海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

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 午前9時。

 遅めの朝ごはんの支度している。今日は平日で、早瀬が有給休暇を取ってくれた。自分も大学を休んで、今日の誕生日を一緒に過ごす。午後からは、黒崎製菓主催のハロウィンイベントに出かける。枝川さんから誘われる前から、その予定だったらしい。賑やかで楽しそうだ。

「ゆうとくーん、トーストを何枚食べる?」
「4枚切りだよね?4枚、食べる」
「はいはい。バターを用意してくれ」
「はーい」

 バタバタ。キッチンへ移動して、冷蔵庫を開けた。すると、ラッピングされた箱が入っていた。

「裕理さん。この箱はなに?お菓子をもらったの?」
「うん?どれだ?」
「これだよ」
「月夜のレンジャーからだ。昨夜、ブルーが枕元に立っていた。悠人君にプレゼントを渡してほしいって頼まれた。君が起きないからって。開けてごらん」
「……枕元に立ったって。オバケじゃないだろーー」

 そう言い返したものの、胸が熱くなっている。いつも軽口を叩いているくせに、こういう時にはストレートな表現をしないからだ。自分と似ていると思う。意地っ張りなところも同じだ。

 ドキドキしながら箱を開いた。入っていたのは、ショーウィンドウで眺めていた腕時計だった。

「裕理さん、これは……」
「腕時計だね?君が見ていたものと同じじゃないか?よかったね」
「うん……」
「嬉しくないのか?」
「嬉しいよ!」

 どうしよう?高価なはずだ。まだ社会人にもなっていないのに。

「物で釣ろうとはしないよ。分かっているだろう?」
「そんなこと思っていないよ。ありがとう!裕理さんの誕生日、12月7日だよね。いいものを選ぶよ」
「物は要らないよ。一緒にいて祝ってもらえたらいい」

 それだけ言うと、早瀬がオムレツを作り始めた。カタカタと音を立てながら、ボールで卵を混ぜている。こういう光景がプレゼントだと思っている。朝起きると家族がキッチンに立っていて、もっと早く起きろと叱られる光景だ。

「ん?どうした?」
「嬉しいよ」
「そうか~、物で釣られたのか。君はそういう子だったのか」
「そうじゃないよ!朝ごはんを用意してくれる人がいるからだよ」
「遠藤さん家のリクがオムレツを作っていた方が嬉しいかもしれないね」
「それはそうだけど。……もう、違うってば」
「俺も嬉しい。朝起きたら誰かいて、朝ごはんを用意している光景がほしかった。一人なら面倒くさくて作らない。そうだろう?」
「そうだねーー」

 カタカタ。早瀬がフライパンの方に移動したから、背中から抱きついて移動した。そして、今度はシンクの方に移動したから、一緒に移動した。さらに抱きついたままで右に移動した。だんだん面白くなり、かけ声を上げてみた。最近の俺たちの行動の一つだ。とても人前では披露できない。抱きついたままで、ステップを踏んだ。この工程だと、右、左、右へと動くはずだ。

「裕理さーん。オムレツソースはー?」
「バジルとトマトソースだ。簡単レシピだ」
「おおーー、みぎ?」
「右だよ、左、右」
「みぎ、ひだり、みぎー」
「トマト、トマト、トマト」
「トマト、トマト、トマトー」
「カボチャ、カボチャ、カボチャ」
「サラダ、サラダ、サラダー」

 どうしよう?恥ずかしいことをしている。幸せを感じているから、どうしようもない。このままだと朝ご飯が始まらない。だんだん恥ずかしくなってきた頃に、自分の携帯から着信が鳴った。早瀬からは手を握られている。電話に出られないようにするための意地悪だ。

「電話だよーー」
「誰からだ?」
「しらない!」

 何度か困ると言うと、さすがに手を離してくれたから、急いでソファーへ走って行った。
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