アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 午前11時30分。

 今、新居に居る。たくさんの段ボールや家具が新居に運び込まれた後だ。業者さんに家具の設置を手伝って貰い、片付いたところだ。黒崎の腰痛が心配だったけれど、今のところ大丈夫そうで良かったと思っている。

 午前中に荷物の運び入れが終わり、業者さん達が帰った。新居には俺達と、お義父さん、遠藤さん夫婦がいる。遠藤さんの奥さんが俺達に昼ご飯を持ってきてくれた。美味しそうなサンドイッチだった。

「夏樹君。よかったら食べてね」
「ありがとうございます!」

 手を洗い、テーブルを布巾で拭いた後、ランチボックスに入っているサンドイッチを手に取った。レタスとハムが入っている。さっきからお腹が空いていた。朝ご飯を少なめにして良かったと思った。

「夏樹。美味しそうだな」
「夏樹ちゃん。よかったね」
「うん」

 サンドイッチを食べている間、黒崎とお義父さんから見つめられた。なんだか子供扱いをされている気がして、恥ずかしくなった。段ボール類が並んでいる新居のリビングでは、俺一人が食べている状況だ。遠藤さんの奥さんは佳代子さんという。母よりも3つ年上の人だ。まるで実家に居る気分になった。

「佳代子さんは食べないんですか?」
「私たちも食べるわよ。こんなに見られたら食べにくいでしょう。ふふふ」
「いただきます」

 遠藤さん夫婦がサンドイッチを手に取った。そして、黒崎とお義父さんも食べ始めた。

 ここから庭を眺めることができる。そこには、畑の跡がある。俺も家庭菜園をやってみたいという話を遠藤さんにすると、おすすめの土を持ってきてくるという話になった。お世話になりっぱなしだ。そして、俺が開明高校の創立記念日に歌ったステージの動画の話になり、また褒めてもらえて、嬉しさがあるものの、恥ずかしくなってしまった。すると、遠藤さんが言った。

「そんなに恥ずかしがることはない。良いステージだったと思う。今度、ここで歌を聴かせてくれないか?」
「もちろん喜んで」

 俺が返事をすると、黒崎が微笑んだ。リビングと隣の部屋の間には開閉可能な壁があり、その部屋にピアノを置いてある。壁を開けば一つの広い部屋になる。リサイタルができるぞという黒崎の言葉に緊張したら、遠藤さんが笑った。

「圭一君。夏樹君が緊張しているぞ」
「黒崎さーーん。そうだよ!緊張するじゃん」

 俺が言い返すと、みんなが笑った。するとその時だ。庭から風が吹き込んできて、土の匂いがした。ホッとする感じがする。そして、ここで暮らすのだと実感し、温かな気持ちになれた。

(黒崎さん。笑っている。お義父さんも……)

 サンドイッチを食べながら、遠藤さん夫婦と笑顔で話している黒崎とお義父さんを見て、ここに引っ越してきて良かったと思った。そして、俺も頑張ろうと思った。新生活に期待を込めながら。
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