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16-1 アイアン・エンジェル(夏樹視点)
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11月14日、日曜日。14時。
これから飛行機に乗って帰るところだ。家に帰る前に実家に寄り、アンを迎えに行く予定だ。お土産は何がいいかと考えながら、羽田空港のターミナルを歩いていると、黒崎が店の前で立ち止まった。欲しい物をプレゼントすると言われた。しかし、俺は返事をしなかった。喧嘩中だからだ。
「俺が悪かった。口を聞いてくれないのか?」
「ふん……」
「こっちを向いてくれ」
「それなら、機嫌を取ってよ」
「何度も謝ったぞ。機嫌は取らない」
「ふうん?それなら、機嫌を直さない」
「結婚したんだぞ。こういうスタートを切るのか?」
「あんたのせいだよ」
「夏樹。すまなかった」
「ふん……」
本当は色んな場所を観光したかったが、一回しか外出しなかった。新婚旅行だからと、ベッドで甘い時間を過ごしていたからだ。数時間前までは俺達は喧嘩していなかった。俺が機嫌を損ねたのは、ベッドの中でのことだ。黒崎から触られて声が出た。可愛いと囁かれたのはいいが、笑い声を立てられた。意地悪さが満載でもあった。それが喧嘩のきっかけだ。
(まあ、いいか……)
そろそろ許してあげてもいいかと思った。結婚前の黒崎なら、俺のことを強引に店の中に連れて行き、俺が欲しそうな物を買っていただろう。今回はそれがない。俺と話をしようとしている。俺の意志を大切にして、嫌な言い方もしてこないし、ずっと謝ってくれている。
「夏樹。さっきの店でキッチンまわりの雑貨を売っていたぞ?カラフルで可愛らしい。寄って行かないか?」
「ううん。家の近くで買うよ」
「やっと話してくれたか。夜は何が食べたい?和食系なら鹿屋か。TAKU南天王寺にするか?お前が考案したデザートを置いてある。金曜日からだ。メゾンキセイのコースなら……」
「焦っているところが好きなんだよ。だから機嫌を悪くしたくなるんだ」
「あまり苛めないでくれ。これでも我慢しているんだぞ?」
「何を?」
「何でもない。あのショップへ入らないか?」
「誤魔化したよね?」
「……置いて行くぞ」
「黒崎さん?」
何度かやり取りを続けているうちに、黒崎が怒ってしまったようだ。冷たく言い返されて、俺のことを置いて、さっさと歩き始めた。いつもなら手を繋ぐのに、それすらして貰えなかった。
俺だって負けていない。ピタッと立ち止まり、その後姿を見つめた。甘えてばかりいたから、対処方法が見つからない。子供みたいな拗ね方をしたところで、何にもならない。すると、やっと黒崎が振り向いてくれて、俺に声をかけてきた。ホッとして顔を上げると、背を向けて立ち止まっていた。こっちを見ていないから、再びうつむいた。
「おい、夏樹。迷子になる気か?」
「……」
「こっちへ来い」
「あんたの方から来いよ」
「時間がなくなる」
「ギリギリの時間まで、このままでいるからね」
「そうか。手荷物検査が終わった後、そこで待っている。20分前には待合に到着しろ」
「ええ?」
黒崎が歩き始めた。胸が締め付けられるように痛くなった。そして、足音が近づいて来た。笑顔なんか向けてやらない。口もきかない。搭乗口で待つからと、ぶつける予定の言葉を思い浮かべた。うつむいたままでいると、黒崎の匂いが鼻をかすめた。
「……え?」
「大人しくろ」
抱き寄せられて、頭を撫でられた。なんだか恥ずかしくなったから、胸元を叩いた。しかし、その手首を掴んで動きを封じられた。そして、視線を合わせたままで囁かれた。
「俺から離れるな」
「え……」
「行くぞ」
「あ……」
しっかりと手を握られた後、強引に引かれてしまった。しかも、何も言わずに歩き出した。
「く、黒崎さん?」
「うるさい。さっさと来い」
今までとは違う態度に戸惑った。優しいことには変わりないだろう。本当に機嫌を損ねた時には慰めてくれる。きっとそうだと思う。
「置いて行くわけがないだろう。これからは接し方を変えて、もう甘やかさない。機嫌も取らない。分かったか?」
「いいよ……」
ぶっきらぼうな言い方をしたくせに、黒崎は俺の手を手を握ったり指を絡ませたりしている。これで仲直りができたようだ。それをわざわざ聞くのはやめた方が良さそうだ。今度は彼の方の機嫌が悪くなりそうだ。追及せずに身を任せることにした。離れるわけがないし、黒崎の自由にしてもらいたい。俺の方もそうする。まるで付き合う前の黒崎のようだ。でも、全然怖くないと思った。
「新しい黒崎さんのこと、悪くないって思ったよ」
「何のことだ?」
「何でもないよ~」
