海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 枝川の方へ向き、見つめた。何かを言い出すのを察している様子だ。彼なら理解してもらえるだろう。この場をおさめるための口実を口にした。

「……枝川」
「は、はい!」
「山田さんと、戦いごっこをしたんだろう?」
「はい、そうです!昼休憩の時間を活用しました」

 後でフォローを入れる。枝川も理解している。俺の目を見て、頷いたからだ。さらに黒崎の方へ向いて言った。

「常務。ご迷惑をおかけしました。枝川には注意します」
「そうか。生産部の部長へ、今回の件を報告します。休憩中とはいえ、遊びが過ぎます」
「……」

 山田が押し黙った。黒崎が眉をひそめたが、すぐに表情を和らげた。ただし部下に向けてのものだ。心の内を知ることは出来ない。

 振り上げた腕を降ろすことが出来て、ホッとしたのか?自暴自棄になった結果が、思ったよりも軽いものになりそうだという安堵か?

 お咎めなしではないが、ここでは”遊び”だったと認識された。枝川のおかげだ。恩を売る結果となったのか、しっぺ返しが来るのかは分からない。とにかく枝川のことを守ろう。

 戸惑いを隠せない空気が漂っている。そこへ、平田がとぼけた仕草をして注目を集めた。俺達を見回しながら言った。

「戦いごっこだったのかー。すみません、俺の勘違いでした!常務、早瀬室長、橋本室長。申し訳……」
「さあ、午後の仕事に戻るように」

 平田が機転を利かせてくれた。謝ろうとしたのを黒崎が制止した。部下に声を掛けるという方法で。平田が嬉しそうな顔をしている。俺達の方を見た時、声に出さずに礼を言った。黒崎が声をかけた。来週、飲みに行こうというものだ。もちろん俺達も参加する。山田のことは深川副社長に任せて、カフェスペースへ入った。悠人へ連絡を取るために。
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