334 / 348
30-11
しおりを挟む
ベテルギウス楽曲の紹介欄に、IRON ANGELのことが載っていることを教えてくれた。高揚した気持ちで、ページを再読み込みした。
最初に目に飛び込んできたのが、1月のバンドコンテストで撮った写真だ。あれから9ヶ月が経ったのかと、懐かしい気持ちになった。IRON ANGELの写真を使ってもらえるなんて知らなかった。
「ゆうとー、このまま待っていてね。……10月1日発売、ベテルギウス・カバーアルバム。20人のアーティストが参加。……№3 Visible ray 10月30日デビューを迎える、ボーカルのNatsuki、ギタリストのyu-to。IRON ANGEL活動中に……っ」
「どうーー?見てるーー?」
「なんだよ。悠人の方こそ半泣きじゃん。佐久弥から誘われたよね。俺も一緒に……」
「うん。考えてよ!待っているから……っ」
まだデビュー前だというのに、佐久弥から、一年後のバンド活動の誘いを受けた。その時のバンド名を、Dear Dropsにしたいことも。ディアドロップの表記に、”S”を付ける。親愛なる雫という意味だ。
佐久弥がデビューする時のバンド名は、”アンディープ”にする予定だった。早瀬さんと一緒にやっていたバンドの名前だ。それを、ディアドロップに変更した。早瀬さんが名付け親だ。でも2人が別れた後だった。
「……なつきー。裕理さんから聞いた話を伝えるよ。黒崎さんには話してあるそうだよ。今日まで内緒にしてもらったんだって。ディアドロップの名前の由来のことだよ」
「どんな話?誰かにあてたものかな?」
「そうだよ。裕理さんと佐久弥がプロデビューのオファーを受けた時、もう一人も誘われたんだ……」
悠人から嗚咽が聞こえなくなった。そして、しっかりした口調で話してくれた。そのメンバーとは、ベーシストの"SHIZUKU"という人だ。プロの道を選んだ一か月後に、事故で亡くなったそうだ。
「……49日の法要の時に、お寺の木に朝露が残っていて、植本さんが雫だって言ったそうだんだ。それで、早瀬さんが、バンド名を親愛なる雫で、ディアドロップにしたらどうかって言ったそうなんだよ。裕理さんからの笑い話なんだけど、SHIZUKUさんって、面白い人だったみたい。名前の字が、静と久で静久なんだけど、性格は真逆だったそうだよーー。凄く賑やかで、佐久弥が怒っていたレベルだって。……‥静かって名前のくせに。久しぶりに静かになってくれ!ってさ。……佐久弥の家に遊びにきたら、理久のことをイジっていたんだって。こんな話も聞いたよ……」
発明好きな理久を見て、静久さんはこう言ったそうだ。理久君と同じタイプに会ったことがない。またとない、ユニークな君のことが好きだ。そう言葉をかけられた理久が喜び、すぐに懐いたそうだ。
さらに悠人の話を聞いて、佐久弥から伝えられた話がよく分かった。小さい頃の理久は深く考えるタイプであり、とても慎重な子だった。それに気づいた静久さんが、理久にこう言った。そこまで深く考えるなと。そして、佐久弥がバンド名としてつけた。Not deepと。
「……それでねー。静久さんから、”もっとディープだと?久弥君、どうしたんだ?”ってイジられた。それを理久のいる前で言ったから、君の場合は深く考えろって、佐久弥が怒った。……‥それで、裕理さんが、”undeep”って名付けたんだってさーー。……でも、理久は深く考えていないふりをしているよね?」
「うん。佐久弥から電話があったんだ。理久が脱却するって宣言したそうだよ。俺たちも頑張ろうね」
「うん。頑張ろうねー」
「黒崎さんのお土産話を聞いてもらいたい。明日、うちにおいでよ。……うん。じゃあね。お休み」
「ばいばい。また明日ね。行くときに電話するよ!」
ばいばい、また明日ね。電話するよ。これは悠人からの魔法の呪文だ。誰でも使えて相手が喜ぶものだと言い、早瀬さんが教えてくれたそうだ。俺もそう思う。
ディアドロップの名前の由来が聞けて良かった。そばにいる黒崎は知っていたそうだ。なんで黙っていたんだよ?そういう文句を飲み込んだ後、胸の上にのしかかってやった。
「黒崎さーん。また明日ね~~。名前の由来を黙っていたなんて、もう口をきかないよ」
「日付が変わったばかりだぞ」
「そうだよ~。おやすみなさい」
「おやすみ。お前は天真爛漫になっておけ。愛している」
「……朝起きたら口をきくよ。……うん」
「起こしてやるから寝坊しろ」
まるでゆりかごの中で眠っているかのようだ。温かい体が心地いい。背中を優しく撫でる力も。
10月1日。新しい道が開かれた。ドアはノック済みだ。開いてある。そのドアを開いて、第一歩を踏み出して、外に出たんだ。
最初に目に飛び込んできたのが、1月のバンドコンテストで撮った写真だ。あれから9ヶ月が経ったのかと、懐かしい気持ちになった。IRON ANGELの写真を使ってもらえるなんて知らなかった。
「ゆうとー、このまま待っていてね。……10月1日発売、ベテルギウス・カバーアルバム。20人のアーティストが参加。……№3 Visible ray 10月30日デビューを迎える、ボーカルのNatsuki、ギタリストのyu-to。IRON ANGEL活動中に……っ」
「どうーー?見てるーー?」
「なんだよ。悠人の方こそ半泣きじゃん。佐久弥から誘われたよね。俺も一緒に……」
「うん。考えてよ!待っているから……っ」
まだデビュー前だというのに、佐久弥から、一年後のバンド活動の誘いを受けた。その時のバンド名を、Dear Dropsにしたいことも。ディアドロップの表記に、”S”を付ける。親愛なる雫という意味だ。
