夏椿の天使～あの日に出会った旋律

31-8

　…………Visible ray……ray of light…………

　…………３、２、１…………

　静まり返った会場内からは、観客の息づかいが聞こえている。高揚した気分でいてくれるだろうか？佐久弥が登場するのを待っているの？悠人かな？もしかすると俺かな？今夜、同じ場所で、同じ時間を共有しているということだ。みんなでステージを作り上げるよう。そのお手伝いをする。

　前方と後方の間に黒い幕が下りている。その前に立った。上部から真っ直ぐに差し込んでいるのは、白い光だ。何本も並んで降りているから、白い檻のようだ。観客席からもそう見えるだろう。その奥で日本舞踊の形を取っている。

　……カタン、デンデン……シャンシャンシャン……

　佐久弥が奏でている三味線の音が会場内に響いている。このステージだけのバージョンだ。シンと静まり返った中、三味線のリズムに合わせて踊りを始めた。

　……デンデンデン……シャンシャンシャン……

　次第にリズムが速くなっていく。もう一度、自分の声で吹き込んだ開幕メッセージが流れ始めて、早送りのように流れされていく。そして、最後の『ゼロ』のカウントが告げられた。

　ガーーーーーーー！

　爆発的な泣き声のようなギターフレーズが響き渡り、赤い着物を脱ぎ捨てた。そして、女性形で立っていた体を正面に向けて、男性形の踊りに変えた。

　これは佐久弥の生まれ変わりを意味する。イメージで作り上げた世界で彼は死んだ。この赤い着物は、佐久弥からあふれ出した血だ。この長い袖は、全身から滴り落ちる血だ。

　たまには誰かに変身して、楽しんでみるといい。たとえば、ハロウィンの日に。偽りの現実から出て行くドアは存在しない。あの白い檻だけだ。それを開くことができないのなら、白い檻を蹴飛ばして、起き上がろう。

　バーーーーン！！

　ダダダダダーーー！

　花火と同時に幕が落ちた。赤い照明が舞台を包んだ。あの檻はどこにも存在しない。

　ワーーーー！ワーーー！

　スタンドマイクの前に立ち、開幕のシャウトをあげた。

「……‥ray of light！……‥Get upーー！！」

　ワーーーー！

　スタートは成功か？

　振り上げられた腕。ジャンプをして波打っている観客たちが答えだった。　

「……‥See……‥with your own eyes－－！」

　ここからが光線銃へのステップだ。スピーカーから出ている歌声にエフェクトがかかった。スタートだ。

　タタタッターーーー！

「……you life will pass…… you life will pass……Merry……go……‥round……‥３、２、１……」

　自分の鼓動のリズムを感じている。一秒がスローモーションのようだ。悠人のギターフレーズが変化した。開始の合図だ。ありったけの声を張り上げた。

「……‥I'll be your side ……いくぞーーー！兄弟ーーー！」

　左腕を振り上げた。ドラム音、ギターフレーズの一秒未満の停止、背後、上部からの強い光、一瞬の輝き。全てのタイミングが合った。

　バーーーーン！！　

　ナツキーー！ユーートーー！

　なつきコール、ゆうとコールが起こった。認めてもらえた。最後まで駆け抜けたあと、出来るだけ多くの人の顔を覚えて帰ろう。次に会ったときに声をかけたい。久しぶり！と。もう誰のことも怖くない。白い檻に閉じこもっていたのは自分の意思だった。教えてくれてありがとう。
　
　白い雫が涙として頬をつたった。親愛なるメンバーと手を握り合い、目の前に広がる光景を、この目に焼き付けた。

　嬉しい涙？悲しい涙？どっちかな？

　－－その答えは“うれし泣き”。

　ポタっと落ちて、水玉模様を作った。次第に広がって、降り注ぐライトを反射した。まるで宝石のように輝き始めた時、親愛なるメンバーの雫も輝いたんだ。