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午前7時半。
黒崎が出勤した。彼が乗ったタクシーを見送った後、家の中に入った。これから大学へ行く前に家事を済ませておく。今日は天気が良いから、テラスで洗濯物を干すことにした。家を9時に出るから、時間がある。
「よいしょっと……」
洗濯機から、淡いグリーンのソファーのカバーを取り出した。この家で暮らし始めた後、洗濯物は外で干して乾かしている。乾燥機は便利だけれど、こっちの方が好きだからだ。
屋根つきのテラスの横に、洗濯物を干すスペースがある。リビングから庭へ降りて、カバーを持って歩いて行った。その途中には、煉瓦造りの花壇がある。秋に向けて、そこにはコスモスを植えようと思っている。
「あ……」
何となく眺めてイメージを膨らませていた時、強い風が吹いてきた。すると、持っているランドリーバスケットが風に揺れた。そして、抱えているカバーが風に当たって、手から落ちそうになった。
「おっと……。落とすところだった~」
パタン……。
バスケットを地面に降ろした。これには、2人分の洗濯物とタオル類が入っている。スーツとシャツはクリーニングに出すから、自分の服が多い。大学に行く時に着ているトラ顔Tシャツを干した。
「わあ……、今日は風が強いなあ~」
バタバタ!
また強い風が吹き込んできた。自分の洗濯物を干そうと手を伸ばした時、すでに干してあるカバーが浮き上がり、視界を覆った。そして、強い突風が吹いてきて、持っている下着が風に飛んだ。
「わああーー」
下着が飛ばされてしまった。その先には大きな池がある。落ちたら泥だらけになってしまう。急いで追いかけようと走り出した。するとその時だ。何かに足先が引っかかった。
ガツン!
足元に軽い衝撃が起きたことで、何かに当たったのだと思った。そして、その後、まるでスローモーションのように、視界がゆっくりと変化していった。
ワン……、ワン……、ワン……!
目を開けると、遠くの方で、アンが吼えているのが分かった。さっきまで足元にいたのに、遠くに居た。
「……アン?」
口から出た自分の声に違和感があった。耳の中でくぐもっていた。視界がグラっと揺れて、ぼやけている。鳴き声がする方向へ視線を向けた。アンは体が小さいからなのか、まだ随分遠くに居るように思えた。すると、こっちへ走ってくる人がいるのが分かった。
「……山崎さん?」
視界の中に山崎さんがいた。どうして走ってくるのだろう。何かあったのかもしれない。でも、起き上がろうとすると腕に力が入らなかったし、重かった。自分の鼻先には土がある。煉瓦も見えた。
(そうか。花壇の上で転んだんだった……)
さっきのことを思い出した。すると、嗅ぎ慣れない匂いがした。左手が真っ赤に染まっていた。明るい茶色の土にも、赤くしみ込んでいた。
(血だ……。怪我したのかな?痛くないのに……)
それなのに、起き上がることも、身じろぐことも出来なかった。どんどん視界がかすんでいく。
「ワン……、ワン……!」
「夏樹さん、夏樹さん!」
そばで山崎さんの声がした。アンが悲鳴のような鳴き声を上げている。それでも、目を開けることが出来ない。
「救急車が来ますからね!旦那様がいらっしゃいますから!」
「はい……」
どういうことだろう。すごく眠い。少し寝た後で話を聞こう。両目を閉じて、自分の呼吸を感じた。そして、大きくバランスを崩して、花壇の上に転がってしまった。
黒崎が出勤した。彼が乗ったタクシーを見送った後、家の中に入った。これから大学へ行く前に家事を済ませておく。今日は天気が良いから、テラスで洗濯物を干すことにした。家を9時に出るから、時間がある。
「よいしょっと……」
洗濯機から、淡いグリーンのソファーのカバーを取り出した。この家で暮らし始めた後、洗濯物は外で干して乾かしている。乾燥機は便利だけれど、こっちの方が好きだからだ。
屋根つきのテラスの横に、洗濯物を干すスペースがある。リビングから庭へ降りて、カバーを持って歩いて行った。その途中には、煉瓦造りの花壇がある。秋に向けて、そこにはコスモスを植えようと思っている。
「あ……」
何となく眺めてイメージを膨らませていた時、強い風が吹いてきた。すると、持っているランドリーバスケットが風に揺れた。そして、抱えているカバーが風に当たって、手から落ちそうになった。
「おっと……。落とすところだった~」
パタン……。
バスケットを地面に降ろした。これには、2人分の洗濯物とタオル類が入っている。スーツとシャツはクリーニングに出すから、自分の服が多い。大学に行く時に着ているトラ顔Tシャツを干した。
「わあ……、今日は風が強いなあ~」
バタバタ!
また強い風が吹き込んできた。自分の洗濯物を干そうと手を伸ばした時、すでに干してあるカバーが浮き上がり、視界を覆った。そして、強い突風が吹いてきて、持っている下着が風に飛んだ。
「わああーー」
下着が飛ばされてしまった。その先には大きな池がある。落ちたら泥だらけになってしまう。急いで追いかけようと走り出した。するとその時だ。何かに足先が引っかかった。
ガツン!
足元に軽い衝撃が起きたことで、何かに当たったのだと思った。そして、その後、まるでスローモーションのように、視界がゆっくりと変化していった。
ワン……、ワン……、ワン……!
目を開けると、遠くの方で、アンが吼えているのが分かった。さっきまで足元にいたのに、遠くに居た。
「……アン?」
口から出た自分の声に違和感があった。耳の中でくぐもっていた。視界がグラっと揺れて、ぼやけている。鳴き声がする方向へ視線を向けた。アンは体が小さいからなのか、まだ随分遠くに居るように思えた。すると、こっちへ走ってくる人がいるのが分かった。
「……山崎さん?」
視界の中に山崎さんがいた。どうして走ってくるのだろう。何かあったのかもしれない。でも、起き上がろうとすると腕に力が入らなかったし、重かった。自分の鼻先には土がある。煉瓦も見えた。
(そうか。花壇の上で転んだんだった……)
さっきのことを思い出した。すると、嗅ぎ慣れない匂いがした。左手が真っ赤に染まっていた。明るい茶色の土にも、赤くしみ込んでいた。
(血だ……。怪我したのかな?痛くないのに……)
それなのに、起き上がることも、身じろぐことも出来なかった。どんどん視界がかすんでいく。
「ワン……、ワン……!」
「夏樹さん、夏樹さん!」
そばで山崎さんの声がした。アンが悲鳴のような鳴き声を上げている。それでも、目を開けることが出来ない。
「救急車が来ますからね!旦那様がいらっしゃいますから!」
「はい……」
どういうことだろう。すごく眠い。少し寝た後で話を聞こう。両目を閉じて、自分の呼吸を感じた。そして、大きくバランスを崩して、花壇の上に転がってしまった。
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