アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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30-3(夏樹視点)

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 午前9時半。

 黒崎製菓本社ビルへ到着した。これから説明会に参加する。正面玄関を入ると、スーツ姿の人達が通り過ぎて行った。俺は気後れしつつも受付カウンターへ行った。先客が去った後だから、待っている社員さんの前と話すのは、ぶっつけ本番だ。ちゃんと話せるか心配になった。

 4月に来た時はお使いだったから、今よりも気楽にロビーへ入ろうことができた。今日は説明会への参加者という立場だから、肩こりが起きて、呼吸する度に胸の鼓動が高鳴った。大学受験の時のような感覚がある。いずれは自分も社会人になり、普段の光景として過ごせるのだろうか。全く想像がつかない。さっそく受付に行って、自分の名前と用件を伝えた。

「中山と申します。インターンシップ説明会へ……」
「お待ちしておりました。こちらへ……」

 書類へサインをした後、もうすぐで中山という姓が変わる実感をした。何だか寂しくなった。

「あちらの右側にエレベーターがございます。8階へお進み下さい」
「はいっ。ありがとうございましたっ」

 床に置いた鞄を持ち上げた。肩が凝っているのが分かった。落ち着きない仕草をしている自覚がある。

 エレベーターの脇にはガラスの壁があり、自分の全身が映し出された。黒崎と出かける時のように、綺麗なラインのシャツを着て来た。黒崎からはこれを着るようにとは言われていない。普段の黒崎を思い出して、どれがいいのか自分で選んだ。

(黒崎さんのスーツって、埃ひとつ付いていないもんね。気合いが入るよね……)

 すると、エレベーターが到着した。乗り込もうとすると、後ろから人が来た。一緒に乗り込んで扉が閉まったところで、男性から声を掛けられた。春にここに来たときに、話したことがある。たしか黒崎と同じ部署の人だったはずだ。しつこく話しかけられて怖かった。今日は優しい感じの笑顔を向けてきたから、こっちも控えめな笑顔を返した。

「……こんにちは。枝川です。僕のこと、覚えていますか?」
「……はい。4月に忘れ物を届けに来た時、お話しましたよね?」
「あの後、常務に叱られました。怖がらせてすみませんでした」
「いえ……」

 なんだか憎めない人だ。ああやって話しかけてきたのは、人懐っこいからだと黒崎が言っていた。さらに枝川さんの話が続いた。

「今日はインターンシップ説明会にいらっしゃったんでしょう?ご案内します」
「……いえ。どうぞ構いなく」

 そう返事をした時に、エレベーターが8階に到着した。扉が開くと、枝川さんから先を譲られて降りた。
 
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