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「Visible ray……、IKUエンタテイメント株式会社、代表取締役社長よりご挨拶申し上げます」
会場に流れているアナウンスを聞いて、ますます緊張した。会場に入るとすぐに目に飛び込んできたのが、大型スクリーンだ。今回のプロモーションビデオが流されている。これからステージに立って挨拶をする。
サイドに待機して参加者席を眺めた。眺める、その言葉どおりだ。まるで結婚披露パーティーのようだと思った。立食パーティーのように見えたが、各テーブルに席が設けられている。
プレス向けのお披露目も兼ねているとは言っても、これがプロの世界なのかと圧倒された。くだけたものだと聞いていたのに、大人の雰囲気が漂っているパーティーだ。悠人も同じことを思ったようで、驚いて腰がひけている。
「ひいいいいっ、なつきーーっ」
「普段通りの自分になれないよーーっ」
「変身マントを使おうよ!ダダダー、ギタリストYu-toー!ボーカルNatsukiーーだめだだめだーー、ひいいい……」
「同じ気持ちだよ……」
悠人が変身マントのことを口にした。月夜のレンジャーに出てくるアイテムで、強くなれるという変身グッズだ。それを使うつもりで自分に魔法をかけると、緊張感が薄れていくそうだ。俺も使いたいと思った。
(……Visible rayの、Natsukiに変身しよう!)
そうすれば平気だ。悠人と二人で手を握り合っていると、佐久弥から背中を叩かれた。佐久弥は黒ジャケットに軽いメイクをしている。プライベートの姿に近いし、そのままにも見える。ぼんやりしていると、両方の頬を包み込まれて、目線を合わせてきた。笑っている。
「なつきー、ズバリ指摘していいか?」
「うん!おかしいところを教えて」
「Visible rayのボーカルに変身しようとしているだろー?」
「うん……。公式の場だし」
「その必要はない。無理に作り上げたものは不自然だ」
「ステージを盛り上げたいんだ」
「……そうか」
佐久弥が真剣な顔に変わった。漂っている空気が一瞬にして変わった。強く引き寄せられるような感じだ。
「……おまえは黒崎夏樹だ。かつ、Visible rayのNatsukiだ。違う人になろうとするな。根性見せろって言ったから、誤解させたんだろう。……今から思うとおりにやってみろ。俺がフォローする。黒崎夏樹として、ステージに出てみろ!」
こんな佐久弥は初めてだ。励まされている時でも笑っていた。今は違う人のようだ。目に力があるのは同じでも、切られそうなほどに鋭い。怖くて目を逸らしたくなった。こんなことも初めてだ。ここまで自分は弱い人間だったのか?強くても弱くてもいい。そう思っていたのに。唇がガタガタと震えているのが自分でも分かる。みっともなくて情けない。今まで平気だったのは虚勢だったのか?やっと気がついた。やっと本音を出すことができる。黒崎以外の相手に。いや、黒崎にも言えない部分かもしれない。
「そうしないと怖いからだよ。今さらだって分かっているよ。だったら仕事を引き受けるなって……」
「それで構わない。……俺は完璧な人には魅力を感じない。グッチャグチャに悩んで泣いて、表では笑っているやつが好きだ。親しい人の前で弱音を吐くやつだ」
佐久弥から抱きしめられた。心配するな、俺たちがいる。フォローする、思う存分やれ!そう聞こえている。
いつの間にか、新しい体温と匂いを感じた。悠人も抱きついていた。見上げてきた目は潤んでいる。抱きしめようとしたら、パッと離れて立った。今度は仁王立ちになり、真っ直ぐに見つめてきた。
「なつきー。大丈夫だよ。俺だって弱いし、変身マントを使おうとしたもん。やめるって決めた!」
「ゆうとー……」
「もしも倒れたら?……俺が左側を支えるから、安心してぶっ倒れろよ!支え切れなくても下敷きになる。少しは痛みがマシだ!」
「うぇ……」
「思う存分に倒れろよ。俺は男だ!」
「……分かったか?」
今度は優しい声がした。佐久弥のものだった。抱きしめてきた腕が温かい。
「せっかくのメイクが崩れるぞ。……それでもいいか。夏樹は夏樹だ。こういうメイクは、ステージ映えするためのものだぞ?着ぐるみのようなものだ。ウサギーっているだろう?遊園地に。トラッコとか。それと同じだ。お前が中身だ。黒崎夏樹だ!」
「さくやーー、リスペクトするよ!」
「よく言った!」
悠人と佐久弥が抱き合った。悠人は笑っていた。そして、俺の方へ向き、左手を差し伸べてきた。早瀬さんから贈られた腕時計と指輪がある。俺の左手にも指輪がついている。左手の拳を合わせて、ゴチゴチやった。けっこう痛くて笑えた。
「あいさつが始まります。入ってくださーーい!」
「はい!」
「はいっ」
ステージへの呼び出しがかかった。あいさつを済ませた遠藤さんから迎えられた。自分は黒崎夏樹だ。Visible rayのNatsukiでもある。ほかの誰でもない。伊吹が言ったような、妖怪ではないのだから。
会場に流れているアナウンスを聞いて、ますます緊張した。会場に入るとすぐに目に飛び込んできたのが、大型スクリーンだ。今回のプロモーションビデオが流されている。これからステージに立って挨拶をする。
サイドに待機して参加者席を眺めた。眺める、その言葉どおりだ。まるで結婚披露パーティーのようだと思った。立食パーティーのように見えたが、各テーブルに席が設けられている。
プレス向けのお披露目も兼ねているとは言っても、これがプロの世界なのかと圧倒された。くだけたものだと聞いていたのに、大人の雰囲気が漂っているパーティーだ。悠人も同じことを思ったようで、驚いて腰がひけている。
「ひいいいいっ、なつきーーっ」
「普段通りの自分になれないよーーっ」
「変身マントを使おうよ!ダダダー、ギタリストYu-toー!ボーカルNatsukiーーだめだだめだーー、ひいいい……」
「同じ気持ちだよ……」
悠人が変身マントのことを口にした。月夜のレンジャーに出てくるアイテムで、強くなれるという変身グッズだ。それを使うつもりで自分に魔法をかけると、緊張感が薄れていくそうだ。俺も使いたいと思った。
(……Visible rayの、Natsukiに変身しよう!)
そうすれば平気だ。悠人と二人で手を握り合っていると、佐久弥から背中を叩かれた。佐久弥は黒ジャケットに軽いメイクをしている。プライベートの姿に近いし、そのままにも見える。ぼんやりしていると、両方の頬を包み込まれて、目線を合わせてきた。笑っている。
「なつきー、ズバリ指摘していいか?」
「うん!おかしいところを教えて」
「Visible rayのボーカルに変身しようとしているだろー?」
「うん……。公式の場だし」
「その必要はない。無理に作り上げたものは不自然だ」
「ステージを盛り上げたいんだ」
「……そうか」
佐久弥が真剣な顔に変わった。漂っている空気が一瞬にして変わった。強く引き寄せられるような感じだ。
「……おまえは黒崎夏樹だ。かつ、Visible rayのNatsukiだ。違う人になろうとするな。根性見せろって言ったから、誤解させたんだろう。……今から思うとおりにやってみろ。俺がフォローする。黒崎夏樹として、ステージに出てみろ!」
こんな佐久弥は初めてだ。励まされている時でも笑っていた。今は違う人のようだ。目に力があるのは同じでも、切られそうなほどに鋭い。怖くて目を逸らしたくなった。こんなことも初めてだ。ここまで自分は弱い人間だったのか?強くても弱くてもいい。そう思っていたのに。唇がガタガタと震えているのが自分でも分かる。みっともなくて情けない。今まで平気だったのは虚勢だったのか?やっと気がついた。やっと本音を出すことができる。黒崎以外の相手に。いや、黒崎にも言えない部分かもしれない。
「そうしないと怖いからだよ。今さらだって分かっているよ。だったら仕事を引き受けるなって……」
「それで構わない。……俺は完璧な人には魅力を感じない。グッチャグチャに悩んで泣いて、表では笑っているやつが好きだ。親しい人の前で弱音を吐くやつだ」
佐久弥から抱きしめられた。心配するな、俺たちがいる。フォローする、思う存分やれ!そう聞こえている。
いつの間にか、新しい体温と匂いを感じた。悠人も抱きついていた。見上げてきた目は潤んでいる。抱きしめようとしたら、パッと離れて立った。今度は仁王立ちになり、真っ直ぐに見つめてきた。
「なつきー。大丈夫だよ。俺だって弱いし、変身マントを使おうとしたもん。やめるって決めた!」
「ゆうとー……」
「もしも倒れたら?……俺が左側を支えるから、安心してぶっ倒れろよ!支え切れなくても下敷きになる。少しは痛みがマシだ!」
「うぇ……」
「思う存分に倒れろよ。俺は男だ!」
「……分かったか?」
今度は優しい声がした。佐久弥のものだった。抱きしめてきた腕が温かい。
「せっかくのメイクが崩れるぞ。……それでもいいか。夏樹は夏樹だ。こういうメイクは、ステージ映えするためのものだぞ?着ぐるみのようなものだ。ウサギーっているだろう?遊園地に。トラッコとか。それと同じだ。お前が中身だ。黒崎夏樹だ!」
「さくやーー、リスペクトするよ!」
「よく言った!」
悠人と佐久弥が抱き合った。悠人は笑っていた。そして、俺の方へ向き、左手を差し伸べてきた。早瀬さんから贈られた腕時計と指輪がある。俺の左手にも指輪がついている。左手の拳を合わせて、ゴチゴチやった。けっこう痛くて笑えた。
「あいさつが始まります。入ってくださーーい!」
「はい!」
「はいっ」
ステージへの呼び出しがかかった。あいさつを済ませた遠藤さんから迎えられた。自分は黒崎夏樹だ。Visible rayのNatsukiでもある。ほかの誰でもない。伊吹が言ったような、妖怪ではないのだから。
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