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午前11時半。
畑全体が整ってきた。大勢で作業したおかげで早く済みそうだと遠藤さんが言った。するとその時だ。悠人の悲鳴が聞こえてきて、遠藤さんが心配そうに遠くの方を見た。俺も心配になった。この庭には、蝶々やクワガタ、カブトムシが暮らしている。悠人は虫全般が苦手だ。何か見つけたのかも知れない。さっきまで悠人はアン達と走って、遊んでくれていた。
「わーー、ひいいいいっ」
悠人が走って逃げて来た。アン達が一緒に走っている。危険なことは起きていないと思った。
「悠人、どうしたんだよ?」
「あの虫がいたんだ!キッチンじゃ無いのにーーー」
「ええ?いるの?」
悠人が見つけたというのは、キッチンに居る黒い虫のことだ。俺も苦手だ。だからなるべく綺麗にするようにしている。しかし、庭にはいないと思った。
悠人が虫を見つけた場所に行くと、木の幹にクワガタが棲んでいた。黒い虫と間違えたのだろう。悠人のそばに戻り、違う虫だったと言った。
「ゆうとー。あれはキッチンの黒いヤツじゃないよ」
「ホントに!?」
「うちの家は綺麗にしているんだ。引っ越して来てからは、一度も出ていないよ」
「よかったーー。俺、かっこ悪いよーー」
「もっと遊んでおいで。そっちなら何もいないはずだよ」
「ありがとう。アンー、リクー、おいでー!走るよーー」
悠人達がアン達との遊びを再開させて、畑の周りを走り出した。ほのぼのした光景のなか、たまに早瀬さんの方を見ている。その早瀨さんは黒崎やお義父さん達と話している。ここでも仕事の話題が出ているけれど、いつもよりずっとくだけた雰囲気だと思う。
「裕理。あの件、まとめておいてくれ」
「圭一さん。俺は秘書じゃないよ」
「お前のまとめ方が、スケジュール確認がしやすい」
「商品開発部門の会議がある。データ集積を終えたばかりだよ。それに情報収集も……」
「オフの日でも、常にアンテナを張っている状態だな。仕事とプライベートの境目がはっきりしないだろう?マーケティング推進室の室長と、秘書の境目もないはずだ」
「あんたねえ……」
黒崎の強引なまでの態度に、早瀬さんが呆れ返って笑っている。今まで一度も動揺したところを見たことがない。こういう人だから、秘書になったのかな?黒崎が遠慮なく無理難題を押し付けられる、仕事のパートナーだ。
「圭一さん。駄々っ子は似合わないよ」
「駄々をこねて解決するなら、ここで寝転がってやる」
「見たくないから引き受けるよ」
「ありがとう。その件の内容だが、あのデータも放り込んでおいてくれ」
「要求するレベルが高すぎる。秘書が数人いて良かったよ」
「おかげで逃げ出されずに済んでいる」
笑いながらもトゲのあるやり取りが続いている中、お義父さんが笑った。同じ会社にいるとはいえ、早瀬さんとお義父さんがフランクに話している。楽しそうだ。そして、お義父さんが黒崎を叱り始めた。早瀨さんをこき使い過ぎだと言っていた。
「圭一の度量不足だ。早瀬君には任せている部署がある」
「有能な秘書を失ったんだぞ。親父が早瀬を推したんだろう……」
「ほう?口答えするのか……」
「俺はだな……」
「なんだ?」
早瀨さんは黒崎達の言い合いを止めようとせずに笑っている。すると、悠人のことが気になったのだろう。アン達と走り回っている悠人を眺め始めた。その視線が優しかった。
「……」
「へえ……」
そばでお茶を飲んでいた聡太郎が笑った。俺と同じ感想を持ったようだ。
(悠人限定なんだろうなあ。黒崎さんも俺のことを見るとき、あんな感じかな?ううん……、あれほどは優しくない。試してみよう)
俺も黒崎から優しい視線を向けて貰いたくなった。でも、難しそうだから諦めた。そろそろ昼ご飯を運ぶ準備を手伝って貰いたい。お義父さんとの言い合いを止めるきっかけにもなりそうだ。さっそく黒崎のことを呼んだ。
