アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 バンド練習で使っている音楽スタジオ『BAND TOP』へ到着した。受付で会員証を提示した後、店員さんから奥の部屋を指された。

「スタジオは、8STになります」
「ありがとうございます」

 ここには全15室のバンドスタジオが並んでいる。ピアノ、ダンス、レコーディングスタジオもある。ヴァイオリンのケースを持っている人や、ドラムスティックが荷物から出ている人が通り過ぎて行った。

 一番奥の部屋に入ると、ドラム音が聞こえてきた。聡太郎と藤沢が向かい合って練習をしていた。悠人がベースを弾きながら、並川さんと話している。すでにメンバー全員が到着していた。それぞれに練習をしているところだった。その中には早瀬さんもいた。

「こんにちはー!」
「夏樹、おつかれ!」
「お待たせ~」
「裕理も来ていたのか」
「圭一さんこそ。珍しいね?」
「休みだからだ。いつもは平日だしな」

 黒崎と早瀨さんが壁にもたれかかって話し始めた。その光景は上司と部下ではなく、先輩後輩、友達同士といったものだ。

 いつもは平日に練習をしている。メンバーのバイトとの兼ね合いだ。コンテストが近くなり、こうして土日もやるようになった。悠人から声を掛けられて、メンバーの元へ行った。

「はじめるよー!」
「いくよ!」

 まずはハードロックの曲を練習する。ドラム音が鳴り響き、ベースの音が聞こえた。聡太郎のギターフレーズが合図となって演奏が始まった。激しいリズムに変化していく。そして、歌声をあげた。ボーカルレッスンで習ったことは、音程をしっかり取ることだ。バンドで合わせたときに不協和音として聞こえてしまう。

「差し伸べてくれた手がー、すれ違いのー。歪む視界ーー吐くため息ーー」

 ベースの音に耳を澄ませて、リズムを合わせて歌声をあげた。ギターやドラムのソロが目立つように。ボーカルの引き際を伸ばしすぎないように。うまく音程を合わせること。

「同じ空をみてーー、angel of ーー」

 ギターがソロに差し掛かり、リズムを取り続けて一気に最後まで駆け抜けた。そして、ドラム、ベース、ギターが鳴り響いて演奏が終わった。

「おつかれ!」
「3分間の休憩だよ!」

 それぞれが水を飲んで休憩し始めた。俺は床の上に寝転がった。たった4分間で汗が流れ落ち、背中側のTシャツが濡れている。悠人がそばにやってきて、水を差し出してくれた。

「今までで、一番良かったよ!ベースとリズムが合っていたよ!」
「そう?よかったあ~」

 床に寝そべったままでペットボトルへ口を付けた。でも、すぐに起き上がって座り直した。そして、水を飲んだ。

「夏樹、こんな時でも行儀がいいね?」
「黒崎さんがウルサイからだよ」

 俺は寝転がって飲めない。行儀が悪い、こういう飲み方をするな、こうやって座れ。黒崎から注意される度に、本気でウルサイと嫌がっていたけれど、今では馴染んでいる。ちゃんと座らないと飲んだ気がしない。

 すると、藤沢が水を飲みながら隣に座った。いつもと変わらない笑顔を向けられて、ホッとした。

「夏樹、さっきのハモる部分だけど……」
「おつかれ~。エンジェルオブ~の部分だよね?」
「そうだよ。音がズレてくるよね」
「もう一回やろうか」
「うん、せーの、るるる~、Angel ofーー」
「るるるーー、よし!」
「上手くいったね」

 藤沢と歌声を合わすことは慣れている。開明高校時代の文化祭や、創立記念日のステージで一緒に歌ったからだ。悠人が驚いている。

「2人とも息が合っているね!」
「3年前から歌っているからだよ」
「うん。黒崎さんより付き合いが長いよ」

 そんなことを言い合っているうちに、練習が再開された。前はゼエゼエと息を吐いていたけれど、今はそんなことは無い。体力が付いてきたのだと分かり、嬉しくなった。
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