アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 会議室へ戻ろうとすると、洗面所にいた学生達から声を掛けられた。いつの間にか、彼らが近くの壁にもたれて、こっちを見ていた。大学生の男が3人も集まっている。たった一人なら言えないだろう。こっちの無言をどう捉えたのかは、彼らの表情で分かる。3対1だという、数の安心感だろう。そんなものに意味はない。

「社員に言うのかー?いいぞ、どうせインターンシップに参加できないし」

 呆れた言い草だと思った。俺ははっきり言い返すことにした。

「言わないよ。面倒くさい。参加できないなら帰れよ」
「お前みたいなのがいるから、はじき出されるんだよ」
「……どういう意味だよ?」
「ナツキ君には分からないよなー?努力もしないで就職が決まって、遊び回っている奴がいるんだよ!ヤル気が失せる」
「……俺には関係ない。早く帰れよ」
「うわあ、強気!」
「さっきのやつ、手を挙げた奴だよ。あーいうふうに出来ないからさー」
「俺たち、ほら。コミュニケーション弱者だから。調子よく立ち回れないし」

 だんだん腹が立ってきた。ここで黒崎から習った方法を使おうか?相手をすぐに黙らせるやり方だ。しかし、ここは会社の中だ、やめておこうと思った。迷惑が掛かるからだ。

(……この企業を目指す子が、そういう事を言うとは思えないよ。会場にいる参加者、すごく真剣なんだよ。ノートを取って、どんなことも聞き漏らさないようにって。同じ大学の子が参加申込みしたから、自分も来てみたってやつかな?)

 これから先も同じような言葉を投げられるだろう。その度に細かくやり返すわけにはいかない。だったら言い返せないことを言えばいい。今はこれしか思いつかない。

「ああー、説明会に戻る?」
「俺たちと居ない方がいいよー」
「ナツキ君、さっきの奴助けてもらえよ」

 この3人の中で主導権を握っている子の前に立った。真っ直ぐに見つめると、目をそらした。このタイミングで言ってやった。

「そんなにここに就職したいのかよ?他にも職業があるのに」
「あたりまえだ!」
「そんなに会社員になりたきゃ、自分で起業しろよ!いますぐに大学を中退してさ。グダグダ言う時間があるなら、法人登記をやって来い。すぐに社長だよ。これで解決だよ!」

 3人は何も言い返してこなかった。踵を返して会議室へ向かっていると、背後から何か言っている声がした。それを無視して、会議室へ向かった。

 立て看板がある部屋へ入ると、さっき別れた深川さんと早瀬さん、黒崎が立っていた。俺の方を見て笑顔を向けていた。さっきの話を聞かれていたようだ。

「あれ?深川さんたち……、奥に行きませんでした?」
「向こうの通路でつながっているんだよ。説明会の様子を見に寄った」
「そうだったんですね」

 いつも通りに振舞って笑顔を浮かべた。黒崎が寂しそうな目をしたのは、俺が少し強くなったからだろうか。ありがとうと呟いて、会場へ戻った。もちろん、胸を張って。
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