畑全体が整ってきた。大勢で作業したおかげで早く済みそうだと遠藤さんが言った。するとその時だ。悠人の悲鳴が聞こえてきて、遠藤さんが心配そうに遠くの方を見た。俺も心配になった。この庭には、蝶々やクワガタ、カブトムシが暮らしている。悠人は虫全般が苦手だ。何か見つけたのかも知れない。さっきまで悠人はアン達と走って、遊んでくれていた。
「わーー、ひいいいいっ」
悠人が走って逃げて来た。アン達が一緒に走っている。危険なことは起きていないと思った。
「悠人、どうしたんだよ?」
「あの虫がいたんだ!キッチンじゃ無いのにーーー」
「ええ?いるの?」
悠人が見つけたというのは、キッチンに居る黒い虫のことだ。俺も苦手だ。だからなるべく綺麗にするようにしている。しかし、庭にはいないと思った。
悠人が虫を見つけた場所に行くと、木の幹にクワガタが棲んでいた。黒い虫と間違えたのだろう。悠人のそばに戻り、違う虫だったと言った。
「ゆうとー。あれはキッチンの黒いヤツじゃないよ」
「ホントに!?」
「うちの家は綺麗にしているんだ。引っ越して来てからは、一度も出ていないよ」
「よかったーー。俺、かっこ悪いよーー」
「もっと遊んでおいで。そっちなら何もいないはずだよ」
「ありがとう。アンー、リクー、おいでー!走るよーー」
悠人達がアン達との遊びを再開させて、畑の周りを走り出した。ほのぼのした光景のなか、たまに早瀬さんの方を見ている。その早瀨さんは黒崎やお義父さん達と話している。ここでも仕事の話題が出ているけれど、いつもよりずっとくだけた雰囲気だと思う。
「裕理。あの件、まとめておいてくれ」
「圭一さん。俺は秘書じゃないよ」
「お前のまとめ方が、スケジュール確認がしやすい」
「商品開発部門の会議がある。データ集積を終えたばかりだよ。それに情報収集も……」
「オフの日でも、常にアンテナを張っている状態だな。仕事とプライベートの境目がはっきりしないだろう?マーケティング推進室の室長と、秘書の境目もないはずだ」
「あんたねえ……」
黒崎の強引なまでの態度に、早瀬さんが呆れ返って笑っている。今まで一度も動揺したところを見たことがない。こういう人だから、秘書になったのかな?黒崎が遠慮なく無理難題を押し付けられる、仕事のパートナーだ。
「圭一さん。駄々っ子は似合わないよ」
「駄々をこねて解決するなら、ここで寝転がってやる」
「見たくないから引き受けるよ」
「ありがとう。その件の内容だが、あのデータも放り込んでおいてくれ」
「要求するレベルが高すぎる。秘書が数人いて良かったよ」
「おかげで逃げ出されずに済んでいる」
笑いながらもトゲのあるやり取りが続いている中、お義父さんが笑った。同じ会社にいるとはいえ、早瀬さんとお義父さんがフランクに話している。楽しそうだ。そして、お義父さんが黒崎を叱り始めた。早瀨さんをこき使い過ぎだと言っていた。
「圭一の度量不足だ。早瀬君には任せている部署がある」
「有能な秘書を失ったんだぞ。親父が早瀬を推したんだろう……」
「ほう?口答えするのか……」
「俺はだな……」
「なんだ?」
早瀨さんは黒崎達の言い合いを止めようとせずに笑っている。すると、悠人のことが気になったのだろう。アン達と走り回っている悠人を眺め始めた。その視線が優しかった。
「……」
「へえ……」
そばでお茶を飲んでいた聡太郎が笑った。俺と同じ感想を持ったようだ。
(悠人限定なんだろうなあ。黒崎さんも俺のことを見るとき、あんな感じかな?ううん……、あれほどは優しくない。試してみよう)
俺も黒崎から優しい視線を向けて貰いたくなった。でも、難しそうだから諦めた。そろそろ昼ご飯を運ぶ準備を手伝って貰いたい。お義父さんとの言い合いを止めるきっかけにもなりそうだ。さっそく黒崎のことを呼んだ。
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