海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 18時半。

 夕暮れが広がった空の下、早瀬と手を繋いで歩いた。湾沿いから見えている夕焼け空を見ていくためだ。さっきIKUの関係者に会い、音楽サイトの取材も受けた。その後、バタバタしているうちに、ステージ周辺が静かになっていた。今も撤収作業が行われている。

「悠人君。俺と一緒にいて幸せだと言ってもらえて嬉しかった」
「本当のことだよ……」
「ベッドまで我慢できないなあ」
「どうしてこんないい感じの時に、エロくなれるんだよー?」
「独占欲が増したからだ。束縛をしてもいい?」
「今日は珍しいね。いつもあっさりした感じなのに」
「そうか?それならもっとしてもいいのか」
「ん……」

 耳元で囁かれた後、その耳を舐められて歯を立てられた。噛みつかれるのは嫌だ。でも、今回は体の力が抜けてしまった。いつもの早瀨が戻ってきたからだ。

 俺が大人しくしているのをいいことに、早瀬が俺のことを大きな柱の影に連れて行った。せっかくの綺麗な夕焼けが広がっているのに、それを見ずに、何度もキスをした。そして、早瀬の手がTシャツの中に入り、ゆっくりと撫でられた。くすぐったくて身じろいで文句を言おうとすると、キスで言葉を奪われた。

「ここじゃ……、やだよ」
「我慢できない。味見だけでいい」
「もう……」
「悠人……」
「裕理さん……」

 早瀬の目が熱っぽくなっている。するとその時だ。もう一度見つめ合ってキスをしようとすると、向こうの方から大きな声がした。聞いたことがある声だ。夏樹と黒崎さんのものだった。そして、その2人の光景を目にして、吹き出してしまった。夏樹達が抱き合った後、クルクルと回り始めたからだ。まるで小さな子とお父さんのようだ。小さな頃、そういうことをしている親子を見る度に羨ましいと思っていた。

 すると、夏樹の体が宙に浮いた。黒崎さんが抱えるようにして持ち上げて、回っているからだ。遠心力で飛んでいきそうなほどだ。そして、何度か回転した後、彼らがフラつきながら立ち止まった。そして、手を繋ぎ合って歩き始めていた。その姿を見ていると、照れくさい気持ちになった。そして、心が温かくなった。

「へへへ。魔法使いと少年が帰っていくよ。俺たちも帰ろっか?お腹空いたよ」
「シャワーを浴びてから、外へ食べに行こう。その前に……」
「なにーー?」

 すると、早瀬が俺の脇の下に両手を入れて、俺のことを抱き上げた。まさか同じ事をやるというのか。恥ずかしすぎる。

「やるのーー?」
「いけない?俺はやってみたい」
「恥ずかしいよ。やめようよ」
「もう遅い」
「うひぇー、ひいいいいっ」

 体が宙に浮いた。ただし、夏樹達がやっていた体勢とは異なっている。全体を抱え上げられて、俺の視線の先が地面にあるからだ。近所の子が、お父さんにやってもらっているのを見たことがある。飛行機というものだ。

「飛行機は怖いんだよー!」
「クルクルよりいいだろう」
「ひいいいっ」
「大丈夫、落とさないよ」

 抱えられたままで回転が始まった。さっきまで立っていたステージと湾の対岸にある観覧車や、ライトアップされ始めたレインボーブリッジが見えている。最初は怖かったが、続けてもらっているうちに、魔法使いの呪いによって、恐怖が楽しさに変化し、自然と笑い声が立った。

「裕理さん!もっとだよ!」
「これは……、どう?」
「げえええっ、怖い!」

 なんと、早瀬の肩に抱え上げられてしまった。それでも楽しくて笑っているうちに目が回って、立てなくなってしまった。早瀬は汗だくになって笑っていた。

 しばらく遊んでいるうちに、日が暮れてきた。早瀬の背後に広がった夕焼けが綺麗で、いつまでも見ていたいと思った。そして、手を繋いで帰る頃には、一番星が見えていた。俺達は今日の楽しい思い出を話しながら、家に帰って行った。
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