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さて、お守り選びをするとしよう。では、どうぞ。お守りを選んでいってください。木田さんの声で、俺たちは棚の前へ散らばった。俺は迷わず、狐の刺繍が入った“音心守”に手を伸ばした。芸事の上達や表現力を司る、久木田神社の人気お守りらしい。
「ふむふむ。これだよねーー。俺にぴったりだーー」
「うん。悠人君に似合う」
早瀬が嬉しそうに笑った。色は赤と紺色がある。どちらにしようか。
「両方買えば?ステージ用と家の玄関用に。買ってあげる」
「ほおーー。優しいねーー。じゃあ二つ買おう!」
早瀬は自分用に、青い紐がついた“健やか守”を手に取った。恋ではなく“安定”。それが早瀬らしい。一方、六槍さんは棚の前で固まっている。まさか塩の時のように苦手なのだろうかと思った。しかし、にこやかに微笑み、そばにいる朝陽に声をかけ始めた。
「……どれがいいと思う?」
「六槍君、恋守がいいんじゃない?」
「……そ、そうだね」
六槍さんは赤い紐の“恋磨守”を手に取った。そして、朝陽にもそれを選べと言わんばかりに、指さしている。朝陽を見る目が、完全に“好きな人と同じ棚から買いたい”という目だ。
「朝陽君は?」
「俺は……、これかな」
朝陽は、不思議そうに微笑みながら“縁むすび守”を手に取った。その淡いクリーム色のお守りは、恋も友情も家族も“大切な縁”を意味するらしい。
「……いいね。とても似合う」
六槍さんの声は、普段より少し低く、柔らかかった。ありがとう。朝陽が照れながら答え、その横顔に六槍さんは静かに息を呑んだ。どうしよう?この距離、この空気。恋の神様はほぼ成立宣言じゃないかと思えた。
朝陽の頬がわずかに赤く染まり、六槍さんはそれを見て軽く息をのみ、指先がほんの少し震えている。恋心がはっきりと形になって見える瞬間というものは、こんなにも空気を変えるのか。木田さんも、そんな二人を柔らかい目で見つめていた。
「良いお守りを選ばれましたね。どれも、持ち主の心を映すものです」
「ふむふむ。俺は狐さんに応援してもらうよーー」
「悠人さんは、音楽の面で力が入りそうですね」
「へへへ。頑張りますーー」
お守りを選び終えると、木田さんが社務所の奥のテーブルを指して言った。
「では、こちらで授与の準備をいたしますので、少々お待ちください」
俺たちはテーブルにつき、選んだお守りをそれぞれ前に置いた。すると、障子越しに風がふっと通り抜け、鈴の音がかすかに響いた。光狐と影狐が見守っている。そんな気がした。そして、木田さんが五つのお守りを丁寧に並べ、小さな祓串を手に取った。
「では……。皆さんの選ばれた縁が、良き方向へ続きますように」
その声は、いつもの柔らかい木田さんの声より、少しだけ神職の響きを帯びていた。
シャリ……シャリ……。祓串が空気を払うたび、部屋全体がすこし明るくなるように感じた。
「お守りは、ただ持つだけでなく、時々手にしたり、願いごとを思い返したりすると、より力が宿りますよ」
「ふむふむ。スマホみたいだねーー」
「悠人さん、それは違いますよ」
木田さんが笑った。しかし、気を込めるという意味では、たしかに少し似ている気がする。お祓いが終わると、お守りがひとつずつ返された。
「はい、悠人さん」
「ありがとうございます」
音心守は、ひんやりとした手触りなのに、ほんのり温かくもある。不思議な感覚だ。そして、六槍さんが自分の恋磨守を受け取ると、少し見つめてから、朝陽の方へ向き直った。
「……朝陽君」
「どうしたの?」
「これ……、君にも似合いそうだと思って」
そう言って、自分が選んだ恋磨守を朝陽の手にそっと置いた。
「え!俺の分はここに……」
「わかっているよ。でも、君が持っていたら……、もっと、いい方向へ向く気がして」
「ほおーーーー」
どうしよう?完全に告白前夜じゃないか。朝陽は戸惑いながらも、断らなかった。手のひらに置かれた赤い紐を見つめ、ゆっくり微笑んだ。
「……ありがとう。大切にするよ」
「……うん」
六槍さんと朝陽が赤くなった。木田さんはそんな二人を見て、何も言わず、ただ優しく頷いている。そして、奥の引き戸を開けた。
「もしよければ……、授与の印として、ひとつ祈祷札をお渡ししましょう。今日の皆さんの縁が長く続きますように」
「いいんですか?」
「はい。神様も喜んでおられますから」
そう言いながら、木田さんは台の上へ4枚の小さな札を置いた。清らかな白木に、金の印が押されている。
「こちらを持って、境内奥の大木へ向かってください。効果が倍増します」
「ほおーーー。恋愛パワースポットだねーー」
「悠人君、声が大きい」
思わず声を上げて、また注意されてしまった。こういう場所では静かにしていないといけないのに、まるでカズさんのような反応をしてしまう。きっと、彼の生霊のせいだと思った。幽体離脱者と表現などしない。ベッドから念を送ってきているのだろう。木田さんと一緒にいたいがばかりに。
