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翌朝。午前6時。
キッチンで朝食づくりをしているところだ。とはいっても、キッチンメイカーズで買ってきたスープを鍋で温めているだけだ。小さな泡が立ち始めたところでIHコンロのスイッチを切った。すると、ふんわりと、コーンスープの匂いが広がった。
「はふ~、いい匂いだな」
スープカップへ注ぎ入れて、カウンターへ置いた。ダイニングテーブルには、既に他の物を置いてある。これで完了だ。昨日から逆転している役割だ。普段なら早瀬がやってくれているからだ。
その早瀬はソファーへ座ってテレビを観ている。俺は朝食の支度をしている。こんなに手間がかかることをやらせていたのかと反省している。手伝っていても、ほんの少ししかしてなかった。
「裕理さーん、出来たよー」
「はーい。ありがとう」
「温めただけだよ」
お礼を言われてしまった。何だか照れくさいから、背中を押して座ってもらった。ふと、左手に視線を向けた。早瀬が夜中に何度も目を覚ましていたことを知っている。痛み止めを飲んでいても、痛みは消えないだろう。少しは楽をしてもらいたい。
「いただきまーす」
「いただきます」
向かい合わせになって食べていると、早瀬が左手を使いたそうにしている光景を目にした。元は左利きなのだろうか?
「裕理さん。もしかして、元は左利きなの?」
「よく分かったね」
「昨日からだよ。すぐに出るのは左の方だもん。おばあちゃんが言っていたんだけど、昔の人は右利きに直されたって」
「そう。直されたケースだよ」
「ええ?いまどき?変なことじゃないのに……」
「実家は頭が固いというか、価値観が変わっているんだよ。父はそうでもないけどね」
「そんな……」
俺の父親でも、そうではないはずだ。父方の叔父が左利きだからだ。どうしてそんな考え方なのだろう?実家のことを、ほとんど聞いたことがない理由だと思った。
「厳しい人がいるの?話したくなかったら聞かないけど……、出来たら聞かせてほしい。興味本位じゃないんだ。どうしたのかなって心配で……。子供の時に否定されたから、ツラい思いをした気がするんだよ……」
「そうだね。結婚したのに、両親のことを話していないのは、それこそ変な話だ。楽しい話じゃないから避けていた話題だ。いい機会だから話すよ」
「うん!」
「実家のことから話す。母は実母じゃない。本当のお母さんは母の妹なんだ。家を飛び出して、未婚で俺のことを産んで、俺が4歳の時に亡くなった。その後は姉夫婦の養子になった。今の両親だよ。小学5年生の時に、このことを聞かされた」
「そうだったんだ……」
「本当のお父さんには会ったことがない。20歳になったときに、お母さんの友達が訪ねてきた。その時にお母さんがどんなふうに育てられたのかを教えてくれた。悠人君と共通している部分がある。……どうして出来ないの?と、言われていたそうだ。母も同じようにされたはずだけど、何でもクリアできる人だ。俺も同じように育てられた。……俺も器用な方で、わりとクリアしてきたんだよ。……妹はそうじゃなくて、俺とは溝が出来ている。……父は俺と血のつながりがないのに、いつも庇ってくれていたよ。優しい人で、あの家で立場が弱い。本当は肝が据わっていて優秀な人だけど、前に出るタイプじゃない…」
だから余計に俺のことが気になり、理解してくれたのだと知った。早瀬の優しさには、そういう理由があったのか。どうして気づかなかったのだろう?恥ずかしいと思った。
「裕理さん。知らなくて、何も聞かなくてごめん。不思議に思わないといけなかったよ……」
「いいんだよ。俺が話さなかった。似たような部分があるから、君のことが気になったのは事実だ。惚れたことと、それとは別だよ。同情からじゃないからね。誤解するなよ」
テーブル越しに頭を撫でられた。疑えるわけがない。
「うん!大丈夫。疑う余地がないもん。こんなに愛情もらっているし。何も返せてないけど」
「そんなことはないよ。もう少し話そうか。黒崎ホールディングスへ就職するときに、親族から反対された。味方になってくれたのは父だった。息子が外の世界へ飛び込むことを応援すると言い切ったんだよ。普段は温厚な人がと、周りが驚いていた。両親は不仲で、特に母が父のことを馬鹿にしている。優秀な人だと思ったから結婚したのに、期待はずれだと。父は千尋製菓の役員をしていて、会社の争いごとに巻き込まれている。……今のトップは、祖父の年が離れた弟だ。体調のこともあって引退するんだけど、恥ずかしいことに、跡目争いが起きている。ワイドショーと週刊誌でも取り上げられたよ。……おかげで業績にも影響して、このままだと他の会社へ千尋製菓を売ることになる。社員は雇用が続くけど、経営陣は去ることが条件だ」
「戻って来いとか、手伝えって言われていないの?」
親子なら、そう言うのではないだろうか?元々、千尋製菓グループに来いと言われたのだから。
キッチンで朝食づくりをしているところだ。とはいっても、キッチンメイカーズで買ってきたスープを鍋で温めているだけだ。小さな泡が立ち始めたところでIHコンロのスイッチを切った。すると、ふんわりと、コーンスープの匂いが広がった。
「はふ~、いい匂いだな」
スープカップへ注ぎ入れて、カウンターへ置いた。ダイニングテーブルには、既に他の物を置いてある。これで完了だ。昨日から逆転している役割だ。普段なら早瀬がやってくれているからだ。
その早瀬はソファーへ座ってテレビを観ている。俺は朝食の支度をしている。こんなに手間がかかることをやらせていたのかと反省している。手伝っていても、ほんの少ししかしてなかった。
「裕理さーん、出来たよー」
「はーい。ありがとう」
「温めただけだよ」
お礼を言われてしまった。何だか照れくさいから、背中を押して座ってもらった。ふと、左手に視線を向けた。早瀬が夜中に何度も目を覚ましていたことを知っている。痛み止めを飲んでいても、痛みは消えないだろう。少しは楽をしてもらいたい。
「いただきまーす」
「いただきます」
向かい合わせになって食べていると、早瀬が左手を使いたそうにしている光景を目にした。元は左利きなのだろうか?
