海のそばの音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖

文字の大きさ
149 / 259

12-10

しおりを挟む
 その対象物は、遠目で男性だと分かった。彼の周りには大きなフラフープのような輪っかがある。大きな飾り付けがされていて、クルクル回っている。それを男性が中心に立って支えて持っている状態だ。その周囲では、馬の着ぐるみ姿の4人が一緒に回っている。そばの看板には、こう書かれていた。

「ぷぷぷっ。人力・メリーゴーランドだって!」
「子供をおんぶしているぞ」
「うひぇーー?」

 馬の着ぐるみの人が、男の子を背負って回り始めた。いっそう、メリーゴーランドに見えてきた。面白そうだから近くまで行くと、それは平田さんだと分かった。

「もっとだよー」
「クルクルー、クルクルー」
「るるる~、木馬が逃げ出した~、メリーゴーランドが~、止まった~」
「わあーい」
「こらー!平田ー!」
「3人じゃ無理だぞ!」

 平田さんが歌いながら、輪を抜け出した。木馬の3人と輪っかの中心が叫んでいる。これで仕組みが判明した。大きな輪っかを紐で結んで、それを木馬が持つことで、メリーゴーランドが完成している。残された3人では重そうで、ヨロけていた。計画的な逃亡か?早瀬が笑いながら茶々を入れた。

「3人で持てばいいだろう?」
「そんなー、室長、横暴です」
「問題発言です」
「……今は、プライベートだ」
「キャラクターが違いますよー?」
「室長、協力してくださいよー」
「裕理さん、平田さんが戻って来るまで……」
「だーめ。デート中だ」
「じゃあ、俺が回るよ。面白いし」

 木馬が困っているから、持ち上げる要領で紐を手にした。けっこう重くて後悔した。ここで怯んでは、男がすたる。

「ふん、えい、やあ!」
「こら、無理をするな」
「ううん、やる!」
「はいはい。俺が持つよ」

 早瀬が紐を持とうとした時、物体が軽くなった。右側に持ち上がったことで振り向いた。そこには、黒いマントを被った人が立っていた。輪っかを、軽々と片手で持ち上げている。

「……これ、持ってもいいですかー?」
「それはもちろん!いいんですか?」
「面白そうなので。これを着ているから、木馬のイメージじゃないけど」

 その人は男性であり、ゲラゲラ笑っている。そのノリに安心したようで、メンバーが声をかけあった。もう交代しておけと、早瀬から肩を抱かれて離れた。

「メリーゴーランド~クルクル~」
「ぎゃはははっ、クルクルーー」
「魔法使いのお兄さんも~、クルクルー」

 一気に明るくなり、ギャラリーが増えてきた。すると、バンドマンの子が騒ぎ始めて、口々に囁き合っている。佐久弥じゃないか?と。

「佐久弥だろーー!?」
「まさかー?」
「今夜限定のバンドに出るんだぞ」
「ええー?あの、佐久弥さんですかー?」

 その問いかけに反応して、男性がフードを取った。みんなが言っている通りの人だった。佐久弥が大笑いをしながら回っていた。

 夏のコンテストで会った時には、落ち着いた感じだったのに。桜木さんと似ていると思ったのに。目の前で無邪気に走り回っている人は、まるで別人に見えた。

「裕理さん、佐久弥なの?」
「そうだ。佐久弥だ……」

 早瀬が驚いていた。そして、小さく頷いて笑った。肩を抱いている手に力が入り、包み込まれるようにして、背後から抱きつかれた。そして、頭の上に顎を乗せられて、その重みが安心できた。一時間前に呪いが解かれた早瀬が、ヒーローとクランが混ざったような笑顔になっている。

「佐久弥も呪いが解けたか。蔵之介が解いたのか……」
「それは誰?」
「佐久弥の恋人だ。植本さんから聞いた」
「マジで?誤解してたよ!裕理さんのこと、まだ好きかもって」
「好きだろうね。俺はいい男だから」
「バカ。本性を出し過ぎだよ!」

 早瀬の腕に噛みついてやった。けっこう本気だ。いつも噛みつかれている仕返しとしてだ。

「いたい、悠人君、こら、やめなさい」
「ヒーロー・ユーリ!いい子マン!我慢しろ!」
「さっきのは冗談だ。そこまで自信過剰じゃない」
「だったら言うな」
「ああもう。可愛げがなくなって来たぞ?」
「知らないよ。佐久弥と一緒にクルクル回って来るからね!」
「……おい、それは」
「都合が悪いわけー?」

 早瀬が笑ったから、安心してメリーゴーランドへ向かっていった。輪っかの中心は、マーケティング推進室の人だった。仲間入りをさせてもらうと、佐久弥がいじめっ子の顔になった。

