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14時半。
今、みんなでリビングにいる。これから聡太郎と早瀨さんのヴァイオリンの演奏を聴かせてもらう。黒崎はというと、ピアノの近くに置いてあるソファーで寝息を立てている。少し疲れているようだったから、寝ておけと促した後、素直に寝ていた。30分で起こすと約束した。
その間、デザートでも食べながら休憩することにした。リビングでは、伊吹と聡太郎が小競り合いをしている。悠人はアンを膝に抱いて、テレビを見ている。その様子を眺めながら、早瀬さんがキッチンでフルーツをカットしてくれた。
「早瀬さん。ありがとう」
「どういたしまして。これぐらいしか出来ないけど」
「黒崎さんに、爪の垢を煎じて飲ませてよ。お湯も沸かさないんだよ~」
「夏樹君がいるからだよ。楽しそうに家に帰っているよ」
「……本当に?」
「本当だよ。デスクにはデジタルフォトフレームを置いてあってね、夏樹君のアルバムが再生されているよ。それを眺めて鼻の下を伸ばしている」
「昨日はメッセージカードを入れられていたんだよ~。モテてるよね?」
「相手にしていないよ。帰ったら恐ろしいそうだよ。……はい、出来たよ」
「ありがとう。……器用だね。リンゴの飾り切り、あっという間だね~」
「料理が好きだから。黒崎ホールディングスへ入るまでは、やったことがなかったよ。興味もなかった」
「へえ。どうして急にやろうと思ったんだよ?一人暮らしだから?」
「それもあるけど。マーティングの仕事の一環で、色んなレストランを食べ歩いたよ。そうなるとね、家でゆっくりと食べたくなった」
「分かるよ~。いつもの料理を食べて、ホッとする時があるよ」
「……圭一さんも同じ事を言うようになったよ。帰ったら美味しい晩御飯が待っていて、朝ごはんもある。夏樹君には助けられているって言っていたよ」
「そうなんだ……」
「深夜に帰宅すれば起きて待ってくれているから、心配しているよ。それでも無理に寝かせたくないのは、帰った時に迎えて欲しいからだって。それじゃ駄目だと分かっているのに甘えているって」
「そんなこと言ってくれないんだよ~」
「照れ屋で素直じゃないからね」
「……」
急に目頭が熱くなった。黒崎こそ大変だ。お互いに支え合うと決めている。どんなことがあっても、2人でやっていく。それには、あの寂しがり屋の不安を取り除く必要がある。一人で決められないという制約だ。
「あのね、俺さ……」
「どうしたんだ?」
「遠藤さんから、将来はどうするのか聞かれたんだ。まだ決めていないことを伝えようとしたら、黒崎さんが代わりに答えたんだ。遠藤さんは『それじゃだめだよ』って、仕草で教えてくれたんだ。俺は『将来のことは2人で決めるから平気です』って答えた。……俺、誤魔化したんだよ。束縛がきついって言えなかったんだ。冗談っぽく言えば良かったかな。遠藤さんが言っていたのは『受け答えまで任せない方がいい』っていう意味だと思う。上手く言えなくて、平気だってことは伝えたくさ……」
あの大きな赤ちゃんを好きになったからこそ、起きていることだ。全く、どっちが年上なのか分からない。これも言い訳だ。早瀬さんへ笑顔を向けて、黒崎の家の中での姿を暴露してやった。
「あの人、クソガキだからさ」
「ははははー」
「俺が高校生の時は保護者みたいだったのに、今じゃ大きな赤ちゃんだよ。ここへ引っ越してきたばかりの時、俺が2階にいたら、あの人、探し回っているんだよ。……夏樹ーって。……ここだよって、2階から顔を出したらさ。俺と同じ階にいろって言い出したことがあったんだよ」
「そんなことがあったのか……、会社じゃ……」
早瀬さんが肩を揺らして笑い出した。この反応を見ると、ここまで子供化しているのは俺の前だけなのか。それが分かったから、照れくさい気持ちになった。
「どっちが大人か分からないよ。悪くないけど~?黒崎さんは俺だけのものだよ……」
「食べる前だけど、ご馳走さま。……夏樹君。言うべき時は言おうね?『NO』だと」
「うん!」
「……」
2人で顔を見合わせて笑っていると、リビングから視線を感じた。悠人が寂しそうな目でこっちを見ていた。さっき、悠人は早瀨さんと軽い言い合いをしていたからだろう。
「早瀬さん、行ってあげなよ……」
「ああ」
早瀬さんが悠人の方へ歩きだした後、俺は黒崎の元へ行った。
