海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 午前10時。

 今、起きたところだ。ベッドから出た時には、日が昇っていた。リビングのソファーに深く腰かけて、両足と伸ばしてダラっとした。テレビを付けると、好きな番組が流れていた。王妃様のブレックファーストという情報番組だ。

「ゆうとくーん。珈琲にはミルクだけでいいのかー?」
「はーい、ミルクだけでお願いします」

 早瀬がマグカップを差し出してきた。それを受け取ると、彼が隣に腰かけてきた。ソファーが沈み込んだことで、2人で暮らしていることを実感した。

「へへへ……」
「ご機嫌だね」
「嬉しいなって思ったんだよ。こういうの……」
「素直に言えるようになったねー?」
「それは……、結婚したし、大人になったし……」
「大人はね、ソファーでもイチャつくんだよ……」
「もう……、飲んでるから……」

 右足で早瀬の体を押しのけてやると、その足首を掴まれて、くすぐられてしまった。連続で何回もやられている。

「ひゃひゃひゃーー」
「これはどうだ?」
「ひゃあ、やめてーー」
「……ぷっ。こういうのに憧れていたんだよ」
「……ふうん?」

 妙に気恥しい空気に変わってしまった。膝を抱えて座ってリビングの大きな窓から景色を眺めた。このソファーは2人で寝転がっても狭くない大きさのものだ。クリーム色の革張りで、同じ色味の生成りのカバーを掛けてある。俺の好みに合わせて選んでくれた。

「だいぶ落ち着いたね!」
「疲れただろう?」
「もう大丈夫。朝ごはんをどうしようか?」
「この辺りに美味しいお店があるんだよ。ああ、テレビでやっているね」
「うん。タイミングよく」

 さすがにまだ家では作れない。冷蔵庫のものは空にしてきたし、細かいものを片づける必要があるからだ。テレビを観ていると、タイミングが良い事に、この羽柴アイランドの特集が始まった。

 早瀬と並んで座り直し、テレビを見た。アナウンサーの喋りに合わせて、行ってみたい場所が増えていく。

「羽柴アイランド内、NEWオープン!カレー専門店。ビュッフェスタイルの……、和食屋さん……。湾をのぞむ遊歩道。お散歩が気持ちいいですね。遊覧船乗り場が……」

 マンションの前には遊覧船乗り場がある。乗ると気持ちが良さそうだ。スーパーもある。探索するだけで日が暮れそうだ。行きたい場所が多すぎて、今日はどこから行こうかと思って迷うほどだ。

「裕理さん、ここって楽しいねーー」
「そうだね。明日は祭日で休みだし、出かけようか?」
「うん。お腹空いたよ。食べに行こうよ」

 早瀬の後ろには大きな窓がある。見えているのは夏の快晴だ。まるで彼のようなイメージの空だ。

「裕理さんって、今日みたいな天気が似合うね。最初は月夜って感じだったのに……」
「ふうん。どういう心境の変化なんだ?」
「初めて会った日は薄暗くなっていたんだ。ご飯を食べに行った時は、月が出ていたよ。静かな人に見えていたのに、けっこう賑やかでさー」
「今はどうなんだ?」
「クリアな空だよ。ここから見えているみたいなね」
「そうか……。君は反対のイメージだよ。元気いっぱいな夏の空だと思っていたけど、実は月夜のイメージだった。けっこう静かだ……」
「え?落ちつきがないって言っているのに?」
「それは変わらないけどね。良いコンビだね」
「うん」

 額同士を合わせて笑い合った。珈琲を飲み終わった後、着替えをして出発した。向かう先は『リストランテ森下』というイタリアンレストランだ。
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