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午前11時。
午前中の作業目標が達成できたことを知ったのは、早瀬からの声掛けだった。そのことを知らないまま、次の業務に取り掛かろうとして止められた。
「午前中の分が終わっているよ。休憩に行こう」
「いえ、時間がかかると思うので……」
「休憩した方が効率が上がる、行こう」
「はい」
言葉だけで促されて席を立った。すでに先へ歩き進んでいるから、急いで早瀬の元へ向かった。ここへ来た時は背中に手を添えられていたのに、今は適度な距離がある。オフィスを通っている間、社員さん達から声を掛けられた。
「おつかさまー」
「お疲れ様です」
「悠人君、こっち」
「はい」
早瀨からカフェスペースへ入るように促された。中に入ると、たくさんの椅子が並んでいた。しかし、狭くるしさがなく、寮の部屋が2つ分ぐらいで、12畳程度の広さだと思った。
「広いんだね。飲み物の種類が多いね。この珈琲、美味しそう」
「これにしよう。座っていていいよ」
早瀨から先に椅子を引かれたから、素直に腰かけた。ここで自分がやると言い出すと、機嫌が悪くなるからだ。拗ねるという表現が合うだろう。
早瀬がやってくれるということには、ある程度は甘えるようにした。夏樹に話すと、年が離れているからこそ、心配事が増えるのだろうと言っていた。早瀨は世話好きだから、そそっかしい俺のことを放っていけないのだと。もちろん、独占欲もあるだろうと。それは愛されている証で、度が過ぎればケツを叩けと、アドバイスを受けた。
つまりは、手綱を引けと言うことだが、遠い道のりだと感じている。午前中だけでも、早瀬が有能だと知ったからだ。その場面に遭遇したから実感できた。
失敗しても相手を責めない人だと分かった。白澤さんという部下の一人がミスをしたようで、その対処と、次から起こさないような案を考えていた。そして、白澤さんへのフォローもしていた。
今日の早瀨は入れ替わり立ち代わり、10人以上と会話をしていた。その度に手を止めているのに、焦った様子もない。電話が来ればファイルを開き、部下からの報告を聞き、さらに黒崎さんからの依頼を受けていた。要求を全て飲むわけではなく、きっぱりと断ることもやっていた。その時は、こんな会話をしていた。
(白澤君。最もやってほしい仕事は、直近に命じた仕事だ。最後に指示されたことから、最初にやるようにようにすればいい)
(はい……)
(早瀬、このスケジュール管理表を作ってくれ)
(……常務、僕は秘書ではありません)
(駄々をこねるぞ)
(……見たくありません。お気に召す様なフォーマットを、秘書室に送っておきます。一時間程度、悠人のガードをお願いします。会議で席をはずしますので)
(分かった。その席で仕事をする)
(メンバーが委縮するので、ほどほどにお願いします)
はあ……。ため息をついた。思い出すだけでも、尻に敷く日が遠いことを知ったからだ。すると、早瀨から話しかけられた。
「どうした?考え込んで」
「裕理さんのことが凄いなって思ったんだ」
「……ぷっ」
早瀬が笑い、俺の頬にキスをした。ここはオフィスだ。でも、入り口のスクリーンを下ろしてあるから外からは見えない。だからというわけではないが、抵抗せずに早瀬のことを見つめた。少しだけ彼のことを怖いと思っていた気持ちがほぐれたからだ。
「ずいぶん大人しいじゃないか」
「今は怒れないよ。ホッとしてるもん」
「そうか……」
今度は苦笑された。椅子に座って同じ高さに目線を合わせた後、顔が近づいてきた。今度は唇へのキスを受け取った。
「さあ、飲んで仕事に戻ろう。まだ作業が残っている」
「午前中の分は終わったんだよね?」
「そうだよ。仕事が早いから、午後まで退屈だろう。やってほしいことがある」
コーヒーを飲み終わってデスクに戻った後、早瀬から追加の仕事を渡された。それは見るだけでも手間がかかりそうなもので、顔を引きつらせている俺を見て、彼が楽しそうに笑っていた。