佐久弥がデビューする時のバンド名は、”アンディープ”にする予定だった。早瀬さんと一緒にやっていたバンドの名前だ。それを、ディアドロップに変更した。早瀬さんが名付け親だ。でも2人が別れた後だった。
「……なつきー。裕理さんから聞いた話を伝えるよ。黒崎さんには話してあるそうだよ。今日まで内緒にしてもらったんだって。ディアドロップの名前の由来のことだよ」
「どんな話?誰かにあてたものかな?」
「そうだよ。裕理さんと佐久弥がプロデビューのオファーを受けた時、もう一人も誘われたんだ……」
悠人から嗚咽が聞こえなくなった。そして、しっかりした口調で話してくれた。そのメンバーとは、ベーシストの"SHIZUKU"という人だ。プロの道を選んだ一か月後に、事故で亡くなったそうだ。
「……49日の法要の時に、お寺の木に朝露が残っていて、植本さんが雫だって言ったそうだんだ。それで、早瀬さんが、バンド名を親愛なる雫で、ディアドロップにしたらどうかって言ったそうなんだよ。裕理さんからの笑い話なんだけど、SHIZUKUさんって、面白い人だったみたい。名前の字が、静と久で静久なんだけど、性格は真逆だったそうだよーー。凄く賑やかで、佐久弥が怒っていたレベルだって。……‥静かって名前のくせに。久しぶりに静かになってくれ!ってさ。……佐久弥の家に遊びにきたら、理久のことをイジっていたんだって。こんな話も聞いたよ……」
発明好きな理久を見て、静久さんはこう言ったそうだ。理久君と同じタイプに会ったことがない。またとない、ユニークな君のことが好きだ。そう言葉をかけられた理久が喜び、すぐに懐いたそうだ。
さらに悠人の話を聞いて、佐久弥から伝えられた話がよく分かった。小さい頃の理久は深く考えるタイプであり、とても慎重な子だった。それに気づいた静久さんが、理久にこう言った。そこまで深く考えるなと。そして、佐久弥がバンド名としてつけた。Not deepと。
「……それでねー。静久さんから、”もっとディープだと?久弥君、どうしたんだ?”ってイジられた。それを理久のいる前で言ったから、君の場合は深く考えろって、佐久弥が怒った。……‥それで、裕理さんが、”undeep”って名付けたんだってさーー。……でも、理久は深く考えていないふりをしているよね?」
「うん。佐久弥から電話があったんだ。理久が脱却するって宣言したそうだよ。俺たちも頑張ろうね」
「うん。頑張ろうねー」
「黒崎さんのお土産話を聞いてもらいたい。明日、うちにおいでよ。……うん。じゃあね。お休み」
「ばいばい。また明日ね。行くときに電話するよ!」
ばいばい、また明日ね。電話するよ。これは悠人からの魔法の呪文だ。誰でも使えて相手が喜ぶものだと言い、早瀬さんが教えてくれたそうだ。俺もそう思う。
ディアドロップの名前の由来が聞けて良かった。そばにいる黒崎は知っていたそうだ。なんで黙っていたんだよ?そういう文句を飲み込んだ後、胸の上にのしかかってやった。
「黒崎さーん。また明日ね~~。名前の由来を黙っていたなんて、もう口をきかないよ」
「日付が変わったばかりだぞ」
「そうだよ~。おやすみなさい」
「おやすみ。お前は天真爛漫になっておけ。愛している」
「……朝起きたら口をきくよ。……うん」
「起こしてやるから寝坊しろ」
まるでゆりかごの中で眠っているかのようだ。温かい体が心地いい。背中を優しく撫でる力も。
10月1日。新しい道が開かれた。ドアはノック済みだ。開いてある。そのドアを開いて、第一歩を踏み出して、外に出たんだ。
0
あなたにおすすめの小説
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?
甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。
だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。
魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。
みたいな話し。
孤独な魔王×孤独な人間
サブCPに人間の王×吸血鬼の従者
11/18.完結しました。
今後、番外編等考えてみようと思います。
こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
取り残された隠者様は近衛騎士とは結婚しない
二ッ木ヨウカ
BL
一途な近衛騎士×異世界取り残され転移者
12年前、バハール王国に召喚された形代柚季は「女王の身代わり要員」として半引きこもり生活をしていたが、ある日婚活を始めることに。
「あなたを守りたい」と名乗りを上げてきたのは近衛騎士のベルカント。
だが、近衛騎士は女王を守るための職。恋愛は許されていないし、辞める際にもペナルティがある。
好きだからこそベルカントを選べず、地位目当てのホテル経営者、ランシェとの結婚を柚季は決める。
しかしランシェの本当の狙いは地位ではなく――
大事だから傷つけたくない。
けれど、好きだから選べない。
「身代わりとなって、誰かの役に立つことが幸せ」そう自分でも信じていたのに。
「生きる」という、柔らかくて甘い絶望を呑み込んで、
一人の引きこもりが「それでもあなたと添い遂げたい」と言えるようになるまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる