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俺達は静まりかえっている。テレビの音声だけが聞こえてくる状況になった。黒崎は感情豊かなくせに表に出さないから、相手に誤解させるケースばかりだった。俺にもそうだった。今回はそうならないようにしてもらいたい。
倉口さんに二葉を会わせたくないのは、ママの時のように、盗られるかもしれないからだ。そうなるとは限らないのに。二葉は地元に戻らないと言い切った。冷たい水が溜まったままでいいのだろうか?
「ママは戻りたがっているのかな?忙しくしているのに」
「戻りたがってはいない。俺が説得したからだ。モデルスクールの立ち上げに集中できるように、あちこちで段取りを取った」
「知り合いを増やしたの?」
「スポンサー企業をつけた。やっていけるわけがないからだ。千尋製菓についてもらった。軌道に乗っている」
「だから黒崎さんに遠慮しているんだね。二葉ちゃん、ママから小遣いを渡されているよね?お昼ご飯と、飲み物が買えるぐらいの金額だよ。貯金できないぐらいの。向こうへ行く交通費にしないため?」
「あの人もそうしていたのか……」
「そうだよ。バイトを始めるとしたら?コソコソ会いに行かれたくないだろ?堂々と……」
「どうしても引っかかっている」
今は二葉の気持ちを優先させたい。大学受験が目の前だから集中できないだろう。黒崎との関係が悪くなるかもしれない。お義父さんから、ママと会うのを阻まれていたように。
椅子から立ち上った。黒崎の隣に座って抱きついた。これでだめなら諦めよう。少しはクッションになるだろう。この人は肝心なことを話さない。
「ママに会いたかっただろ?遠目からでも見て、心の中でお別れしようとしたんだよね?……二葉ちゃんも同じだろ?何年かすれば、一人で会いに行くかもしれないけど。お別れしたいと思う。あんたの妹だよ、考え方が似ているもん」
「夏樹、まだ無理だ」
「黒崎さん!俺が撮影の後で倒れたじゃん。ママもモデル時代に同じことがあったんだよね?心のバランスを崩したんだよね?この家に来てからも。お義父さんしか相談相手がいないのに、真逆のことをやって、すれ違ったんだよね?守とうとして、守っていなかったっていう。……そんなママのことを、倉口さんが励ましたんだよ。だから、二葉ちゃんと朝陽のことを可愛がれたんだ。この家から出て楽になったんだろうけど。……俺には、支えてくれる人がいたんだ。黒崎さんも悠人たちもいる。ママには誰もいなかった。そういうことだよね?」
「痛いところを突くな……」
「あんたの心を守るためだもん。これは命令だ。飛行機の手配をしろ!」
「夏樹、それを言うな」
「二度も言わせるな!」
命令だ。二度も言わせるな。黒崎から言われて傷ついたことがある。こういう時に使うものだ。
「二葉ちゃんに電話するよ。あんたは飛行機の手配をしてね」
「あのなあ……」
「口をきかないよ。しばらくお義父さんの家に行くからねっ。アンも連れて行くよ」
「夏樹……」
「俺と自分の頑固な心、どっちを取る?二葉ちゃんに約束してもらおうよ。黙って居なくならないって。ママにも。ね?そうしようね?」
「ああ……」
黒崎がとうとう折れた。がっくりと項垂れている。自分のことと俺のこと、どちらを取るのか聞いたところ、俺の方が重かったようだ。よかった。
「今日は俺の勝ちだね。お義父さんに話してくるよ。二葉ちゃんに電話しろよ」
「親父にか?」
「あんたが二葉ちゃんに付き添うからだよ。留守にするって伝えておかないねえ」
「負けた……」
「だってさ。今の状態だと。お義父さんに、あんたのせいだ、バカヤロウ!って言いそうだもん。80歳が近いのに可哀想だよー」
「そんな男じゃないぞ……」
「ああー、忙しいなあ。早くしないと出勤時間が来るよ~。今日、お義父さんは休みだから。すぐ戻ってくるからね」
「ありがとう……」
「仕掛け絵本10冊でいいからね~」
黒崎の耳たぶを引っ張った。さっそくお義父さんの家に行くと、黒崎に全部任せるという答えをもらった。すぐに話が進んでいき、今月末に会いに行くことに決まった。この新しい分岐点は、いい未来に前進するためのものだ。そう思ってお節介をする。そう決めた。
倉口さんに二葉を会わせたくないのは、ママの時のように、盗られるかもしれないからだ。そうなるとは限らないのに。二葉は地元に戻らないと言い切った。冷たい水が溜まったままでいいのだろうか?
