夏椿の天使~あの日に出会った旋律

夏目奈緖

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 23時。

 なかなか寝付けず、客間のベッドで何度目かの寝返りを打った。そして、電気をつけて、さっき図書室で借りてきた天体観測会の本を読もうとページを開いた。天の川と星空がはっきり写っていて、とても綺麗だ。

 今月、大学では、3年生からの学部選択のエントリーが始まる。俺はよく考えた結果、理学部の惑星環境学科にエントリーすることにした。悠人も同じ学科だ。森本と山崎と真羽も同じく理学部だ。来年まではまだ時間があるのに、大学に入ってあっという間に月日が経ったという気がしている。

 来年は何をしているかな?どこにいるかな?大学では理学部棟が本拠地になり、通学しているのだろう。黒崎も俺もお父さんも元気でいられるかな?そんなことを考えながら、本を閉じた。

 頭の中にあるのは伊吹のことだ。ちょうど俺の年に、株式会社ブロッコリーを立ち上げた。今は若き経営者として新聞記事に特集されることもあるし、今日の対応は早くて驚いた。格好いい兄貴だと思う。俺も自慢の弟になりたいと思っている。それに、万理にも自慢されたい。実家の父にも母にもだ。

 黒崎製菓グループでの勉強のことを思い出した。先生役をしてくれている村山さんからの課題のメールを受け取り、コツコツと進めていくのが今の流れだ。俺がバタバタしているから、課題を減らそうかと言ってくれた。無理なく進めたいと言ってくれている。日常のことも話すようになり、すっかり打ち解けた。プロモーションビデオ撮影のことに興味を持ってくれて、撮影中に思い浮かんだことをメールしている。

「今月の半ばで仕上がっている予定なのか。どんなになるだろうなあ……」

 先週からプロモーションビデオ撮影が始まっている。それに加えて、今月の終わりに大学の定期試験もある。試験に重ならないようなスケジュールを組んでくれた。ありがたいと思っている。踊りの稽古は順調に進んでいるけれど、なかなか思うように踊れなくて、もどかしい思いをしている。

 撮影では悠人と佐久弥が演奏している姿を見ている。2人とも格好いい。俺の踊りの部分がもっと早く進めば、撮影は順調なのだろうと思う。そこで、高宮さんからあることを提案された。映像処理で、綺麗に踊れているように演出する方法だ。それだときちんとやれていない気がして、踊りたいと返事をした。でも、俺の踊りが上達するのを待つと、スケジュールに響くだろう。それが今、引っかかっていることだ。

「みんなが関わっているもんなあ。もっと頑張らないと……」

 黒崎からは、もっとリラックスして考えるようにアドバイスを受けた。でも、今が100%の力の出しどころだとも言われている。悠人も頑張っている。俺がへこたれているわけにはいかない。

「うーーーん。ストレッチをしようっと……」

 ベッドから下りてストレッチを始めた。だんだん身体がぽかぽかと温かくなり、暑くなってきたところでやめた。やっぱり身体の代謝がよくなっているようだ。もっと続けたいと思ったところで、今夜はもうやめておくことにした。

「ここでやめておこうっと。20%の力を抜くやり方なんだよね……」

 黒崎から教わった、力を抜くコツだ。さあ寝よう。本をサイドテーブルに置き直し、電気を消して、ベッドに入った。そして、ゆっくりと目を閉じた。今頃黒崎もベッドに入っているところだといいなと思いながら。
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