343 / 348
31-9(黒崎視点)
しおりを挟む
……ヴィジブルレイーー!ナツキーーー!
……ユーートー!……サクヤーー!
……アンコーールーー!
アンコールを呼びかける歓声が起きている。今回は一曲のみのステージだと聞いている。後は佐久弥のMCがあり、IKU所属のミュージックシャンが登場するそうだ。
するとその時だ。斜め後ろから肩を叩かれた。沙耶だった。仕事帰りらしい。今、大きな案件を抱えていると聞いているが、来てくれた。無理をしたのではないだろうか。
「ごめんなさい。遅くなったわ。ステージ開始までに間に合ったの。向こうで聴かせてもらったから」
「来てくれてありがとう」
「黒崎君!?」
「どうした?」
「そんな言葉が出てくるなんて……。誰かに改造された?」
「バカヤロウ」
「ふうん……。あとでゆっくり話しましょうね。あら、メンバーが出てきたわよ!アンコールじゃないかしら?」
「夏樹……。息が切れていない」
「そうね。白い檻を蹴り倒したもの。まるで病院のベッドみたいだった」
ステージが明るくなっている。メンバーが戻ってきた。汗に濡れた顔をタオルで拭きながら、夏樹がスタンドマイクの前に立った。
「……‥アンコールに応えてもいいですかーー?」
いいよーーー!
「……‥俺たちが尊敬する、先輩の楽曲を演奏します!ベテルギウス、新曲!……そのままのあなたが大好きーー!」
ワーーーーー!
夏樹のシャウトが響き渡った。観客からの声援で会場内が揺れた。本当に500名が招待されたのだろうか?数倍に感じた。床から伝わる振動が長引いている。夏樹がフラついた。悠人が心配そうな顔になったが、ひまわりのような笑顔が戻り、強いオーラを放った。その後、佐久弥の声が響きわたった。マイクを通していない。
「……‥かぶれーーーー!俺が許すーーー!苦情はナッシングーー!」
あにきーーーー!
夏樹が仁王立ちして、真剣な顔をした。ただし、これからやろうとしていることは笑いを起こすものだ。佐久弥の手より、2Lのペットボトルの水が浴びせられた。悠人が逃げ回った後、佐久弥を蹴り飛ばす動作をやった。
「……‥ひいいいいっ。強要だーーー!」
ワーーーーー!
ひいいいいいいー!
「……ボーカル!なつきーー、ぬげー!上半身だけだーー!」
「……トリャーーー!」
トリャーーー!
ずぶ濡れになったジャケットとシャツを脱ぎ捨て、それを豪快に観客席に放り込げたことで歓声があがった。ジャケットが奪い合いになっている。俺は言葉を失った。荒っぽい夏樹を見るのは久しぶりだからだ。
「……いくぞーー!おらぁーー!兄弟ーーー!」
ワーーーー!
「……みんないくぞーーー!やっちまおうぜーーー!わたしで……いいのかなーー?おーーー!……‥」
ドーーーン!
「……‥わたしでいいのかなー?yeah!yeah!yeah!……困らせてごめんね!……yeah!yeah---!……」
アニキーーー!
ついていくよーーー!
夏樹の歌声に驚いて言葉を失った。どこからこの低音が出てきたのか?と。沙耶から教えてもらった。デスボイスというものだと。それを、このポップな楽曲に合わせている。悠人も合わせて飛び跳ねている。夏樹が踊りながら歌っている。全くの違和感がない。沙耶が笑い出して、椅子の背にもたれかかった。
「……やだ、ときめいたわーー。どうしようかしら。今の夏樹君は別人よ。わたしの予言の通り。3年後は男らしい外見になって、女の子から悲鳴が上がるわよって。そのものじゃない。背が伸びたでしょう?」
「……衣装のせいだろう」
「年明けに会った時、目線の高さが違っていたの。175センチよね?もっとあるでしょう。あんたも背が伸びたのかしら?」
「これ以上は伸びなくてかまわない」
(ぶっ倒れるまでやれ。迎えに行ってやる……)
演奏が終了した後、佐久弥がメンバーを集めた。観客に手を振った後、5人で両手をつなぎ合った。掛け声に合わせてジャンプをした。仙頭カメラマンがシャッターを切っていた。汗と涙にぬれた笑顔が輝いている。迎えに行こう。ステージサイドで待つ約束をした。
「お母さん。サイドへ行きましょう」
「ええ……」
中山の義母に声を掛けると、両目から涙をこぼしていた。声も立てずに。まっすぐに息子のことを見つめていた。
……ユーートー!……サクヤーー!
……アンコーールーー!
