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午前9時。
これから大学へ行く。今日の授業は2時限目と4時限目だ。ノートや教科書類をバッグに入れて準備をした。持って行く物が多くて重いから、こっちの駅までは、自転車で行きたいと思っている。でも、黒崎から止められている。
「坂道で転ぶって言われた……。その通りになったらいけないから諦めようかな……。ううん、諦めずに交渉しよう」
我が家は緩やかな坂の上に建っている。この辺りにもっと慣れてくれば一人で買い物へ行くから、徒歩移動になる。ますます自転車が欲しくなった。そこへ、携帯に着信が入った。お義父さんからだ。今日は仕事のはずなのに。
「もしもし?」
「夏樹ちゃん、まだ出ていないだろう?送って行くよ」
「ありがとう。家に居るの?」
「そうだよ。今日は遅めに出る。そっちの家の前で待っていなさい」
「はい。お願いします」
プツッ。電話を切った後、今日の荷物を両手に持った。忘れ物なし。戸締りよし。アンへ行ってくるよと声を掛けて、もこもこの毛の体を撫でた。
玄関を出て門の前に立つと、すぐにお義父さんを乗せた車が到着した。運転席さんが微笑みかけてくれた。おはようございますと挨拶して、自分でドアを開けて入った。お義父さんも自分でドアを開けるようになり、出勤した時に、周りで見ていた人に驚かれたと言っていた。大学の話題や洋菓子、庭の花の話題を出すことも増えたから、黒崎製菓の中で人気が出ているらしい。俺の通っている大学の学祭のことや、授業のことにも詳しくなった。
「隆さん。俺より大学のことに詳しいよね~」
「友人から夏樹ちゃんの様子を聞かれるうちに覚えたよ。圭一のことよりも話題に出ている。就任披露のパーティーには出席するのか?」
「うん。出席させてもらうよ」
来月に役員就任パーティーが開かれる。今年の春は合併という大きな節目があり、招待される人が例年より多いと聞いた。パーティーに出席したのは1回しかないから、どんな規模なのかピンとこない。その方が余計な緊張がなくていい。
「私も出席する。一緒に付いているよ。楽しもう。そのうち慣れてくるからね」
「ありがとう。食事のマナー習っておいてよかったよ。うるさいから嫌になっていたけど」
「ははは。ん?その子は……」
お義父さんが、俺のスマホへ視線を向けた。悠人からラインが入ったところだ。大学の学食で撮った写真を送ってもらった。それを見せながら、悠人のことをお義父さんに紹介した。
「友達の久田悠人君だよ。聡太郎君とやっているバンドのメンバーだよ。ベースを担当するけど、本当はギターを弾く子なんだ。明後日の畑づくりを手伝いに来てくれるんだ」
「その子だったのか……」
「あれ?知っていたの?」
「お父さんの久田君は、うちのグループの顧問弁護士だ。中山のお父さんとは友人だそうだね?」
「そうなんだよ~。お父さんから聞いたんだ。法学部時代からの友達だってさ」
「悠人君は一人息子だ。久田総合法律事務所の跡を継がせたいと考えているそうだ。本人の希望があるだろうが……」
「そっか……」
悠人から話を聞いている。お父さんからはバンドをやめて、学業に専念するように言われたそうだ。そして、楽しみでやっていることでも、認めてもらえないそうだ。悠人は相手にしてない。お父さんは高圧的な人で、仲良く話したことは無いと言っていた。
実家の両親のことが思い浮かんだ。将来は自分で選択するように言われた。俺は伊吹のような強い意志がないから、何になりたいのか迷っている。すると、お父さんから聞かれてしまった。将来は何になりたいのかと。俺の考えていることを見抜かれたようだ。
「卒業後はどうするんだい?」
「まだ決めていないよ。恥ずかしいけど。今、好きなことを何でもやってみているんだ。植物採集、歌、絵本のストーリー作りだよ」
「得意なことが多いからだろう。どれか一つに絞ってやってみるといい。黒崎製菓で、インターンシップ制度があることは知っているか?桜木君も参加しているものだ」
「うん。3年生で参加する人が多いって聞いたよ」
「1年生からも受け入れている。良かったらどうだい?学業があるから、研修に近い形のものがいいだろう。3日間のみのコースを導入している。セミナーが近いうちに開かれるはずだ。社内で聞いておく」
「短期ってやつだよね?黒崎さんにも話しておくよ」
黒崎には何でも話すことにしている。心配症で過保護なパートナーだからだ。そして、どんなに偉そうなのか、この際だから、お義父さんに告げ口してやった。そんなやり取りをしていると、黒崎からラインが入った。噂をすれば影だ。そして、ラインを開いた途端に背中に汗が流れた。家を出る前に連絡するのを忘れていたことに気づいたからだ。
「……もう家を出たのか?何かあったのか?だってさ。ヤバイ……」
慌てて言い訳を考えて送ろうとすると、お義父さんが黒崎へ電話を掛けた。
「圭一。これほど束縛をするな。夏樹ちゃんは大学生だ。慎重な子だ。……何だと?関係ない?何を言っている……」
「ケンカしないでよーー」