「ふむふむ。これだよねーー。俺にぴったりだーー」
「うん。悠人君に似合う」
早瀬が嬉しそうに笑った。色は赤と紺色がある。どちらにしようか。
「両方買えば?ステージ用と家の玄関用に。買ってあげる」
「ほおーー。優しいねーー。じゃあ二つ買おう!」
早瀬は自分用に、青い紐がついた“健やか守”を手に取った。恋ではなく“安定”。それが早瀬らしい。一方、六槍さんは棚の前で固まっている。まさか塩の時のように苦手なのだろうかと思った。しかし、にこやかに微笑み、そばにいる朝陽に声をかけ始めた。
「……どれがいいと思う?」
「六槍君、恋守がいいんじゃない?」
「……そ、そうだね」
六槍さんは赤い紐の“恋磨守”を手に取った。そして、朝陽にもそれを選べと言わんばかりに、指さしている。朝陽を見る目が、完全に“好きな人と同じ棚から買いたい”という目だ。
「朝陽君は?」
「俺は……、これかな」
朝陽は、不思議そうに微笑みながら“縁むすび守”を手に取った。その淡いクリーム色のお守りは、恋も友情も家族も“大切な縁”を意味するらしい。
「……いいね。とても似合う」
六槍さんの声は、普段より少し低く、柔らかかった。ありがとう。朝陽が照れながら答え、その横顔に六槍さんは静かに息を呑んだ。どうしよう?この距離、この空気。恋の神様はほぼ成立宣言じゃないかと思えた。
朝陽の頬がわずかに赤く染まり、六槍さんはそれを見て軽く息をのみ、指先がほんの少し震えている。恋心がはっきりと形になって見える瞬間というものは、こんなにも空気を変えるのか。木田さんも、そんな二人を柔らかい目で見つめていた。
「良いお守りを選ばれましたね。どれも、持ち主の心を映すものです」
「ふむふむ。俺は狐さんに応援してもらうよーー」
「悠人さんは、音楽の面で力が入りそうですね」
「へへへ。頑張りますーー」
お守りを選び終えると、木田さんが社務所の奥のテーブルを指して言った。
「では、こちらで授与の準備をいたしますので、少々お待ちください」
俺たちはテーブルにつき、選んだお守りをそれぞれ前に置いた。すると、障子越しに風がふっと通り抜け、鈴の音がかすかに響いた。光狐と影狐が見守っている。そんな気がした。そして、木田さんが五つのお守りを丁寧に並べ、小さな祓串を手に取った。
「では……。皆さんの選ばれた縁が、良き方向へ続きますように」
その声は、いつもの柔らかい木田さんの声より、少しだけ神職の響きを帯びていた。
シャリ……シャリ……。祓串が空気を払うたび、部屋全体がすこし明るくなるように感じた。
「お守りは、ただ持つだけでなく、時々手にしたり、願いごとを思い返したりすると、より力が宿りますよ」
「ふむふむ。スマホみたいだねーー」
「悠人さん、それは違いますよ」
木田さんが笑った。しかし、気を込めるという意味では、たしかに少し似ている気がする。お祓いが終わると、お守りがひとつずつ返された。
「はい、悠人さん」
「ありがとうございます」
音心守は、ひんやりとした手触りなのに、ほんのり温かくもある。不思議な感覚だ。そして、六槍さんが自分の恋磨守を受け取ると、少し見つめてから、朝陽の方へ向き直った。
「……朝陽君」
「どうしたの?」
「これ……、君にも似合いそうだと思って」
そう言って、自分が選んだ恋磨守を朝陽の手にそっと置いた。
「え!俺の分はここに……」
「わかっているよ。でも、君が持っていたら……、もっと、いい方向へ向く気がして」
「ほおーーーー」
どうしよう?完全に告白前夜じゃないか。朝陽は戸惑いながらも、断らなかった。手のひらに置かれた赤い紐を見つめ、ゆっくり微笑んだ。
「……ありがとう。大切にするよ」
「……うん」
六槍さんと朝陽が赤くなった。木田さんはそんな二人を見て、何も言わず、ただ優しく頷いている。そして、奥の引き戸を開けた。
「もしよければ……、授与の印として、ひとつ祈祷札をお渡ししましょう。今日の皆さんの縁が長く続きますように」
「いいんですか?」
「はい。神様も喜んでおられますから」
そう言いながら、木田さんは台の上へ4枚の小さな札を置いた。清らかな白木に、金の印が押されている。
「こちらを持って、境内奥の大木へ向かってください。効果が倍増します」
「ほおーーー。恋愛パワースポットだねーー」
「悠人君、声が大きい」
思わず声を上げて、また注意されてしまった。こういう場所では静かにしていないといけないのに、まるでカズさんのような反応をしてしまう。きっと、彼の生霊のせいだと思った。幽体離脱者と表現などしない。ベッドから念を送ってきているのだろう。木田さんと一緒にいたいがばかりに。
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