アンコールを呼びかける歓声が起きている。今回は一曲のみのステージだと聞いている。後は佐久弥のMCがあり、IKU所属のミュージックシャンが登場するそうだ。
するとその時だ。斜め後ろから肩を叩かれた。沙耶だった。仕事帰りらしい。今、大きな案件を抱えていると聞いているが、来てくれた。無理をしたのではないだろうか。
「ごめんなさい。遅くなったわ。ステージ開始までに間に合ったの。向こうで聴かせてもらったから」
「来てくれてありがとう」
「黒崎君!?」
「どうした?」
「そんな言葉が出てくるなんて……。誰かに改造された?」
「バカヤロウ」
「ふうん……。あとでゆっくり話しましょうね。あら、メンバーが出てきたわよ!アンコールじゃないかしら?」
「夏樹……。息が切れていない」
「そうね。白い檻を蹴り倒したもの。まるで病院のベッドみたいだった」
ステージが明るくなっている。メンバーが戻ってきた。汗に濡れた顔をタオルで拭きながら、夏樹がスタンドマイクの前に立った。
「……‥アンコールに応えてもいいですかーー?」
いいよーーー!
「……‥俺たちが尊敬する、先輩の楽曲を演奏します!ベテルギウス、新曲!……そのままのあなたが大好きーー!」
ワーーーーー!
夏樹のシャウトが響き渡った。観客からの声援で会場内が揺れた。本当に500名が招待されたのだろうか?数倍に感じた。床から伝わる振動が長引いている。夏樹がフラついた。悠人が心配そうな顔になったが、ひまわりのような笑顔が戻り、強いオーラを放った。その後、佐久弥の声が響きわたった。マイクを通していない。
「……‥かぶれーーーー!俺が許すーーー!苦情はナッシングーー!」
あにきーーーー!
夏樹が仁王立ちして、真剣な顔をした。ただし、これからやろうとしていることは笑いを起こすものだ。佐久弥の手より、2Lのペットボトルの水が浴びせられた。悠人が逃げ回った後、佐久弥を蹴り飛ばす動作をやった。
「……‥ひいいいいっ。強要だーーー!」
ワーーーーー!
ひいいいいいいー!
「……ボーカル!なつきーー、ぬげー!上半身だけだーー!」
「……トリャーーー!」
トリャーーー!
ずぶ濡れになったジャケットとシャツを脱ぎ捨て、それを豪快に観客席に放り込げたことで歓声があがった。ジャケットが奪い合いになっている。俺は言葉を失った。荒っぽい夏樹を見るのは久しぶりだからだ。
「……いくぞーー!おらぁーー!兄弟ーーー!」
ワーーーー!
「……みんないくぞーーー!やっちまおうぜーーー!わたしで……いいのかなーー?おーーー!……‥」
ドーーーン!
「……‥わたしでいいのかなー?yeah!yeah!yeah!……困らせてごめんね!……yeah!yeah---!……」
アニキーーー!
ついていくよーーー!
夏樹の歌声に驚いて言葉を失った。どこからこの低音が出てきたのか?と。沙耶から教えてもらった。デスボイスというものだと。それを、このポップな楽曲に合わせている。悠人も合わせて飛び跳ねている。夏樹が踊りながら歌っている。全くの違和感がない。沙耶が笑い出して、椅子の背にもたれかかった。
「……やだ、ときめいたわーー。どうしようかしら。今の夏樹君は別人よ。わたしの予言の通り。3年後は男らしい外見になって、女の子から悲鳴が上がるわよって。そのものじゃない。背が伸びたでしょう?」
「……衣装のせいだろう」
「年明けに会った時、目線の高さが違っていたの。175センチよね?もっとあるでしょう。あんたも背が伸びたのかしら?」
「これ以上は伸びなくてかまわない」
(ぶっ倒れるまでやれ。迎えに行ってやる……)
演奏が終了した後、佐久弥がメンバーを集めた。観客に手を振った後、5人で両手をつなぎ合った。掛け声に合わせてジャンプをした。仙頭カメラマンがシャッターを切っていた。汗と涙にぬれた笑顔が輝いている。迎えに行こう。ステージサイドで待つ約束をした。
「お母さん。サイドへ行きましょう」
「ええ……」
中山の義母に声を掛けると、両目から涙をこぼしていた。声も立てずに。まっすぐに息子のことを見つめていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう
水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」
辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。
ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。
「お前のその特異な力を、帝国のために使え」
強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。
しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。
運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。
偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!