今、みんなでリビングにいる。これから聡太郎と早瀨さんのヴァイオリンの演奏を聴かせてもらう。黒崎はというと、ピアノの近くに置いてあるソファーで寝息を立てている。少し疲れているようだったから、寝ておけと促した後、素直に寝ていた。30分で起こすと約束した。
その間、デザートでも食べながら休憩することにした。リビングでは、伊吹と聡太郎が小競り合いをしている。悠人はアンを膝に抱いて、テレビを見ている。その様子を眺めながら、早瀬さんがキッチンでフルーツをカットしてくれた。
「早瀬さん。ありがとう」
「どういたしまして。これぐらいしか出来ないけど」
「黒崎さんに、爪の垢を煎じて飲ませてよ。お湯も沸かさないんだよ~」
「夏樹君がいるからだよ。楽しそうに家に帰っているよ」
「……本当に?」
「本当だよ。デスクにはデジタルフォトフレームを置いてあってね、夏樹君のアルバムが再生されているよ。それを眺めて鼻の下を伸ばしている」
「昨日はメッセージカードを入れられていたんだよ~。モテてるよね?」
「相手にしていないよ。帰ったら恐ろしいそうだよ。……はい、出来たよ」
「ありがとう。……器用だね。リンゴの飾り切り、あっという間だね~」
「料理が好きだから。黒崎ホールディングスへ入るまでは、やったことがなかったよ。興味もなかった」
「へえ。どうして急にやろうと思ったんだよ?一人暮らしだから?」
「それもあるけど。マーティングの仕事の一環で、色んなレストランを食べ歩いたよ。そうなるとね、家でゆっくりと食べたくなった」
「分かるよ~。いつもの料理を食べて、ホッとする時があるよ」
「……圭一さんも同じ事を言うようになったよ。帰ったら美味しい晩御飯が待っていて、朝ごはんもある。夏樹君には助けられているって言っていたよ」
「そうなんだ……」
「深夜に帰宅すれば起きて待ってくれているから、心配しているよ。それでも無理に寝かせたくないのは、帰った時に迎えて欲しいからだって。それじゃ駄目だと分かっているのに甘えているって」
「そんなこと言ってくれないんだよ~」
「照れ屋で素直じゃないからね」
「……」
急に目頭が熱くなった。黒崎こそ大変だ。お互いに支え合うと決めている。どんなことがあっても、2人でやっていく。それには、あの寂しがり屋の不安を取り除く必要がある。一人で決められないという制約だ。
「あのね、俺さ……」
「どうしたんだ?」
「遠藤さんから、将来はどうするのか聞かれたんだ。まだ決めていないことを伝えようとしたら、黒崎さんが代わりに答えたんだ。遠藤さんは『それじゃだめだよ』って、仕草で教えてくれたんだ。俺は『将来のことは2人で決めるから平気です』って答えた。……俺、誤魔化したんだよ。束縛がきついって言えなかったんだ。冗談っぽく言えば良かったかな。遠藤さんが言っていたのは『受け答えまで任せない方がいい』っていう意味だと思う。上手く言えなくて、平気だってことは伝えたくさ……」
あの大きな赤ちゃんを好きになったからこそ、起きていることだ。全く、どっちが年上なのか分からない。これも言い訳だ。早瀬さんへ笑顔を向けて、黒崎の家の中での姿を暴露してやった。
「あの人、クソガキだからさ」
「ははははー」
「俺が高校生の時は保護者みたいだったのに、今じゃ大きな赤ちゃんだよ。ここへ引っ越してきたばかりの時、俺が2階にいたら、あの人、探し回っているんだよ。……夏樹ーって。……ここだよって、2階から顔を出したらさ。俺と同じ階にいろって言い出したことがあったんだよ」
「そんなことがあったのか……、会社じゃ……」
早瀬さんが肩を揺らして笑い出した。この反応を見ると、ここまで子供化しているのは俺の前だけなのか。それが分かったから、照れくさい気持ちになった。
「どっちが大人か分からないよ。悪くないけど~?黒崎さんは俺だけのものだよ……」
「食べる前だけど、ご馳走さま。……夏樹君。言うべき時は言おうね?『NO』だと」
「うん!」
「……」
2人で顔を見合わせて笑っていると、リビングから視線を感じた。悠人が寂しそうな目でこっちを見ていた。さっき、悠人は早瀨さんと軽い言い合いをしていたからだろう。
「早瀬さん、行ってあげなよ……」
「ああ」
早瀬さんが悠人の方へ歩きだした後、俺は黒崎の元へ行った。
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