海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 ガチャ……。

 早瀬の書斎に入った。ここに入るのは掃除機を掛ける時だけだ。一切、触らないように気をつけている。すぐに目に飛び込んで来たのが大きな本棚だ。最近はよく本を読んでいるから、たくさん置いてある。借りて読みたいと思ったこともある。

 L字型のシンプルな机の上には、パソコンとペン、ファイルだけが置かれている。インテリアもシンプルで、仕事モードの早瀬を表しているかのようだ。ギタリストの時は、ヘンテコなグッズを好んで買っている。それはリビングに置いてある。

「ヘンテコなグッズがないんだね?」
「『遊び心』と言ってほしい」

 早瀬に背中を叩かれて、部屋の中へ入った。デスク前には椅子があり、座らされた。そこで目にしたのは、デスクトップパソコンの壁紙だった。なんと俺の写真が表示されていて驚いた。

「なんで俺の?」
「好きだからに決まっているだろう。スマホもノートパソコンも、タブレットもそうだよ」
「げええええっ」
「おーい、ゆうとくーん。戻ってこーい」

 思わず椅子を引いて後ずさりをしてしまった。それぐらいに衝撃を受けたからだ。冷静で冷たいイメージがぶっ壊れた瞬間だった。恐る恐るデスクの前に戻ると、さらにデジタルフォトフレームを見せられた。

「これは会社のデスクに置いてあるんだけど、磨きたくて持って帰って来た。見てごらん」
「見たくないよ!」
「変な写真は入っていないよ。ほら……」

 表示されたものは予想通り、俺の写真だった。遠藤さん家のリクと写っているもの、コンテストの入賞時の演奏風景、ステージが終わった直後のものだった。いつの間に、こんな枚数を撮ってくれたのだろう?

「これは初めて箱根へ遊びに行った時だよ。コーヒー風呂が面白かったね。これは駅まで行っている時のやつだ。遊覧船乗り場の近くだよ」
「すごいね。こんなに撮ってくれたんだ……」

 俺は早瀬の写真を1枚しか持っていない。それも大勢で撮ったものだ。コンテストが終わった時のやつだからだ。急に胸が痛くなった。大事にしていない気がしたからだ。早瀬はこうして写真を飾ってくれているというのに。

「どうしたんだ?」
「裕理さんの写真が欲しいなあって……」
「自撮りがあるだろう?奥村君に送りつけたやつが」
「あれは消した。腹が立ったから」
「また撮ればいい。これで分かってくれただろう。仕事中でも、君のことを考えているって」
「へへへ……」

 照れくさいのと嬉しいとで、心はごちゃ混ぜだ。早瀬の体に腕を回して抱きついた。頭を撫でられて頬をすり寄せた。そこで、何となくフォトフレームへ視線を向けると、新しいアルバムが表示された。

「見てないやつだね。どんなの?」
「あ……」

 早瀬が口ごもった直後に表示された写真を見て、言葉を失った。それは俺がベッドで寝ているもので、腹を出しているものだった。次に出て来たのは寝顔のアップ、全体を撮ったものは上半身裸だった。まさか抱かれた後か?

「何だよこれ?」
「あーあ……」

 次に表示されたものは、風呂あがりにお茶を飲んでいるところだ。短パン姿で膝を抱えて座っている。アングルが妙に低く、足が強調されている気がした。これを撮られた覚えはない。

「ひいいいいっ」
「ごめん。出来心だ」
「変質者!!」
「好きだからだ。これは浴衣を着たところだよ。元気に走り回るから、着崩れていて色っぽかったよ。今夜も着てみないか?」
「開き直るなよ!トリャーー!」

 早瀬のケツを目掛けて、足を振り上げた。蹴ることに成功したものの、座ったままだからバランスを崩してしまった。ヨロけて落ちそうになると、早瀬から抱かれて支えられた。

「あぶないよ」
「たすかった~、あ……」

 目の前に早瀬の鎖骨があった。Tシャツの襟ぐりから見えている。さらにその中には、しっかりした胸元があった。急にベッドの中を思い出し、全身が熱くなった。

「ありがとう」
「どういたしまして」
「うん……」

 腕の中から抜け出して体勢を整えようとすると、抱きかかえられて机の上に座らされた。後ろは壁だから、後ずさりができない。肩を壁に押し付けられて、顔が近づいて来た。

「変態!」
「さっきはキスをしてくれたのに?」

 苦笑して頭を軽く小突いて来た。たしかにさっきはそういうことをしたけれど、今は状況が違う。両足を使って、早瀬のことを押しのけた。

「変態写真集を見せられたからだよ!見直して損したよ」
「さすがにデスクでは披露していないよ。最初のアルバムだけ」
「会社にいる時の裕理さんって、どんな人なんだよ?」

 言い返した後、ふと、夏樹の話を思い出した。
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