アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 俺も子供の頃に入院したことがある。小学3年生の時に、心臓のカテーテル治療を受けた。入院先のベッドで寝ていた時、目が覚めると母がいてくれた。その時は冬で、病棟には、クリスマスツリーが飾られていた。サンタクロースのお兄さんが来てくれたのを思い出しだ。お爺さんじゃなかったから、同じ入院患者の子が笑っていた。

「俺もやってみようかな?体型がサンタっぽくないけど……。白いヒゲかあ~。黒崎さん、髭が伸びるのが早いみたいだなあ。いつもチクチクするんだよね~」
「誰のヒゲと比べているんだ?」
「わあ~~」

 いきなり掛けられた声に、体がビクっと反応した。振り返らなくても黒崎だと分かる。振り向く前に、背後から腕が優しく回された。いつもの匂いがした。

「もう一度聞く。誰のヒゲだ?」
「サンタクロースのヒゲだよ」
「七夕シーズンにか?」
「そうだよ~。信じろよ~」

 黒崎が冗談で問い詰めてきているのは分かっている。肩を揺らして笑っているからだ。すると、わき腹と脇の下に手が添えられて、くすぐられ始めた。

「やめてよーー」
「ここどうだ?」
「個室だけど……っ、うるさいからやめろってば~っ」
「もっとやってやる。ここはどうだ?」
「うひゃあ~」

 コツ!くすぐったくて抵抗しようと動いた時に、頭が窓辺に当たってしまった。触れただけなのに、痛みが走った。

「いたっ!」
「すまない。やりすぎた。こっちへ来い。痛むだろう?寝ておけ」

 黒崎が枕を直してくれた後、頭と体を支えられて横になった。そして、胸の辺りまで布団を掛けた後、ベッドの端に黒崎が座って、見つめられた。

「痛みが起きた原因は、ジャレ合ったからだと医者に言うか?」
「いいかも。元気なら退院しろって言ってもらえるよ。ここの晩ご飯を食べてから退院したい。茶碗蒸しが美味しそうなんだ」
「そうか。洋食は選ばなくてもいいのか?知り合いに聞いたが、退院の前日は特別食をオーダーできるらしいぞ?これがまだ美味いらしい」
「ええ?どんなの?」
「……ホームページに出ている」

 黒崎からスマホを差し出された。病院のホームページを見た後、別のページも見せてくれた。ここに入院していた人が書いたブログだ。退院する前日の、晩ご飯の写真が載せられている。

「フレンチっぽいね」
「レストランと提携している。退院した後、その店に食いに行くか?黒崎製菓の近くにある」
「へえ~。探してくれたんだね。このページ……」
「たまたまだ。オフィスで聞いた後、そういえばと……」
「そういうことにしてやるよ。ふふんー」

 元気づけようと、探してくれたのだろうか。じっと見つめていると、黒崎が決まり悪そうに目を逸らした。これで図星確定だ。笑い出したいのを堪えた。
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