海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 ガチャ……。

 書斎のドアを開けると、早瀬がタブレットを眺めていた。リクライニングチェアに深くもたれ掛かり、頬杖をついている。入って来たことに気づいていないから、寝ているのだと思った。

(このままじゃ風邪をひくのにな。起こそうかなー?)

 そっと近づいて、近くにあったカーディガンを広げた。大きなものだから寒くないだろう。このまま朝まで寝そうだ。

(もう少し様子を見て起こそう。何を見ていたのかな?のぞき見だけど……)

 早瀬が膝に乗せているタブレット端末は、画面が黒くなっている。これでは分からない。かといって、勝手に触るのはいけない。

(気になるよーー。パソコンは?)

 デスクに手をついたことで、マウスに触れたようだ。画面に、ステージに立っている俺の画像が出てきた。隣に立っているのは、黒いマントを着た佐久弥だ。先月のイベントでの写真だ。自分でも驚くほどに、俺は生き生きとした顔をしている。

(疑ってごめんね。佐久弥だけの写真かと思ったよ……)

 一昨日の夜に見ていたものと同じだと思う。その時、てっきり佐久弥だけが写っている画像だと思って、胸が痛くなっていた。被害妄想で悩んでいたと反省した。

「あ……」

 デスクからファイルが落ちかけていたから置き直すと、絆創膏の箱を見つけた。この間、ドラッグストアで買ったものだ。

(怪我したのかな?使った後のやつがあるし……)

 何かの抜け殻の様な、使った後の絆創膏が置かれている。わざわざここに置いているのが不思議だ。しかも、よく見ると、俺の指まわりの大きさだ。

(俺が使ったやつだ。どうして置いてあるんだろう?)

 とっくに傷は治っているのに、風呂あがりに、また早瀬から絆創膏を貼り付けられた。変わったところのある人だから、何なのか気にもしなかった。しかし、抜け殻を持っているのは、さすがに変だ。

 モヤモヤしながら早瀬のことを見つめていると、さらに気になるものを見つけてしまった。書類の裏側に書かれたメモのことだ。彼の手書きで、英単語と何かのモチーフが書かれていた。それを読んだ時に、胸がドキッとした。

(……I wish you happiness.……I'm really glad I met you、これって……)

 あなたに出会えて、本当に良かった。
 あなたの幸せを祈る。

 まるでお別れの言葉のようだと思った。そして、三つ目に書かれていた文字を見て、胸がチクッと痛くなった。

(……I don't want to lose you.……あなたを失いたくない。ええー?ディアドロップの曲のタイトルだ。裕理さん、佐久弥のことが忘れられないのかも……。もう確定だよね?だって……)

 パソコン画面には、まだステージの画像が出ている。そして、佐久弥の左手の薬指にも絆創膏が貼られている。

 再会したことで、恋人時代を思い出したのかな?いけないと分かっていながらも、タイムスリップしたような気分になった。佐久弥とのことは昔の思い出になっているのは理解できる。今の2人を疑う余地はない。線を引いた上で付き合いをしている。大事な友達でもあったはずだ。

 はあ……。なるべく早瀬に聞こえないように、ため息をついた。
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