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15時。
お義父さんの家の客間のベッドで休んでいるところだ。すっかりお世話になっている。家に帰り着いたタイミングで、山崎さんが来てくれた。帰りが遅いから心配してくれていた。俺の携帯へ連絡しようかと思いながらも、まだ病院の中だったらと思い、待ってくれていた。
山崎さんは、9時から18時までの勤務だ。夜は田所さんというお手伝いさんがいる。俺の体が弱いと知らされている。体のこと、よく風邪を引くこと、おまけに小食だという話を、お義父さんがしてくれていた。
「そんなに弱くないけどなあ。お義父さんも黒崎さんも心配症なんだよ……。ごほっ、ごほっ」
今日はお昼ご飯をご馳走になった。温野菜に鶏のササミ、たまご入りのおかゆだった。誰かに作ってもらったのは久しぶりのことだ。美味しかったし、嬉しくてお代わりをした。
昼過ぎから咳がひどくなり、熱っぽさも増してきた。脇に挟んだ体温計を取り出した。
「わあ……。38.3度。薬は急に効かないもんね。ウロついたのがマズかったかな」
どうりで体が痛いはずだ。肩までシーツをかけて潜り込んだ。アンのことは、山崎さんが見ていてくれている。動物好きの人が多くて有難い。
「はあ……。島川さんか~」
本屋でのことを思い出して、胸がチクチクした。さっさと寝て忘れてしまおうと思った。かといって、すぐには寝付けずにいた。強くならないといけないのに、島川さんの言葉が忘れられない。頭の中でドラマのように再現されている。
「ごほっ。ああ、鼻も詰まってきた……」
ティッシュを取って鼻をかんだ。ボックスティッシュは、鼻に優しいものだった。サイドテーブルにはグラスと、冷たい水が入ったボトルが置かれている。温かいものが飲みたくなったら、いつでも呼ぶように言われた。ここは一階にある部屋だから、廊下から小さな物音がしている。
心と体が弱っている時に優しさに触れたことで、だんだんと目尻が熱くなってきた。少し嫌なことを言われただけだ。聴きたくないことを聞かされただけだ。これからだって続くかもしれない。分かっていたことだ。母親の声を聞きたくなった。大学生のくせに、みっともない。するとその時だ。部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。山崎さんだろう。
「しっかりしないとなあ。……はーい」
「失礼します。起きていらっしゃると思って。フルーツとスイーツはいかがですか?」
「ありがとうございます」
落ち込んだ顔を見せたくなくて、鼻をかむふりをした。そういう俺を見て、山崎が微笑んでくれた。サイドテーブルに置かれたのは、一口サイズのケーキやタルトだった。
「気を遣ってもらって、すみません」
「いいえ、とんでもない。このお菓子は、圭一さんのお兄さんの島川さんからです。病院の帰りにアイビー書店へ寄られたんですね。電話がありまして、夏樹さんが寝ていることをお伝えしたら、こちらへいらっしゃいました」
「……え?」
「元気になった時に、食事をしましょうという伝言でしたよ。メッセージカードをお預かりしました。どうぞ」
「ありがとうございます」
「遠慮なさらないでくださいね」
山崎さんが部屋を出た後、そのカードを開いた。そこには、本屋で嫌なことを言ったことへの謝罪が書かれていた。わざと言ったのだという内容だった。
島川さんに試されたということは理解した。そのことはいい気分にならないけれど、メッセージカードには、一切の言い訳が書かれていなかった。潔さを感じ、好きだなと思った。
「黒崎さんの家って、難しいなあ。他の家族を大して知らないけど。必要だから、こういうことが身についたんだろうなあ……。育った環境の違いは誰でも同じだ。うちのお父さん達って、結婚した時、喧嘩したって言ってたし。今じゃ仲良しだよ。島川さんと黒崎さんって、仲がいいのかな?そうだったらいいな」
メッセージカードを置いて、スイーツを食べた。偶然なのか、大好きなタルトが入っていた。落ち込んでいた気持ちが浮上したから、我ながらゲンキンな性格をしていると思う。
黒崎から連絡があったらスイーツを貰った事を報告して、島川さんにお礼を伝えることにした。そして、全部食べ終わった後、トレーをキッチンへ返しに行くために部屋を出た。
