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15時。
会食が終わる頃である。鍋の火は落とされ、出汁の香りがまだほんのり残っている。木のテーブルの上には、空いた盃と箸袋が整然と並び、まるで神事の後のように静かな余韻が漂っていた。
「では、本日はこの辺りで……」
木田さんが深く一礼した。その穏やかな声が、会食の締めを告げる鐘の音のように感じられた。カズさんも慌てて一礼しながら、ネクタイを締めなおした。
「い、いえ、こちらこそ。今日は本当に……、尊いお時間でした」
「ふむふむ。もう会食じゃなくて参拝だったねーーー」
「ぷっ」
俺の呟きに六槍さんが笑った。会計を済ませて店を出ると、秋の風がひんやりと頬を撫でた。外は快晴で、街路樹の葉が黄金色に染まっている。神事の続きのような、澄んだ空気だ。堀尾君がニコッと笑顔になった。
「いいお店でしたね。出汁の香りがよくて、すごく落ち着く感じで……。あ、島川社長。また愛を語らないでください。その手には乗りません」
「僕は誠実に語っていただけだ」
「ふむふむ。誠実にも限度があるねーーー」
俺が笑うと、カズさんは顔を真っ赤にして頭をかいた。何があったかというと、あの後もカズさんは木田さんに愛を語たり、二人のことをじっと見つめて、さりげなくアシストしてくれた堀尾君の気の利かせ方に感心し、そして、彼の笑顔が可愛いと言ってしまった。二股である。しかし、木田さんはあきれた様子もなく、そっと笑みを浮かべていた。
「皆さま、本日は本当にありがとうございました。無事に神事を終え、こうして笑顔で過ごせたことが、何よりのご利益です」
「ご利益……、か。確かに、笑いの神様が降りていましたね」
六槍さんが静かに言うと、木田さんは頷いた。笑う門には福来たるですねと。その言葉に、カズさんの瞳がまた潤んだ。
「木田さん……。もじもじ、ぐすん。もう、僕……、どうしたら……」
「はい?」
「この恋を清めたいんです。いや、でも、清めたら消えそうで……」
「ふむふむ。矛盾してるねーーー」
俺は言うと、木田さんは少し目を細め、秋の陽を受けて柔らかく微笑んだ。それは恋を知っている男の目だった。カズさんからのアピールにひるむことなく笑顔で応じ、今も彼のことを引き付けている。百戦錬磨なのではないかと察した。そして、木田さんが言った。
「恋は、清めるものではなく、磨くものですよ」
「み、磨く、ですか……」
「はい。相手を想うたびに、己の心も磨かれていく。……きっとそれが祈りのかたちです」
その言葉に、カズさんは完全に魂を抜かれた。まるで御神体でも見たかのような目で木田さんを見つめている。
「ふむふむ。恋の参拝を始めたねーーー」
「いや、もう完全に信者だな」
朝陽がぽつりと言った。そして、俺が顔を見合わせ、正司社長が咳払いをして口を開いた。
「いやあ、いい話だなあ。恋って素晴らしい。僕も昔は……」
「正司社長、それ以上は、お祓い案件です」
六槍さんがきっぱり言うと、場が笑いに包まれた。木田さんはそんな俺たちを見て、少し肩をすくめた。賑やかでいいですねと。そこで、カズさんが言った。
「ありがとうございます。……あの、もしよければ、今度、またお祓いをお願いしてもいいですか?」
「ええ。次は、心の穢れを祓うお祓いですね」
「ああーー、しまった!僕の考えていることがバレましたか!?もう電話番号をゲットしましたし、ライン交換も済ませてある状態で、後は次の約束を取り付けるタイミングを見計らっているところですが、今夜またとか、明日の夜はどうですか?などのキーワードを出したいので、やる気を出しています」
「ははは。来週でもいいですか?」
「ぜひ!ああーー、しまった。手が震えそうだ。あなたに触れたくても触れられない。まるで、後ろを振り返るなと言った神様の話のようです」
「ふむふむ。カズさん、出来上がっているなーーー」
どうしよう?カズさんが完全におかしくなっている。しかし、木田さんは面白い友人に接するようにして見つめ返している。これで木田さんとの縁がつながった。後はカズさんが徐々に距離を詰めていくだけである。頭からかぶりつきなど、してはいけないのである。
