海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 椅子に座り、待ち受け画面を眺めた。悠人が笑っている。湾沿いの遊歩道で、リクと遊んでいる時に撮ったものだ。この時は7月だった。もう12月になろうとしている。だんだんと顔つきが変化しているのが分かった。

「お父さんに似てきたなあ。キリッとしている。女顔で嫌だって言っていたな」

 大学一年生には見えないほどの童顔だったのに、年相応になった。考え方の変化が大きいだろう。遠慮がちで、気が強くて、どっちなんだ?と戸惑うことが多かった。しかし、ハロウィンの衣装を脱いだ悠人は、カッコいい男だった。強くて優しい子だ。あの繊細さが、俺にとっては必要だったのだろう。黒崎から言われたことを思い出した。

(裕理。変わってきたぞ。柔らかくなった)
(圭一さんもね。1年前とは大違いだよ)
(否定しない。温かみが出るのは悪くない)
(周りに人が集まってきたね。本気の味方が)
(お前も同じだ。気がついていないのか?)
(そうかな?表面上でしか接していないよ)
(そのうち分かる……)

 あの時は分からなかった。さっきの部下たちの行動でそれを知った。ああいう展開になるとは予想外だ。山田を逃がした結果にもなった。咎めたところで、何も残らない。これ以上の手出しをするなと、釘を刺せば十分だと思った。以前の俺なら、笑顔のままで追い込んだだろう。

(……お前は怖い。やりすぎだ)
(……そうかな)

 自覚はある。そうやって自分を守ってきたからだ。さっきは違っていた。悠人の影響があるのだろう。今頃、どうしているだろう?ギターの練習は控えておけと言ってある。今は風邪を治すことに集中してもらいたい。

「『13:32 ちゃんと寝ているか?ポトフは全部食べていい。帰りはテイクアウトにするから、ふわふわの食パンも買っていく』……送信。ああ、すぐに返ってきたか。可愛いな……」
「『久田悠人 13:33 テレビを見てるよ。月夜のレンジャーの再放送をやってる。佳代子さんが、マリーズカフェのサンドイッチを持って来てくれるんだ。裕理さんの分もって』」
「『13:33 後でお礼の電話を入れておく。仕事に戻るよ』」

 これから2本の会議が控えている。急がなければならない。用事を済ませて、定時で帰りたいからだ。

「室長、すみません。会議が始まります」
「ありがとう。すぐに行く」

 呼びに来てくれたのは、明日から世話になる秘書室の林田だ。カップを片づけようとすると、代わりにやると言ってくれた。それを渡して、急いで会議室へ向かった。
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