「裕理さん。もしかして、元は左利きなの?」
「よく分かったね」
「昨日からだよ。すぐに出るのは左の方だもん。おばあちゃんが言っていたんだけど、昔の人は右利きに直されたって」
「そう。直されたケースだよ」
「ええ?いまどき?変なことじゃないのに……」
「実家は頭が固いというか、価値観が変わっているんだよ。父はそうでもないけどね」
「そんな……」
俺の父親でも、そうではないはずだ。父方の叔父が左利きだからだ。どうしてそんな考え方なのだろう?実家のことを、ほとんど聞いたことがない理由だと思った。
「厳しい人がいるの?話したくなかったら聞かないけど……、出来たら聞かせてほしい。興味本位じゃないんだ。どうしたのかなって心配で……。子供の時に否定されたから、ツラい思いをした気がするんだよ……」
「そうだね。結婚したのに、両親のことを話していないのは、それこそ変な話だ。楽しい話じゃないから避けていた話題だ。いい機会だから話すよ」
「うん!」
「実家のことから話す。母は実母じゃない。本当のお母さんは母の妹なんだ。家を飛び出して、未婚で俺のことを産んで、俺が4歳の時に亡くなった。その後は姉夫婦の養子になった。今の両親だよ。小学5年生の時に、このことを聞かされた」
「そうだったんだ……」
「本当のお父さんには会ったことがない。20歳になったときに、お母さんの友達が訪ねてきた。その時にお母さんがどんなふうに育てられたのかを教えてくれた。悠人君と共通している部分がある。……どうして出来ないの?と、言われていたそうだ。母も同じようにされたはずだけど、何でもクリアできる人だ。俺も同じように育てられた。……俺も器用な方で、わりとクリアしてきたんだよ。……妹はそうじゃなくて、俺とは溝が出来ている。……父は俺と血のつながりがないのに、いつも庇ってくれていたよ。優しい人で、あの家で立場が弱い。本当は肝が据わっていて優秀な人だけど、前に出るタイプじゃない…」
だから余計に俺のことが気になり、理解してくれたのだと知った。早瀬の優しさには、そういう理由があったのか。どうして気づかなかったのだろう?恥ずかしいと思った。
「裕理さん。知らなくて、何も聞かなくてごめん。不思議に思わないといけなかったよ……」
「いいんだよ。俺が話さなかった。似たような部分があるから、君のことが気になったのは事実だ。惚れたことと、それとは別だよ。同情からじゃないからね。誤解するなよ」
テーブル越しに頭を撫でられた。疑えるわけがない。
「うん!大丈夫。疑う余地がないもん。こんなに愛情もらっているし。何も返せてないけど」
「そんなことはないよ。もう少し話そうか。黒崎ホールディングスへ就職するときに、親族から反対された。味方になってくれたのは父だった。息子が外の世界へ飛び込むことを応援すると言い切ったんだよ。普段は温厚な人がと、周りが驚いていた。両親は不仲で、特に母が父のことを馬鹿にしている。優秀な人だと思ったから結婚したのに、期待はずれだと。父は千尋製菓の役員をしていて、会社の争いごとに巻き込まれている。……今のトップは、祖父の年が離れた弟だ。体調のこともあって引退するんだけど、恥ずかしいことに、跡目争いが起きている。ワイドショーと週刊誌でも取り上げられたよ。……おかげで業績にも影響して、このままだと他の会社へ千尋製菓を売ることになる。社員は雇用が続くけど、経営陣は去ることが条件だ」
「戻って来いとか、手伝えって言われていないの?」
親子なら、そう言うのではないだろうか?元々、千尋製菓グループに来いと言われたのだから。
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