「佐久弥。久しぶりーー!」
「ゆうとくーん、度胸があるんだなー?」
「バーーーカ」
「ゆうとくーん、おままごと婚の片割れが心配しているぞ?」
「平気だよ!誓い合った仲だから」
「ぎゃはははっ、もっと回れよ~」
「わわわっ、みんなのスピードに合わせろよ」

 わあわあと言い合って、メリーゴーランドの仲間になった。無邪気な魔法使いと、男らしい騎士が回っている状況だ。あっという間に息が切れてしまい、立ち止まって休んだ。早瀬が迎えに来た後、佐久弥の元へは、大柄な男性がやって来た。蔵之介さんだと早瀬が言っていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

恋人はメリーゴーランド少年だった~永遠の誓い編

夏目奈緖
BL
「恋人はメリーゴーランド少年だった」続編です。溺愛ドS社長×高校生。恋人同士になった二人の同棲物語。束縛と独占欲。。夏樹と黒崎は恋人同士。夏樹は友人からストーカー行為を受け、車へ押し込まれようとした際に怪我を負った。夏樹のことを守れずに悔やんだ黒崎は、二度と傷つけさせないと決心し、夏樹と同棲を始める。その結果、束縛と独占欲を向けるようになった。黒崎家という古い体質の家に生まれ、愛情を感じずに育った黒崎。結びつきの強い家庭環境で育った夏樹。お互いの価値観のすれ違いを経験し、お互いのトラウマを解消するストーリー。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

回転木馬の音楽少年~あの日のキミ

夏目奈緖
BL
包容力ドS×心優しい大学生。甘々な二人。包容力のある攻に優しく包み込まれる。海のそばの音楽少年~あの日のキミの続編です。 久田悠人は大学一年生。そそっかしくてネガティブな性格が前向きになれればと、アマチュアバンドでギタリストをしている。恋人の早瀬裕理(31)とは年の差カップル。指輪を交換して結婚生活を迎えた。悠人がコンテストでの入賞等で注目され、レコード会社からの所属契約オファーを受ける。そして、不安に思う悠人のことを、かつてバンド活動をしていた早瀬に優しく包み込まれる。友人の夏樹とプロとして活躍するギタリスト・佐久弥のサポートを受け、未来に向かって歩き始めた。ネガティブな悠人と、意地っ張りの早瀬の、甘々なカップルのストーリー。 <作品時系列>「眠れる森の星空少年~あの日のキミ」→「海のそばの音楽少年~あの日のキミ」→本作「回転木馬の音楽少年~あの日のキミ」

僕の恋人は、超イケメン!!

BL
僕は、普通の高校2年生。そんな僕にある日恋人ができた!それは超イケメンのモテモテ男子、あまりにもモテるため女の子に嫌気をさして、偽者の恋人同士になってほしいとお願いされる。最初は、嘘から始まった恋人ごっこがだんだん本気になっていく。お互いに本気になっていくが・・・二人とも、どうすれば良いのかわからない。この後、僕たちはどうなって行くのかな?

ミルクと砂糖は?

もにもに子
BL
瀬川は大学三年生。学費と生活費を稼ぐために始めたカフェのアルバイトは、思いのほか心地よい日々だった。ある日、スーツ姿の男性が来店する。落ち着いた物腰と柔らかな笑顔を見せるその人は、どうやら常連らしい。「アイスコーヒーを」と注文を受け、「ミルクと砂糖は?」と尋ねると、軽く口元を緩め「いつもと同じで」と返ってきた――それが久我との最初の会話だった。これは、カフェで交わした小さなやりとりから始まる、静かで甘い恋の物語。

想いの名残は淡雪に溶けて

叶けい
BL
大阪から東京本社の営業部に異動になって三年目になる佐伯怜二。付き合っていたはずの"カレシ"は音信不通、なのに職場に溢れるのは幸せなカップルの話ばかり。 そんな時、入社時から面倒を見ている新人の三浦匠海に、ふとしたきっかけでご飯を作ってあげるように。発言も行動も何もかも直球な匠海に振り回されるうち、望みなんて無いのに芽生えた恋心。…もう、傷つきたくなんかないのに。

雪解けを待つ森で ―スヴェル森の鎮魂歌(レクイエム)―

なの
BL
百年に一度、森の魔物へ生贄を捧げる村。 その年の供物に選ばれたのは、誰にも必要とされなかった孤児のアシェルだった。 死を覚悟して踏み入れた森の奥で、彼は古の守護者である獣人・ヴァルと出会う。 かつて人に裏切られ、心を閉ざしたヴァル。 そして、孤独だったアシェル。 凍てつく森での暮らしは、二人の運命を少しずつ溶かしていく。 だが、古い呪いは再び動き出し、燃え盛る炎が森と二人を飲み込もうとしていた。 生贄の少年と孤独な獣が紡ぐ、絶望の果てにある再生と愛のファンタジー

処理中です...