海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 早瀬が綿棒と耳かきを持って、寝室へ戻ってきた。そして、ベッドに腰かけた後、膝をポンポンと叩いていた。

「ゆうとくーん、おいで」
「うん……」
「笑わないから……」
「それなら……」

 本当は嬉しいのに素直になれなくて、しぶしぶといった素振りで移動した。そして、モゾモゾと動いて、早瀬の膝の上に頭を乗せた。恥ずかしいから顔が見られない。

「はい。来たよー?」
「素直じゃない子は……」
「え?」
「……好きだよ」
「ななな、なんんだよ!?」
「……さあ、始めようか。力を抜きなさい」
「誰がそうさせないんだよ?」
「……可愛い方が悪い。ほら、手元が狂うぞ?」
「あ……、そうだね!」

 これで向こうを見ていられる。このチャンスを逃さずに、力を抜いて寝転がった。そっと耳に指先が触れて、くすぐったくて身をよじった。早瀬からはその度に笑われて、根気強く続けてもらった。

「今日、俺が書斎に入っている時、外で待っていただろう。寒いから入って来い」
「電話中だったもん」
「遠慮するな。今年の目標を立てよう。俺に遠慮をしないことだ。かつ、卵焼きを作れるようになること」
「卵焼きなら出来るようになるよ。遠慮しないのは難しいよ。仕事の電話だろ?忙しいのに……」
「はあー」

 早瀬がため息をついた。そして、頬を両手でグリグリと撫でられて、額同士をくっつけた。約束しようと呟いている。

「……遠慮をする子には、ビーフシチューを作らないぞ?オムレツも逃げる」
「子ども扱いするなよ……」
「……悠人?」
「うん……」

 早瀬は何も悪くない。ウジウジして、ドツボにハマっている自分が悪い。埋まらない経験の差、大人と子供。もう子供とは言えないのに、完全に大人扱いはされないという、中途半端な年齢。他の子は大人扱いをされていても、自分は違う。こういう事を考える時間があれば、行動に移せばいいのに。

 どうすればいいのか?その答えはひとつある。ウジウジしないで、はっきりと質問することだ。しかし、拒否されることが怖い。そうならないと言われているのに。どこまでも臆病だ。夏樹のようになりたい。人から嫌われようが関係ないと言えるようになりたい。
 
「……悠人。風邪を引いた夜から、様子が変だぞ。気づいてないとでも思っているのか?話せば答えが出て来るぞ?」
「だったら……」
「だったら?」
「毎日何を見ているの?パソコン、タブレット、ジーッと見るようなページだと思えないよ……」

 思い切って口にしたのは、こんなことだった。アクセサリーを見ていることは知っているのに。本当に聞きたいのは、俺のことを見る時、誰のことを重ねているのかということだ。前の恋人?佐久弥?過去であっても、他の誰かに会ってほしくない。

「見ていたのは、君へのプレゼントだ」
「え……?」
「クリスマスが近いだろう。まさか意識していないのか?」
「そっか。近いのか……」
「一緒に選びに行く前に、見当をつけていた」
「ありがとう……」

 クリスマスのことを忘れていない。たった今、気づいたふりをしたが、バレているかもしれない。唇が近づいてきた後、グリグリと頬を撫でられた。

「圭一さんと話していたのは、プレゼントのことだ」
「うん!おやすみ。寒いから、早めに寝室に来てね」
「はいはい」

 パタン。

 ドアが閉められた後、足音が遠ざかっていった。隣の部屋で、すぐに行ける距離にいる。寝室と書斎の間の壁が、まるで早瀬の心の中のようだ。ドアがあるのに、自由に入れない。

「裕理さん、おやすみなさい……」

 壁の向こうにいる早瀬に向かって声を掛けて、目を閉じた。
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