海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 早瀬が楽しそうに笑っている。エロいことをするわけではなさそうで、ホッとした。遊んでいるのだろう。だから俺は肩の上に乗せた自分の両足をバタつかせて遊んだ。すると、早瀬が足を掴んで止めてきた。

「どうしたの?」
「今から好きな子をイジメる」
「え……」
「悠人。いい子にしていろよ……」

 抱きかかえられるような体勢になり、体が密着した。頬に熱い息が掛かって身体が震えた後、唇も温かくなった。何度も触れ合って重なっていくうちに、両足が降ろされて自由になった。そして、ジンジンしている唇が離れた後、至近距離で見つめ合った。

「どんな目をしているのか、自覚していないだろう?」
「していないよ。どんな目?」
「当ててみろ」
「んん……」

 当ててみろ。そう言ったくせに言葉を奪ってきた。ギタリストでも仕事モードでも、強引なことには変わりがないようだ。

「仕事モードを見て怖かったって?こういう時の方が怖くないのか?」
「今の裕理さんは怖くない。優しいから」
「いつも優しくしているよ。君にはね」
「他の人には優しくないわけ?外で誰かに会った時とか優しいじゃん」
「意味が違う。今から教えるよ」

 早瀬の目と声から、色気がただ漏れになった。さっきまで優しい人だったのに。まるで肉食動物のようで、食べられそうだ。

「わああ……、今は怖いって」
「これも俺もだ」
「んん……、ちょっと」

 首筋に熱い息がかかり、軽く噛みつかれた。痛くはなくて優しい力だ。背中がゾクっと震えて目を閉じると、耳元で笑い声を立てられた。

「悠人、目を開けてみろ」
「やだ、怖いよ」
「怖くないはずだ。ほら……」
「うん……え?」

 早瀬の目が、さらに熱っぽく変わっていた。唇が近づいてきて、肩や鎖骨に歯を立てられていく。座っているのが机の上で、後ろには壁がある。隣には本棚があり、目の前には早瀬がいる。左側に逃げようとすると腕で阻まれた。

「裕理さん、虎みたいだね……」
「うーん、たしかに動物の中では一番好きだ」
「だからお菓子の名前が、トラのユーリなの?」
「正解。父が提案したものだ」
「ぷぷぷ……、えーっと」

 笑って誤魔化したのに、空気は変わらない。それどころか、さらに早瀬を取り巻く空気が変化した。強引な人の登場だ。

「茶化しても無駄だぞ。ここで丸ごと食べるから」
「書斎だよ」
「たまにはいいだろう。いつもベッドだからね。ああ、ソファーで一回だけ抱いたか。ダイニングも、バスルームでも拒否された。ここならいいだろう?」
「どういうセレクトだよ?ベッドでするものだろ?」
「固定概念を捨てようね。どこでも抱けるんだよ。大人はね……」
「俺はそうしたくないから。電気がついているし、毛布もシーツもないから丸見えじゃん。みっともないよ」
「いつも隠されて見えない。こっちは見たくてたまらない。風呂に入っている時は生殺しだ」
「だったら一緒に入らなくてもいいだろ?」
「そうやって慣らしていってるんだよ。優しくするから先に進もう」

 座っている机から伝わるのは、固くて冷たい感触だ。天井からの明るい照明が、早瀬のことを照らしている。濡れたような目も唇も、Tシャツから見えている鎖骨からの色気も丸見えだ。

「あ……」
「どう見えているか教えてあげるよ。色っぽくて綺麗だよ。でも、可愛い反応をしているから、そのギャップが堪らない」
「あの……」
「我慢できない。愛している」
「……っ」
「観念したか。いい子だねー。ゆうとー?」
「やめてよ……」
「やめない。可愛がってあげるよ」

 耳元で囁かれた後、深いキスをされた。そして、肉食獣のような早瀬に、丸ごと食べられる夜を迎えた。
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