黒崎の手を握り返した。これからも一緒に歩いていく。いつまでも一緒だよ。心の中で、そう呟いた。
これから飛行機に乗って帰るところだ。家に帰る前に実家に寄り、アンを迎えに行く予定だ。お土産は何がいいかと考えながら、羽田空港のターミナルを歩いていると、黒崎が店の前で立ち止まった。欲しい物をプレゼントすると言われた。しかし、俺は返事をしなかった。喧嘩中だからだ。
「俺が悪かった。口を聞いてくれないのか?」
「ふん……」
「こっちを向いてくれ」
「それなら、機嫌を取ってよ」
「何度も謝ったぞ。機嫌は取らない」
「ふうん?それなら、機嫌を直さない」
「結婚したんだぞ。こういうスタートを切るのか?」
「あんたのせいだよ」
「夏樹。すまなかった」
「ふん……」
本当は色んな場所を観光したかったが、一回しか外出しなかった。新婚旅行だからと、ベッドで甘い時間を過ごしていたからだ。数時間前までは俺達は喧嘩していなかった。俺が機嫌を損ねたのは、ベッドの中でのことだ。黒崎から触られて声が出た。可愛いと囁かれたのはいいが、笑い声を立てられた。意地悪さが満載でもあった。それが喧嘩のきっかけだ。
(まあ、いいか……)
そろそろ許してあげてもいいかと思った。結婚前の黒崎なら、俺のことを強引に店の中に連れて行き、俺が欲しそうな物を買っていただろう。今回はそれがない。俺と話をしようとしている。俺の意志を大切にして、嫌な言い方もしてこないし、ずっと謝ってくれている。
「夏樹。さっきの店でキッチンまわりの雑貨を売っていたぞ?カラフルで可愛らしい。寄って行かないか?」
「ううん。家の近くで買うよ」
「やっと話してくれたか。夜は何が食べたい?和食系なら鹿屋か。TAKU南天王寺にするか?お前が考案したデザートを置いてある。金曜日からだ。メゾンキセイのコースなら……」
「焦っているところが好きなんだよ。だから機嫌を悪くしたくなるんだ」
「あまり苛めないでくれ。これでも我慢しているんだぞ?」
「何を?」
「何でもない。あのショップへ入らないか?」
「誤魔化したよね?」
「……置いて行くぞ」
「黒崎さん?」
何度かやり取りを続けているうちに、黒崎が怒ってしまったようだ。冷たく言い返されて、俺のことを置いて、さっさと歩き始めた。いつもなら手を繋ぐのに、それすらして貰えなかった。
俺だって負けていない。ピタッと立ち止まり、その後姿を見つめた。甘えてばかりいたから、対処方法が見つからない。子供みたいな拗ね方をしたところで、何にもならない。すると、やっと黒崎が振り向いてくれて、俺に声をかけてきた。ホッとして顔を上げると、背を向けて立ち止まっていた。こっちを見ていないから、再びうつむいた。
「おい、夏樹。迷子になる気か?」
「……」
「こっちへ来い」
「あんたの方から来いよ」
「時間がなくなる」
「ギリギリの時間まで、このままでいるからね」
「そうか。手荷物検査が終わった後、そこで待っている。20分前には待合に到着しろ」
「ええ?」
黒崎が歩き始めた。胸が締め付けられるように痛くなった。そして、足音が近づいて来た。笑顔なんか向けてやらない。口もきかない。搭乗口で待つからと、ぶつける予定の言葉を思い浮かべた。うつむいたままでいると、黒崎の匂いが鼻をかすめた。
「……え?」
「大人しくろ」
抱き寄せられて、頭を撫でられた。なんだか恥ずかしくなったから、胸元を叩いた。しかし、その手首を掴んで動きを封じられた。そして、視線を合わせたままで囁かれた。
「俺から離れるな」
「え……」
「行くぞ」
「あ……」
しっかりと手を握られた後、強引に引かれてしまった。しかも、何も言わずに歩き出した。
「く、黒崎さん?」
「うるさい。さっさと来い」
今までとは違う態度に戸惑った。優しいことには変わりないだろう。本当に機嫌を損ねた時には慰めてくれる。きっとそうだと思う。
「置いて行くわけがないだろう。これからは接し方を変えて、もう甘やかさない。機嫌も取らない。分かったか?」
「いいよ……」
ぶっきらぼうな言い方をしたくせに、黒崎は俺の手を手を握ったり指を絡ませたりしている。これで仲直りができたようだ。それをわざわざ聞くのはやめた方が良さそうだ。今度は彼の方の機嫌が悪くなりそうだ。追及せずに身を任せることにした。離れるわけがないし、黒崎の自由にしてもらいたい。俺の方もそうする。まるで付き合う前の黒崎のようだ。でも、全然怖くないと思った。
「新しい黒崎さんのこと、悪くないって思ったよ」
「何のことだ?」
「何でもないよ~」
黒崎の手を握り返した。これからも一緒に歩いていく。いつまでも一緒だよ。心の中で、そう呟いた。
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