森林の星空少年~あの日のメエメエ

夏目奈緖

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 プシュ!早瀬から水のペットボトルを渡されて蓋を開けると、炭酸入りのジュースのような音がした。そこで銘柄を見てみると、炭酸水だった。ウェールキンズというメーカーだ。そして、早瀬が珍しく慌てている。普通の水を買ったつもりだったそうだ。

「悠人君。また買ってくる」
「これで飲めるよ。口の中がシュワシュワするか、するっと胃の中に入るかの違いだもん。よし……」

 炭酸水で薬を飲んだことはないが、どうにかなるだろう。そして、俺は袋に入った小粒の薬を口の中に入れて、水を飲んだ。すると、口の中で炭酸がシュワシュワして、なんと、錠剤が口の中で踊るようになって移動して、大変飲みづらい状況になった。そこで、一気に飲み込むと、錠剤が口の粘膜に張り付いた。

「うひぇーーー。飲み込めなかったよーーー」
「悠人君。無理をするな。水を買ってくる」
「裕理さん。待って。今度こそは飲み込むから、見ていてよ」

 俺はもう一口、炭酸水を口に含んだ。すると、粘膜に張り付いた錠剤を舌の上にセットするのを忘れていたから、飲み込めなかった。錠剤は頰の内側に張り付いている。

「うひぇーー。甘い薬なのに、成分が溶け出して、口の中が苦くなったよーーー」
「それを出せ。まだ薬はあるから……」
「ううん。これを飲むよ。見ていてよ……」

 シュワシュワ。もう一口、炭酸水を口に含むと、目に違和感が起きた。そして、鼻がツンとした。真剣に水を飲もうとして、間違って鼻に入ったようである。そして、目に涙がにじんだ。

「うぇ、うぇーー」
「悠人君。無理をするな。炭酸水ではだめなんだろう」
「大丈夫だよ。今度こそ飲み込むよ。見ていてよ……」

 シュワシュワ。俺はもう一口、炭酸水を口に含んだ。すると、ツンとした鼻に違和感が起きた後、間違って気管に入ったようで、咳が出た。

「ごほ!ごほ!げほーーーー!」
「悠人君。背中を叩いてあげる……」
「うひぇーーー。だめなのかなーーー」

 早瀬と橋本さんが俺の背中をさすったり、叩いたりしてくれた。そして、なんとか咳が治まったところで鼻水が出そうになり、自然と天井を見上げた。すると、目に違和感が起きた。店の暖房の風が俺の目に直撃し、ソフトコンタクトレンズが乾いてしまい、目が痛くなった。

「うひぇーーー。いったーーー!」
「悠人君。大丈夫か……」
「裕理さん。目薬を取って……」
「分かった。君の上着のポケットに入っているはずだね……。はい、取れたよ」
「ありがとう……」

 早瀬から蓋を開けて貰って目薬を受け取り、両眼にさした。すると、すぐに目の乾きが収まり、痛みがなくなった。

「ふうーーーー。これでよし。裕理さん。錠剤を飲み込むから見ていてよ」
「ああ、分かった。ん?どうしたんだ?」
「口の中に薬が存在しないんだ!どうしよう?」

 どうしよう?頰の内側を舌で探っても、錠剤が見つからない。まさか気管や鼻に入ったのだろうか。口の中で溶けるのには、まだ早いだろう。

「うひぇーーー。鼻をかんでみるよ」
「口の中にあるんじゃないのか?」
「ううん。どこにもないよ。あれ?あった。舌の下だ!うひぇーーー。これ、取れないパターンだよ!」

 どうしよう?錠剤が俺の口の中で存在していることは分かったのだが、舌の下に張り付いているから移動できない。そこで、鏡はないだろうかと思った。指で取るしかない。

 すると、橋本さんが鏡を持っていると申し出てくれた。身だしなみチェックのために持ち歩いているのだという。コンパクトなサイズの鏡だが、口の中を見るのにはちょうど良さそうだ。

「ありがとうございます。お借りします」
「女優ミラーというんだ。両側に照明がついているんだよ」
「ほお……。メイクしやすいように光るんですね……」

 ふむふむ。俺は橋本さんに操作して貰って、コンパクト女優ミラーで口の中を見て、指で錠剤を取り、それを舌の上にセットして、もう一口炭酸水を口に含んだ。すると、無事に飲み込めた事が分かり、疲れが出てきてしまった。錠剤を炭酸水で飲むことがこんなに難しいなんて、初めて知った。
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