会食が終わる頃である。鍋の火は落とされ、出汁の香りがまだほんのり残っている。木のテーブルの上には、空いた盃と箸袋が整然と並び、まるで神事の後のように静かな余韻が漂っていた。
「では、本日はこの辺りで……」
木田さんが深く一礼した。その穏やかな声が、会食の締めを告げる鐘の音のように感じられた。カズさんも慌てて一礼しながら、ネクタイを締めなおした。
「い、いえ、こちらこそ。今日は本当に……、尊いお時間でした」
「ふむふむ。もう会食じゃなくて参拝だったねーーー」
「ぷっ」
俺の呟きに六槍さんが笑った。会計を済ませて店を出ると、秋の風がひんやりと頬を撫でた。外は快晴で、街路樹の葉が黄金色に染まっている。神事の続きのような、澄んだ空気だ。堀尾君がニコッと笑顔になった。
「いいお店でしたね。出汁の香りがよくて、すごく落ち着く感じで……。あ、島川社長。また愛を語らないでください。その手には乗りません」
「僕は誠実に語っていただけだ」
「ふむふむ。誠実にも限度があるねーーー」
俺が笑うと、カズさんは顔を真っ赤にして頭をかいた。何があったかというと、あの後もカズさんは木田さんに愛を語たり、二人のことをじっと見つめて、さりげなくアシストしてくれた堀尾君の気の利かせ方に感心し、そして、彼の笑顔が可愛いと言ってしまった。二股である。しかし、木田さんはあきれた様子もなく、そっと笑みを浮かべていた。
「皆さま、本日は本当にありがとうございました。無事に神事を終え、こうして笑顔で過ごせたことが、何よりのご利益です」
「ご利益……、か。確かに、笑いの神様が降りていましたね」
六槍さんが静かに言うと、木田さんは頷いた。笑う門には福来たるですねと。その言葉に、カズさんの瞳がまた潤んだ。
「木田さん……。もじもじ、ぐすん。もう、僕……、どうしたら……」
「はい?」
「この恋を清めたいんです。いや、でも、清めたら消えそうで……」
「ふむふむ。矛盾してるねーーー」
俺は言うと、木田さんは少し目を細め、秋の陽を受けて柔らかく微笑んだ。それは恋を知っている男の目だった。カズさんからのアピールにひるむことなく笑顔で応じ、今も彼のことを引き付けている。百戦錬磨なのではないかと察した。そして、木田さんが言った。
「恋は、清めるものではなく、磨くものですよ」
「み、磨く、ですか……」
「はい。相手を想うたびに、己の心も磨かれていく。……きっとそれが祈りのかたちです」
その言葉に、カズさんは完全に魂を抜かれた。まるで御神体でも見たかのような目で木田さんを見つめている。
「ふむふむ。恋の参拝を始めたねーーー」
「いや、もう完全に信者だな」
朝陽がぽつりと言った。そして、俺が顔を見合わせ、正司社長が咳払いをして口を開いた。
「いやあ、いい話だなあ。恋って素晴らしい。僕も昔は……」
「正司社長、それ以上は、お祓い案件です」
六槍さんがきっぱり言うと、場が笑いに包まれた。木田さんはそんな俺たちを見て、少し肩をすくめた。賑やかでいいですねと。そこで、カズさんが言った。
「ありがとうございます。……あの、もしよければ、今度、またお祓いをお願いしてもいいですか?」
「ええ。次は、心の穢れを祓うお祓いですね」
「ああーー、しまった!僕の考えていることがバレましたか!?もう電話番号をゲットしましたし、ライン交換も済ませてある状態で、後は次の約束を取り付けるタイミングを見計らっているところですが、今夜またとか、明日の夜はどうですか?などのキーワードを出したいので、やる気を出しています」
「ははは。来週でもいいですか?」
「ぜひ!ああーー、しまった。手が震えそうだ。あなたに触れたくても触れられない。まるで、後ろを振り返るなと言った神様の話のようです」
「ふむふむ。カズさん、出来上がっているなーーー」
どうしよう?カズさんが完全におかしくなっている。しかし、木田さんは面白い友人に接するようにして見つめ返している。これで木田さんとの縁がつながった。後はカズさんが徐々に距離を詰めていくだけである。頭からかぶりつきなど、してはいけないのである。
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