恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖

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16-2(黒崎視点)

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 羽田空港の手荷物検査を終えて、ロビーへ向かった。早足で向かう人波のなか、夏樹の手を引いて歩いている。普段ならこう話しかけている。足が疲れていないか?帰りに寄りたい場所はないのか?そういう言葉だ。しかし、今の自分は接し方を変えると告げた。夏樹が戸惑っているのが表情から見て取れるが、元に戻す気はない。

「黒崎さん。歩くのが早いよ~」
「時間が無くなるからだ。何か飲むだろう?カフェスタンドがある」
「うんっ。ドーナツも買うよ。こっちのメニュー、少し違うんだ。おやつに何個かまとめて……。ええ?買ったら駄目なの?どうして?明日まで食べられるよ?わりと日持ちするから……」
「甘い物を食べすぎだ。食事が入らなくなる。毎日でもいいが、一個にしておけ。もう買わない」
「ご飯も食べているのに。好き嫌いが無いから」
「少なすぎる。スイーツを減らせば、その分の隙間ができるだろう。そうしろ。いいな?」
「3日分のドーナツがほしい。お小遣いで買うもん……。ふん」
「拗ねても無駄だ。お母さんとは約束してある。お前は小食すぎる。もっと食え。スイーツを食べているから夕食が入らないんだろう」
「う……っ」
「今夜はtaku南天王寺で食う。たまには油ものも食べておけ。スイーツはなしだ」
「分かったよ……」
「そうか……」

 言い切ったものの、どうも調子が出ない。拗ねた目で見上げられて、機嫌を取りたくなる。夏樹は月2回の発熱があり、顔色の悪い日もある。冷え性。低体温ぎみだ。それを改善させたい。心を鬼にして夏樹の顔を見ないでいると、手を引っ張られた。

「なんだよーー。説教親父」
「オヤジだと?えらく態度が変わったじゃないか」
「あんたも俺に似たらいいね。スイーツばかり食べるところが似て欲しいよ」
「どこも似たくない」
「なんだよっ。似てほしいのは家事能力のことだよ。ゴミ捨てのやり方を覚えてもらうよ」
「……面倒だ。代行サービスを手配する」
「あのねえ……。同じフロア通路の奥に、ゴミを出せるコーナーがあるんだよ?外まで行かなくていいんだよ?」 
「そんな場所があったのか……」 
「あんたって、俺がいないと生きていけないよね?」 
「その通りだ。否定しない」 
「え……」
「……事実だ。行くぞ、3つ好きな物を買ってやる。なるべくスイーツ以外がいい」
「うんっ。ありがとう。大好きだよ~。ドーナツが……」
「そうか……」

 結局は夏樹の機嫌を取ってしまった。気恥ずかしくて返事ができない。今までなら頭を撫でて、許しを請うようにしてきたというのに。

 歩きながら、マンションへ帰るまでの予定を話した。実家へアンを迎えに行き、帰りは丸池公園広場へ寄る。イベントをやっていないが、そこから星を眺めたい。夏樹に話すと、同じ事を思っていたらしく、愛おしくさが込み上げて来た。それは手を握り返すことで伝えて、飛行機に搭乗した。
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