可愛いなあ。うひゃひゃーー」
「そろそろ黒崎さんから電話が掛かるんだ。今度ゆっくり話そうよ」
「……そうか。鬼の居ぬ間になんとやらだな」
電話を切った後、ため息が出た。暑苦しい感じはするけれど、頼りになる。すると今度は黒崎から電話が入った。さっきラインを送ったところだった。アンが寂しがっていると。
「黒崎さんからだ~。もしもーし?」
「……いい子にしているか?」
「うん。メニュー作りをしていたよ。お兄ちゃんから電話があったよ。これから店へ移動するの?どんなところ?」
「……料亭だ。まだ時間がある」
この落ち着いた声がホッとする。黒崎がいない間、心置きなく行儀の悪いことができる。それでも寂しい。ため息をついたことで、どうしたんだ?と聞かれた。寂しいと答えると、俺も同じと返ってきた。
「ビデオ通話は出来ないの?」
「……寂しくなるからやめておく」
「そっか……」
今日はいいことがあったのに、なぜか心細い。明日の夕方には帰ってくるし、こうして話しているというのに。出張は月に2回はある。会食で深夜になることは珍しくないのに。どうしてだろう。
「……こら、寂しそうにするな」
「平気だよーー」
「……はいはい。俺が悪かった。今からかけ直す」
「うん」
通話を終えた直後にビデオ通話が掛かってきた。10分程度しか時間はないが、今日のことを教えてくれと言われて嬉しくなった。できるかぎりの報告をした。その間、相づちを打ちながら聞いてくれた。ときどき笑っているから、俺の方も笑った。そして、あっという間に時間が来た。
「まだ早いけど。おやすみ」
「……おやすみ。早く寝ろよ」
「うんっ」
名残惜しくないふりをして通話を終えた。気を取り直して、メニューづくりを再開させようと思った。黒崎が心配しないように。こっちの様子が見えなくても、通じていると思うからだ。
お義父さんの家にお邪魔している。今夜はここに泊まる。絨毯の上には、アンの3つのオモチャが転がっている。アンが使うベッド用のクッションと、給水器も並んでいる。俺の荷物はパソコンと絵本、教科書類だ。夕方、大学から帰ってきた後、手早く段ボールに詰めて、ここに来た。
「アンー、それはダメだよ」
「……」
「パパが居なくて寂しいんだね。もうすぐ隆さんが帰ってくるよ。少し留守にしているだけだよ」
「……」
アンも寂しいようだ。黒崎が使っているハンカチで遊んでいる。お義父さんが居れば和らぐだろう。ここで暮らし始めて、全く人を警戒しないようになった。黒崎が可愛がりまくるし、お義父さんがあちこち散歩に連れて行っているからだろう。俺と散歩するときは、この庭限定だということも理解している。その時は走り回ることなく、ピタッとそばに居てくれている。
アンの頭を撫でていると、ドアがノックされた。山崎さんだった。これから夜間のお手伝いさんと交代するそうだ。
「いつもすみません。アンと遊んでもらって」
「いえいえ。アンちゃーん。また明日ね。今晩のお菓子が冷蔵庫にあるからどうぞ。カンテールのフルーツタルトよ」
「ありがとう。久しぶりだなあ」
「おやすみなさい」
「はい。おやすみなさい」
山崎さんが帰ったことで、さらにアンが寂しそうにしている。膝の上に抱き上げると着信音が鳴った。黒崎だろうか?
画面を見ると伊吹だった。仕事がひと段落したのだろう。今日は剣道部の子から伊吹の評判を聞いて驚いた。自慢のお兄ちゃんだなと、憧れの目まで向けられた。剣道部のOBとして練習を手伝うことがあり、伊吹は交流がある。
「もしもし。今日はありがとう」
「連絡が遅くなった。奥村のことを剣道部の後輩が説得した。悠人君関連のデータは消去したようだ。バックアップしている分があるかもしれない」
「仕方ないよ。撮られてマズイものはないって、本人が話していたよ」
「何かあればすぐに言え。今度はお兄ちゃんが出て行くぞ」
「頼りになるよ。悠人が憧れているんだって。話がしたいってさ~」
「そうなのか。憧れかー。うひゃひゃひゃ~。お兄ちゃんとしては当然だぞっ。聡太郎に良いところを見せたい思いもあった……」
「そうだよねえ。見直したはずだよ」
「悠人君は可愛いなあ。うひゃひゃーー」
「そろそろ黒崎さんから電話が掛かるんだ。今度ゆっくり話そうよ」
「……そうか。鬼の居ぬ間になんとやらだな」
電話を切った後、ため息が出た。暑苦しい感じはするけれど、頼りになる。すると今度は黒崎から電話が入った。さっきラインを送ったところだった。アンが寂しがっていると。
「黒崎さんからだ~。もしもーし?」
「……いい子にしているか?」
「うん。メニュー作りをしていたよ。お兄ちゃんから電話があったよ。これから店へ移動するの?どんなところ?」
「……料亭だ。まだ時間がある」
この落ち着いた声がホッとする。黒崎がいない間、心置きなく行儀の悪いことができる。それでも寂しい。ため息をついたことで、どうしたんだ?と聞かれた。寂しいと答えると、俺も同じと返ってきた。
「ビデオ通話は出来ないの?」
「……寂しくなるからやめておく」
「そっか……」
今日はいいことがあったのに、なぜか心細い。明日の夕方には帰ってくるし、こうして話しているというのに。出張は月に2回はある。会食で深夜になることは珍しくないのに。どうしてだろう。
「……こら、寂しそうにするな」
「平気だよーー」
「……はいはい。俺が悪かった。今からかけ直す」
「うん」
通話を終えた直後にビデオ通話が掛かってきた。10分程度しか時間はないが、今日のことを教えてくれと言われて嬉しくなった。できるかぎりの報告をした。その間、相づちを打ちながら聞いてくれた。ときどき笑っているから、俺の方も笑った。そして、あっという間に時間が来た。
「まだ早いけど。おやすみ」
「……おやすみ。早く寝ろよ」
「うんっ」
名残惜しくないふりをして通話を終えた。気を取り直して、メニューづくりを再開させようと思った。黒崎が心配しないように。こっちの様子が見えなくても、通じていると思うからだ。
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