お義父さんの家の客間のベッドで休んでいるところだ。すっかりお世話になっている。家に帰り着いたタイミングで、山崎さんが来てくれた。帰りが遅いから心配してくれていた。俺の携帯へ連絡しようかと思いながらも、まだ病院の中だったらと思い、待ってくれていた。
山崎さんは、9時から18時までの勤務だ。夜は田所さんというお手伝いさんがいる。俺の体が弱いと知らされている。体のこと、よく風邪を引くこと、おまけに小食だという話を、お義父さんがしてくれていた。
「そんなに弱くないけどなあ。お義父さんも黒崎さんも心配症なんだよ……。ごほっ、ごほっ」
今日はお昼ご飯をご馳走になった。温野菜に鶏のササミ、たまご入りのおかゆだった。誰かに作ってもらったのは久しぶりのことだ。美味しかったし、嬉しくてお代わりをした。
昼過ぎから咳がひどくなり、熱っぽさも増してきた。脇に挟んだ体温計を取り出した。
「わあ……。38.3度。薬は急に効かないもんね。ウロついたのがマズかったかな」
どうりで体が痛いはずだ。肩までシーツをかけて潜り込んだ。アンのことは、山崎さんが見ていてくれている。動物好きの人が多くて有難い。
「はあ……。島川さんか~」
本屋でのことを思い出して、胸がチクチクした。さっさと寝て忘れてしまおうと思った。かといって、すぐには寝付けずにいた。強くならないといけないのに、島川さんの言葉が忘れられない。頭の中でドラマのように再現されている。
「ごほっ。ああ、鼻も詰まってきた……」
ティッシュを取って鼻をかんだ。ボックスティッシュは、鼻に優しいものだった。サイドテーブルにはグラスと、冷たい水が入ったボトルが置かれている。温かいものが飲みたくなったら、いつでも呼ぶように言われた。ここは一階にある部屋だから、廊下から小さな物音がしている。
心と体が弱っている時に優しさに触れたことで、だんだんと目尻が熱くなってきた。少し嫌なことを言われただけだ。聴きたくないことを聞かされただけだ。これからだって続くかもしれない。分かっていたことだ。母親の声を聞きたくなった。大学生のくせに、みっともない。するとその時だ。部屋のドアをノックする音が聞こえてきた。山崎さんだろう。
「しっかりしないとなあ。……はーい」
「失礼します。起きていらっしゃると思って。フルーツとスイーツはいかがですか?」
「ありがとうございます」
落ち込んだ顔を見せたくなくて、鼻をかむふりをした。そういう俺を見て、山崎が微笑んでくれた。サイドテーブルに置かれたのは、一口サイズのケーキやタルトだった。
「気を遣ってもらって、すみません」
「いいえ、とんでもない。このお菓子は、圭一さんのお兄さんの島川さんからです。病院の帰りにアイビー書店へ寄られたんですね。電話がありまして、夏樹さんが寝ていることをお伝えしたら、こちらへいらっしゃいました」
「……え?」
「元気になった時に、食事をしましょうという伝言でしたよ。メッセージカードをお預かりしました。どうぞ」
「ありがとうございます」
「遠慮なさらないでくださいね」
山崎さんが部屋を出た後、そのカードを開いた。そこには、本屋で嫌なことを言ったことへの謝罪が書かれていた。わざと言ったのだという内容だった。
島川さんに試されたということは理解した。そのことはいい気分にならないけれど、メッセージカードには、一切の言い訳が書かれていなかった。潔さを感じ、好きだなと思った。
「黒崎さんの家って、難しいなあ。他の家族を大して知らないけど。必要だから、こういうことが身についたんだろうなあ……。育った環境の違いは誰でも同じだ。うちのお父さん達って、結婚した時、喧嘩したって言ってたし。今じゃ仲良しだよ。島川さんと黒崎さんって、仲がいいのかな?そうだったらいいな」
メッセージカードを置いて、スイーツを食べた。偶然なのか、大好きなタルトが入っていた。落ち込んでいた気持ちが浮上したから、我ながらゲンキンな性格をしていると思う。
黒崎から連絡があったらスイーツを貰った事を報告して、島川さんにお礼を伝えることにした。そして、全部食べ終わった後、トレーをキッチンへ返しに行くために部屋を出た。
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