親子喧嘩が始まって何度も止めたが、大学到着後まで続いてしまった。
これから大学へ行く。今日の授業は2時限目と4時限目だ。ノートや教科書類をバッグに入れて準備をした。持って行く物が多くて重いから、こっちの駅までは、自転車で行きたいと思っている。でも、黒崎から止められている。
「坂道で転ぶって言われた……。その通りになったらいけないから諦めようかな……。ううん、諦めずに交渉しよう」
我が家は緩やかな坂の上に建っている。この辺りにもっと慣れてくれば一人で買い物へ行くから、徒歩移動になる。ますます自転車が欲しくなった。そこへ、携帯に着信が入った。お義父さんからだ。今日は仕事のはずなのに。
「もしもし?」
「夏樹ちゃん、まだ出ていないだろう?送って行くよ」
「ありがとう。家に居るの?」
「そうだよ。今日は遅めに出る。そっちの家の前で待っていなさい」
「はい。お願いします」
プツッ。電話を切った後、今日の荷物を両手に持った。忘れ物なし。戸締りよし。アンへ行ってくるよと声を掛けて、もこもこの毛の体を撫でた。
玄関を出て門の前に立つと、すぐにお義父さんを乗せた車が到着した。運転席さんが微笑みかけてくれた。おはようございますと挨拶して、自分でドアを開けて入った。お義父さんも自分でドアを開けるようになり、出勤した時に、周りで見ていた人に驚かれたと言っていた。大学の話題や洋菓子、庭の花の話題を出すことも増えたから、黒崎製菓の中で人気が出ているらしい。俺の通っている大学の学祭のことや、授業のことにも詳しくなった。
「隆さん。俺より大学のことに詳しいよね~」
「友人から夏樹ちゃんの様子を聞かれるうちに覚えたよ。圭一のことよりも話題に出ている。就任披露のパーティーには出席するのか?」
「うん。出席させてもらうよ」
来月に役員就任パーティーが開かれる。今年の春は合併という大きな節目があり、招待される人が例年より多いと聞いた。パーティーに出席したのは1回しかないから、どんな規模なのかピンとこない。その方が余計な緊張がなくていい。
「私も出席する。一緒に付いているよ。楽しもう。そのうち慣れてくるからね」
「ありがとう。食事のマナー習っておいてよかったよ。うるさいから嫌になっていたけど」
「ははは。ん?その子は……」
お義父さんが、俺のスマホへ視線を向けた。悠人からラインが入ったところだ。大学の学食で撮った写真を送ってもらった。それを見せながら、悠人のことをお義父さんに紹介した。
「友達の久田悠人君だよ。聡太郎君とやっているバンドのメンバーだよ。ベースを担当するけど、本当はギターを弾く子なんだ。明後日の畑づくりを手伝いに来てくれるんだ」
「その子だったのか……」
「あれ?知っていたの?」
「お父さんの久田君は、うちのグループの顧問弁護士だ。中山のお父さんとは友人だそうだね?」
「そうなんだよ~。お父さんから聞いたんだ。法学部時代からの友達だってさ」
「悠人君は一人息子だ。久田総合法律事務所の跡を継がせたいと考えているそうだ。本人の希望があるだろうが……」
「そっか……」
悠人から話を聞いている。お父さんからはバンドをやめて、学業に専念するように言われたそうだ。そして、楽しみでやっていることでも、認めてもらえないそうだ。悠人は相手にしてない。お父さんは高圧的な人で、仲良く話したことは無いと言っていた。
実家の両親のことが思い浮かんだ。将来は自分で選択するように言われた。俺は伊吹のような強い意志がないから、何になりたいのか迷っている。すると、お父さんから聞かれてしまった。将来は何になりたいのかと。俺の考えていることを見抜かれたようだ。
「卒業後はどうするんだい?」
「まだ決めていないよ。恥ずかしいけど。今、好きなことを何でもやってみているんだ。植物採集、歌、絵本のストーリー作りだよ」
「得意なことが多いからだろう。どれか一つに絞ってやってみるといい。黒崎製菓で、インターンシップ制度があることは知っているか?桜木君も参加しているものだ」
「うん。3年生で参加する人が多いって聞いたよ」
「1年生からも受け入れている。良かったらどうだい?学業があるから、研修に近い形のものがいいだろう。3日間のみのコースを導入している。セミナーが近いうちに開かれるはずだ。社内で聞いておく」
「短期ってやつだよね?黒崎さんにも話しておくよ」
黒崎には何でも話すことにしている。心配症で過保護なパートナーだからだ。そして、どんなに偉そうなのか、この際だから、お義父さんに告げ口してやった。そんなやり取りをしていると、黒崎からラインが入った。噂をすれば影だ。そして、ラインを開いた途端に背中に汗が流れた。家を出る前に連絡するのを忘れていたことに気づいたからだ。
「……もう家を出たのか?何かあったのか?だってさ。ヤバイ……」
慌てて言い訳を考えて送ろうとすると、お義父さんが黒崎へ電話を掛けた。
「圭一。これほど束縛をするな。夏樹ちゃんは大学生だ。慎重な子だ。……何だと?関係ない?何を言っている……」
「ケンカしないでよーー」
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