魔王の息子を育てることになった俺の話
お鮫
BL
俺が18歳の時森で少年を拾った。その子が将来魔王になることを知りながら俺は今日も息子としてこの子を育てる。そう決意してはや数年。
「今なんつった?よっぽど死にたいんだね。そんなに俺と離れたい?」
現在俺はかわいい息子に殺害予告を受けている。あれ、魔王は?旅に出なくていいの?とりあえず放してくれません?
魔王になる予定の男と育て親のヤンデレBL
BLは初めて書きます。見ずらい点多々あるかと思いますが、もしありましたら指摘くださるとありがたいです。
BL大賞エントリー中です。
王様のナミダ
白雨あめ
BL
全寮制男子高校、箱夢学園。 そこで風紀副委員長を努める桜庭篠は、ある夜久しぶりの夢をみた。
端正に整った顔を歪め、大粒の涙を流す綺麗な男。俺様生徒会長が泣いていたのだ。
驚くまもなく、学園に転入してくる王道転校生。彼のはた迷惑な行動から、俺様会長と風紀副委員長の距離は近づいていく。
※会長受けです。
駄文でも大丈夫と言ってくれる方、楽しんでいただけたら嬉しいです。
【完結】ホットココアと笑顔と……異世界転移?
甘塩ます☆
BL
裏社会で生きている本条翠の安らげる場所は路地裏の喫茶店、そこのホットココアと店主の笑顔だった。
だが店主には裏の顔が有り、実は異世界の元魔王だった。
魔王を追いかけて来た勇者に巻き込まれる形で異世界へと飛ばされてしまった翠は魔王と一緒に暮らすことになる。
みたいな話し。
孤独な魔王×孤独な人間
サブCPに人間の王×吸血鬼の従者
11/18.完結しました。
今後、番外編等考えてみようと思います。
こんな話が読みたい等有りましたら参考までに教えて頂けると嬉しいです(*´ω`*)
前世が教師だった少年は辺境で愛される
結衣可
BL
雪深い帝国北端の地で、傷つき行き倒れていた少年ミカを拾ったのは、寡黙な辺境伯ダリウスだった。妻を亡くし、幼い息子リアムと静かに暮らしていた彼は、ミカの知識と優しさに驚きつつも、次第にその穏やかな笑顔に心を癒されていく。
ミカは実は異世界からの転生者。前世の記憶を抱え、この世界でどう生きるべきか迷っていたが、リアムの教育係として過ごすうちに、“誰かに必要とされる”温もりを思い出していく。
雪の館で共に過ごす日々は、やがてお互いにとってかけがえのない時間となり、新しい日々へと続いていく――。
異世界で聖男と呼ばれる僕、助けた小さな君は宰相になっていた
k-ing /きんぐ★商業5作品
BL
病院に勤めている橘湊は夜勤明けに家へ帰ると、傷ついた少年が玄関で倒れていた。
言葉も話せず、身寄りもわからない少年を一時的に保護することにした。
小さく甘えん坊な少年との穏やかな日々は、湊にとってかけがえのない時間となる。
しかし、ある日突然、少年は「ありがとう」とだけ告げて異世界へ帰ってしまう。
湊の生活は以前のような日に戻った。
一カ月後に少年は再び湊の前に現れた。
ただ、明らかに成長スピードが早い。
どうやら違う世界から来ているようで、時間軸が異なっているらしい。
弟のように可愛がっていたのに、急に成長する少年に戸惑う湊。
お互いに少しずつ気持ちに気づいた途端、少年は遊びに来なくなってしまう。
あの時、気持ちだけでも伝えれば良かった。
後悔した湊は彼が口ずさむ不思議な呪文を口にする。
気づけば少年の住む異世界に来ていた。
二つの世界を越えた、純情な淡い両片思いの恋物語。
序盤は幼い宰相との現実世界での物語、その後異世界への物語と話は続いていきます。
取り残された隠者様は近衛騎士とは結婚しない
二ッ木ヨウカ
BL
一途な近衛騎士×異世界取り残され転移者
12年前、バハール王国に召喚された形代柚季は「女王の身代わり要員」として半引きこもり生活をしていたが、ある日婚活を始めることに。
「あなたを守りたい」と名乗りを上げてきたのは近衛騎士のベルカント。
だが、近衛騎士は女王を守るための職。恋愛は許されていないし、辞める際にもペナルティがある。
好きだからこそベルカントを選べず、地位目当てのホテル経営者、ランシェとの結婚を柚季は決める。
しかしランシェの本当の狙いは地位ではなく――
大事だから傷つけたくない。
けれど、好きだから選べない。
「身代わりとなって、誰かの役に立つことが幸せ」そう自分でも信じていたのに。
「生きる」という、柔らかくて甘い絶望を呑み込んで、
一人の引きこもりが「それでもあなたと添い遂げたい」と言えるようになるまで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる