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18時30分。
黒崎家の門の前に、タクシーが停車した。降りた後で向かったのは、父の家の方だ。これから夏樹を迎えに行く。父の家に向かう途中、家の周辺が明るくなった事に気づいた。ここで暮らし始めて、ほんの数日しか経っていないのだが、違いを感じた。
父の家に到着した。玄関を開けると、昔と変わらない風景が広がっていた。大きな階段や花瓶に活けられた花がある。すると、山崎さんが俺を迎えてくれた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。夏樹は……」
リビングか、客間か。そう聞こうとした時、スリッパの音が聞こえてきた。ダイニングの方向からだ。
「黒崎さ~ん!おかえり~!」
「おっと……」
夏樹が助走をつけた状態でダイブしてきた。とっさに体を受け止めると、心待ちにしていた匂いが鼻をくすぐった。昨夜、欲しかったものだ。
「お疲れさまーー」
「いい子にしていたか?具合はどうだ?」
「熱は微熱だよ。お義父さんと晩ご飯を食べているんだ。九条ネギの酢味噌和えを作ったんだよ」
「寝ていろと言っただろう」
「うへへ。こっちへ来てよ~」
夏樹が俺のことを見上げて微笑んだ。蕩けるような笑顔だ。強引に手を引かれてダイニングへ入ると、子供の頃に待ち望んでいた光景があった。父が食事をしていた。そして、ビールと酢味噌和えという組み合わせを楽しんでいた。しかも笑っている。俺が子供の頃に父に望んでいた姿だ。
「圭一、おかえり」
「ただいま。帰っていたのか」
「昨日は深夜になった。たまにはゆっくりする。この酢味噌和えを食べてみろ」
「ああ……」
「黒崎さーん。お風呂の前に、これを食べてよ。この九条ネギ、プランターで育てていたやつだよ。今朝、収穫したんだ」
「もう寝ていろ」
「少しぐらいいいじゃん。ほら、座ってよ……」
背中を押されて椅子に座り、差し出された酢味噌和えに箸をつけた。今までで一番美味い。それを口にすると、自慢げに微笑まれた。
「そうだろー?体調が良くなったら、家庭菜園を始めるよ。遠藤さんが手伝いに来てくれるんだ。子供の頃、実家が畑をやっていたんだって」
「そうか……」
「佳世子さんから土をもらっただろ?そのお礼に、カンテールのケーキと持っていたんだ。……たまたま旦那さんが帰って来て、少し話したよ。畑づくりをしてネギを育てるって。長く使うコツがあるから、一緒にやろうって。よかった~」
「そうか……」
なんて不思議な子だろう。俺たち親子の周りに人が増えていく。さら、意外な言葉が飛び出してきた。
「今度、島川さんが遊びに来てくれるよ。病院の帰りにアイビー書店へ寄った時に、声を掛けられたんだ」
「……そうか。後で話す」
「うん。ご飯にしようよ」
「家でシャワーを浴びて来る」
「一緒に行くよ」
「ここにいろ。まだ動くな」
「ふん……」
「拗ねるな。すぐに戻ってくる」
「ふん……」
「分かった。一緒に戻ろう」
「うんっ」
さっきまで拗ねていたくせに、夏樹が表情を明るく変えた。一貴から言われた嫌みのことはどうしても話さないようだ。今は無邪気に微笑んでいる。大丈夫だろうかと心配したが、今ここでは触れないようにした。そして、夏樹を連れて、我が家へ戻った。
黒崎家の門の前に、タクシーが停車した。降りた後で向かったのは、父の家の方だ。これから夏樹を迎えに行く。父の家に向かう途中、家の周辺が明るくなった事に気づいた。ここで暮らし始めて、ほんの数日しか経っていないのだが、違いを感じた。
父の家に到着した。玄関を開けると、昔と変わらない風景が広がっていた。大きな階段や花瓶に活けられた花がある。すると、山崎さんが俺を迎えてくれた。
「お帰りなさいませ」
「ただいま。夏樹は……」
リビングか、客間か。そう聞こうとした時、スリッパの音が聞こえてきた。ダイニングの方向からだ。
「黒崎さ~ん!おかえり~!」
「おっと……」
夏樹が助走をつけた状態でダイブしてきた。とっさに体を受け止めると、心待ちにしていた匂いが鼻をくすぐった。昨夜、欲しかったものだ。
「お疲れさまーー」
「いい子にしていたか?具合はどうだ?」
「熱は微熱だよ。お義父さんと晩ご飯を食べているんだ。九条ネギの酢味噌和えを作ったんだよ」
「寝ていろと言っただろう」
「うへへ。こっちへ来てよ~」
夏樹が俺のことを見上げて微笑んだ。蕩けるような笑顔だ。強引に手を引かれてダイニングへ入ると、子供の頃に待ち望んでいた光景があった。父が食事をしていた。そして、ビールと酢味噌和えという組み合わせを楽しんでいた。しかも笑っている。俺が子供の頃に父に望んでいた姿だ。
「圭一、おかえり」
「ただいま。帰っていたのか」
「昨日は深夜になった。たまにはゆっくりする。この酢味噌和えを食べてみろ」
「ああ……」
「黒崎さーん。お風呂の前に、これを食べてよ。この九条ネギ、プランターで育てていたやつだよ。今朝、収穫したんだ」
「もう寝ていろ」
「少しぐらいいいじゃん。ほら、座ってよ……」
背中を押されて椅子に座り、差し出された酢味噌和えに箸をつけた。今までで一番美味い。それを口にすると、自慢げに微笑まれた。
「そうだろー?体調が良くなったら、家庭菜園を始めるよ。遠藤さんが手伝いに来てくれるんだ。子供の頃、実家が畑をやっていたんだって」
「そうか……」
「佳世子さんから土をもらっただろ?そのお礼に、カンテールのケーキと持っていたんだ。……たまたま旦那さんが帰って来て、少し話したよ。畑づくりをしてネギを育てるって。長く使うコツがあるから、一緒にやろうって。よかった~」
「そうか……」
なんて不思議な子だろう。俺たち親子の周りに人が増えていく。さら、意外な言葉が飛び出してきた。
「今度、島川さんが遊びに来てくれるよ。病院の帰りにアイビー書店へ寄った時に、声を掛けられたんだ」
「……そうか。後で話す」
「うん。ご飯にしようよ」
「家でシャワーを浴びて来る」
「一緒に行くよ」
「ここにいろ。まだ動くな」
「ふん……」
「拗ねるな。すぐに戻ってくる」
「ふん……」
「分かった。一緒に戻ろう」
「うんっ」
さっきまで拗ねていたくせに、夏樹が表情を明るく変えた。一貴から言われた嫌みのことはどうしても話さないようだ。今は無邪気に微笑んでいる。大丈夫だろうかと心配したが、今ここでは触れないようにした。そして、夏樹を連れて、我が家へ戻った。
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