アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 わざとらしく鼻歌を歌ってやった。今なら攻撃を受けないチャンスだ。この機会を逃してなるものか。黒崎は苦笑するだけで攻撃してこなかった。その代わりに、優しく頬を撫でてくれた。

「ここは触っても痛くないか?」
「大丈夫だよ。おでこの左側しか痛くないよ」
「左手のように傷が残る可能性がある。形成外科へ行こう」
「下着を追いかけた記念に残しておくよ」
「あのな……」
「話し合いは続いているの?」
「ああ。俺の方は終わった。お義父さん達が認めて下さった。……養子縁組をいつするのかを話し合っている。お前は成人だ。いつでも構わない」
「それなら、来年の4月まで待つよ。20歳の誕生日がいい。記念になるからさ」
「親父としては、早い方を望んでいる。78歳だ、不安があるだろう」
「あ、お父さん達だ……」

 するとその時だ。ドアの向こうから物音がした。ノックされた後、両親とお義父さんが入ってきた。父が俺の方を見て軽く頷いた後、そばへやってきた。笑顔だけれど、緊張している気がした。

 ベッドから起き上がろうとすると、父から手を添えられて止められた。子供の頃のように頭を撫でられていると、母が笑っていた。

「……まだ寝ていなさい。痛みはどうだ?顔色は良くなったね」
「うん。お腹ペコペコだよ……」
「このマカロンを食べるといい」
「……もうー。お父さん、お昼前だから。夏樹は食が細いでしょう?」
「いいじゃないか。食べさせてあげなさい」
「もうっ。一個だけにしなさいよ?」
「うんっ。いただきまーす」

 本当に子供の頃に戻ったようだ。照れくさいのを誤魔化すようにして、マカロンの箱に手を伸ばすと、父が箱を開けてくれた

「夏樹。どれがいい?パンダの柄にするか?このネコも美味しそうそうだ。こっちはピスタチオ味だ」
「ピスタチオがいい」
「はい、どうぞ。口を開けろ」
「いいってば、恥ずかしいよ~」

 父がマカロンを食べさせてくれた。みんなが見ているから照れくさい。久しぶりに甘えられて良かったと思った。

「夏樹。お父さん達はこれから友達の事務所に行く。久しぶりに会ってくるよ。5年ぶりだ。黒崎君、また今度、ゆっくり食事をしよう」
「お送りします」
「夏樹に付いてあげてほしい。昼ご飯の後に会社へ行くんだろう?ゆっくりしてほしい」
「……ありがとうございます。どちらへ?」
「有楽町の久田総合法律事務所だよ」
「悠人のお父さん?」
「ああ。そうだよ」
「かしこまりました」

 黒崎がタクシーを手配し始めた。久田という名前の通り、悠人のお父さんがいる事務所だ。実際に名前が出ると、不思議な気分になった。悠人から話を聞いても、父とは性格が合わないだろうと想像していた。でも、父が楽しそうにしているから、仲が良さそうだ。
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