午前中の作業目標が達成できたことを知ったのは、早瀬からの声掛けだった。そのことを知らないまま、次の業務に取り掛かろうとして止められた。
「午前中の分が終わっているよ。休憩に行こう」
「いえ、時間がかかると思うので……」
「休憩した方が効率が上がる、行こう」
「はい」
言葉だけで促されて席を立った。すでに先へ歩き進んでいるから、急いで早瀬の元へ向かった。ここへ来た時は背中に手を添えられていたのに、今は適度な距離がある。オフィスを通っている間、社員さん達から声を掛けられた。
「おつかさまー」
「お疲れ様です」
「悠人君、こっち」
「はい」
早瀨からカフェスペースへ入るように促された。中に入ると、たくさんの椅子が並んでいた。しかし、狭くるしさがなく、寮の部屋が2つ分ぐらいで、12畳程度の広さだと思った。
「広いんだね。飲み物の種類が多いね。この珈琲、美味しそう」
「これにしよう。座っていていいよ」
早瀨から先に椅子を引かれたから、素直に腰かけた。ここで自分がやると言い出すと、機嫌が悪くなるからだ。拗ねるという表現が合うだろう。
早瀬がやってくれるということには、ある程度は甘えるようにした。夏樹に話すと、年が離れているからこそ、心配事が増えるのだろうと言っていた。早瀨は世話好きだから、そそっかしい俺のことを放っていけないのだと。もちろん、独占欲もあるだろうと。それは愛されている証で、度が過ぎればケツを叩けと、アドバイスを受けた。
つまりは、手綱を引けと言うことだが、遠い道のりだと感じている。午前中だけでも、早瀬が有能だと知ったからだ。その場面に遭遇したから実感できた。
失敗しても相手を責めない人だと分かった。白澤さんという部下の一人がミスをしたようで、その対処と、次から起こさないような案を考えていた。そして、白澤さんへのフォローもしていた。
今日の早瀨は入れ替わり立ち代わり、10人以上と会話をしていた。その度に手を止めているのに、焦った様子もない。電話が来ればファイルを開き、部下からの報告を聞き、さらに黒崎さんからの依頼を受けていた。要求を全て飲むわけではなく、きっぱりと断ることもやっていた。その時は、こんな会話をしていた。
(白澤君。最もやってほしい仕事は、直近に命じた仕事だ。最後に指示されたことから、最初にやるようにようにすればいい)
(はい……)
(早瀬、このスケジュール管理表を作ってくれ)
(……常務、僕は秘書ではありません)
(駄々をこねるぞ)
(……見たくありません。お気に召す様なフォーマットを、秘書室に送っておきます。一時間程度、悠人のガードをお願いします。会議で席をはずしますので)
(分かった。その席で仕事をする)
(メンバーが委縮するので、ほどほどにお願いします)
はあ……。ため息をついた。思い出すだけでも、尻に敷く日が遠いことを知ったからだ。すると、早瀨から話しかけられた。
「どうした?考え込んで」
「裕理さんのことが凄いなって思ったんだ」
「……ぷっ」
早瀬が笑い、俺の頬にキスをした。ここはオフィスだ。でも、入り口のスクリーンを下ろしてあるから外からは見えない。だからというわけではないが、抵抗せずに早瀬のことを見つめた。少しだけ彼のことを怖いと思っていた気持ちがほぐれたからだ。
「ずいぶん大人しいじゃないか」
「今は怒れないよ。ホッとしてるもん」
「そうか……」
今度は苦笑された。椅子に座って同じ高さに目線を合わせた後、顔が近づいてきた。今度は唇へのキスを受け取った。
「さあ、飲んで仕事に戻ろう。まだ作業が残っている」
「午前中の分は終わったんだよね?」
「そうだよ。仕事が早いから、午後まで退屈だろう。やってほしいことがある」
コーヒーを飲み終わってデスクに戻った後、早瀬から追加の仕事を渡された。それは見るだけでも手間がかかりそうなもので、顔を引きつらせている俺を見て、彼が楽しそうに笑っていた。
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