アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 7時半。

 黒崎家の門の前に、タクシーが停まった。これから黒崎が出張するためだ。すると、スーツ姿の黒崎が玄関を出てきた。それと同時に、ご近所さんからのため息が聞こえた。こうして毎朝、黒崎の出勤を見送ってくれる。朝の散歩のついでや出勤の途中で、全てが女性だ。

 運転手さんがスーツケースをトランクに入れた。黒崎がキスをしてくれようとしていたけれど、さすがに人が見ているから素直に諦めた。

「いってらっしゃい」
「いってくる。今日の授業は2時限と3時限目だけだったな。大学到着時、学食、帰宅前、帰宅後に連絡しろ」
「うん。ラインを入れるよ」
「山崎さんに声を掛けてから大学へ行け。具合が悪くなるといけない。帰った後は敷地内から出るな」
「うん。今日はお義父さんの家で泊まるよ。晩ご飯もご馳走になるから」
「夜更かしするな」
「うん。大丈夫だよ。恥ずかしいよ……」
「行ってくる。いい子にしていろよ」
「うん」

 頬に温かい感触があった。黒崎が軽いキスをしてくれたのに、すぐに気づかなかった。俺達の様子を見て、近所の山本さんが微笑んでいた。そして、佳代子さんが黒崎に手を振った。みんなに見送られている。俺も黒崎のことを、手を振って見送った。
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