「ママは戻りたがっているのかな?忙しくしているのに」
「戻りたがってはいない。俺が説得したからだ。モデルスクールの立ち上げに集中できるように、あちこちで段取りを取った」
「知り合いを増やしたの?」
「スポンサー企業をつけた。やっていけるわけがないからだ。千尋製菓についてもらった。軌道に乗っている」
「だから黒崎さんに遠慮しているんだね。二葉ちゃん、ママから小遣いを渡されているよね?お昼ご飯と、飲み物が買えるぐらいの金額だよ。貯金できないぐらいの。向こうへ行く交通費にしないため?」
「あの人もそうしていたのか……」
「そうだよ。バイトを始めるとしたら?コソコソ会いに行かれたくないだろ?堂々と……」
「どうしても引っかかっている」
今は二葉の気持ちを優先させたい。大学受験が目の前だから集中できないだろう。黒崎との関係が悪くなるかもしれない。お義父さんから、ママと会うのを阻まれていたように。
椅子から立ち上った。黒崎の隣に座って抱きついた。これでだめなら諦めよう。少しはクッションになるだろう。この人は肝心なことを話さない。
「ママに会いたかっただろ?遠目からでも見て、心の中でお別れしようとしたんだよね?……二葉ちゃんも同じだろ?何年かすれば、一人で会いに行くかもしれないけど。お別れしたいと思う。あんたの妹だよ、考え方が似ているもん」
「夏樹、まだ無理だ」
「黒崎さん!俺が撮影の後で倒れたじゃん。ママもモデル時代に同じことがあったんだよね?心のバランスを崩したんだよね?この家に来てからも。お義父さんしか相談相手がいないのに、真逆のことをやって、すれ違ったんだよね?守とうとして、守っていなかったっていう。……そんなママのことを、倉口さんが励ましたんだよ。だから、二葉ちゃんと朝陽のことを可愛がれたんだ。この家から出て楽になったんだろうけど。……俺には、支えてくれる人がいたんだ。黒崎さんも悠人たちもいる。ママには誰もいなかった。そういうことだよね?」
「痛いところを突くな……」
「あんたの心を守るためだもん。これは命令だ。飛行機の手配をしろ!」
「夏樹、それを言うな」
「二度も言わせるな!」
命令だ。二度も言わせるな。黒崎から言われて傷ついたことがある。こういう時に使うものだ。
「二葉ちゃんに電話するよ。あんたは飛行機の手配をしてね」
「あのなあ……」
「口をきかないよ。しばらくお義父さんの家に行くからねっ。アンも連れて行くよ」
「夏樹……」
「俺と自分の頑固な心、どっちを取る?二葉ちゃんに約束してもらおうよ。黙って居なくならないって。ママにも。ね?そうしようね?」
「ああ……」
黒崎がとうとう折れた。がっくりと項垂れている。自分のことと俺のこと、どちらを取るのか聞いたところ、俺の方が重かったようだ。よかった。
「今日は俺の勝ちだね。お義父さんに話してくるよ。二葉ちゃんに電話しろよ」
「親父にか?」
「あんたが二葉ちゃんに付き添うからだよ。留守にするって伝えておかないねえ」
「負けた……」
「だってさ。今の状態だと。お義父さんに、あんたのせいだ、バカヤロウ!って言いそうだもん。80歳が近いのに可哀想だよー」
「そんな男じゃないぞ……」
「ああー、忙しいなあ。早くしないと出勤時間が来るよ~。今日、お義父さんは休みだから。すぐ戻ってくるからね」
「ありがとう……」
「仕掛け絵本10冊でいいからね~」
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