163 / 283
23-6(黒崎視点)
しおりを挟む
15時30分。
黒崎製菓大阪支社内にいる。この後の会議は、20分程度が4本入っている。夜は取引先の取締役との会食が予定されている。ホテルに戻るのは深夜になるだろう。手早く昼食を済ませて、夏樹にラインを送った。
「『具合はどうだ?今から電話できるか?』」
数分待っても返信がなかった。寝ているのだろう。山崎さんに様子を聞くことにした。気恥ずかしいが、そうも言っていられない。電話をかけようとしたタイミングで着信が入った。『島川一貴』と表示されている。8歳年上の4番目の兄だ。
拓海兄さんが亡くなった後の黒崎家の集まりで、初めて兄弟として紹介された。それまでにも法事などで顔を合わせていたが、話す機会が無かった。兄弟だとは分かっていた。
黒崎家の中心にいる状況のなか、俺は親戚や兄弟から妬みのような感情を向けられている。だが、一貴だけは違っていた。黒崎家系列の企業への就職を拒み、衣料品メーカーのプラセルコーポレーションを立ち上げ、現在では大手のアパレルメーカーに成長し、誰もが知る存在になった。
「一貴、久しぶりだな」
「……今いいか?」
「構わない。どうした?」
「……夏樹君を見かけて、俺の方から声を掛けた」
「紹介するまで待てと言ったはずだ」
「……つい動いてしまった。いい子だった。わざとカマを掛けてみた」
「何を言ったんだ?」
「……こういう話だ。……黒崎家への目的と」
一貴の話を聞き、まずは怒りを抑え込んだ。夏樹がまだ19歳だと知っているはずだ。新しい環境に飛び込んで努力している。一貴なら理解できるはずだ。
「さっさと謝って来い!」
「……洋菓子を持って訪ねて行った。熱を出して寝込んでいたから、会わずに帰ってきた。謝罪の手紙を入れている。すまない、体調の悪い時に……」
「それだけじゃ済ませない」
「……お前のことが心配だった」
「俺の方からも、余計な世話をしてやろうか?」
「……お前が戻った後、謝りに行く」
一貴との電話を切り上げて、山崎さんへ電話をかけた。洋菓子を運んだ時は、夏樹は起きていたそうだ。しかし、その時の様子を口に出さないようにしているようだ。山崎さんが部屋から出て来た時には、笑顔になっていたことは分かった。
「ありがとうございました。退屈そうにしていたら、図書室へ行くように言ってやって下さい。隣の部屋も入れていいので。天体の本が置いてあることも伝えてください」
「かしこまりました」
「会議があるので失礼します。夕方に電話が出来るかもしれません」
「……常務。会議が始まります」
するとその時だ。今日同行している父の秘書の村井から声が掛けられた。簡単な打ち合わせ後、会議室へ入った。
黒崎製菓大阪支社内にいる。この後の会議は、20分程度が4本入っている。夜は取引先の取締役との会食が予定されている。ホテルに戻るのは深夜になるだろう。手早く昼食を済ませて、夏樹にラインを送った。
「『具合はどうだ?今から電話できるか?』」
数分待っても返信がなかった。寝ているのだろう。山崎さんに様子を聞くことにした。気恥ずかしいが、そうも言っていられない。電話をかけようとしたタイミングで着信が入った。『島川一貴』と表示されている。8歳年上の4番目の兄だ。
拓海兄さんが亡くなった後の黒崎家の集まりで、初めて兄弟として紹介された。それまでにも法事などで顔を合わせていたが、話す機会が無かった。兄弟だとは分かっていた。
黒崎家の中心にいる状況のなか、俺は親戚や兄弟から妬みのような感情を向けられている。だが、一貴だけは違っていた。黒崎家系列の企業への就職を拒み、衣料品メーカーのプラセルコーポレーションを立ち上げ、現在では大手のアパレルメーカーに成長し、誰もが知る存在になった。
「一貴、久しぶりだな」
「……今いいか?」
「構わない。どうした?」
「……夏樹君を見かけて、俺の方から声を掛けた」
「紹介するまで待てと言ったはずだ」
「……つい動いてしまった。いい子だった。わざとカマを掛けてみた」
「何を言ったんだ?」
「……こういう話だ。……黒崎家への目的と」
一貴の話を聞き、まずは怒りを抑え込んだ。夏樹がまだ19歳だと知っているはずだ。新しい環境に飛び込んで努力している。一貴なら理解できるはずだ。
「さっさと謝って来い!」
「……洋菓子を持って訪ねて行った。熱を出して寝込んでいたから、会わずに帰ってきた。謝罪の手紙を入れている。すまない、体調の悪い時に……」
「それだけじゃ済ませない」
「……お前のことが心配だった」
「俺の方からも、余計な世話をしてやろうか?」
「……お前が戻った後、謝りに行く」
一貴との電話を切り上げて、山崎さんへ電話をかけた。洋菓子を運んだ時は、夏樹は起きていたそうだ。しかし、その時の様子を口に出さないようにしているようだ。山崎さんが部屋から出て来た時には、笑顔になっていたことは分かった。
「ありがとうございました。退屈そうにしていたら、図書室へ行くように言ってやって下さい。隣の部屋も入れていいので。天体の本が置いてあることも伝えてください」
「かしこまりました」
「会議があるので失礼します。夕方に電話が出来るかもしれません」
「……常務。会議が始まります」
するとその時だ。今日同行している父の秘書の村井から声が掛けられた。簡単な打ち合わせ後、会議室へ入った。
0
あなたにおすすめの小説
嘘つき王と影の騎士
篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」
国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。
酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。
そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。
代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。
死を待つためだけに辿り着いた冬の山。
絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。
守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。
無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。
なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。
これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。
とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~
冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。
「道路やばくない? 整備しよ」
「孤児院とか作ったら?」
「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」
貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。
不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。
孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。
元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち――
濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。
気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。
R8.1.20 投稿開始
悠と榎本
暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか
そいつの事を 無意識に探してしまう
見ているだけで 良かったものの
2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・
イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話
タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。
瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。
笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
純白のレゾン
雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》
この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。
親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。
【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。
紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。
相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。
超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。
失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。
彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。
※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21)
※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる