アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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30-10(黒崎視点)

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 12時半。

 Charlotte's kitchenにて昼食中だ。大人数用のテーブル席には、7人の男が集まっている。夏樹、早瀬、桜木、枝川、深川副社長、如月だ。当初は4人だったが、この人数になった。

 店内には社員の姿があるが、ここまで人数が多ければ、お互いに気を遣わずに済む。枝川がムードメーカーとして動き、会話をスムーズに回していった。夏樹が如月と話している。

「如月君って、経済学部なんだね。友達の藤沢修輔が同じ学部だよ。知ってる?」
「藤沢とは友達だよ!バンドのコンテストがあるんだけど、知っているか?まさか、君がメンバー?」
「そうだよ。俺がヴォーカルで、ここにいる聡太郎君がギターだよ」
「世間は狭いなあ」

 すると、枝川が夏樹達に声をかけた。立った今まで桜木と話していたのだが、話が聞こえていたらしい。

「ほおー、俺も観に行きたいな」
「枝川さんも観に来て来てくれませんか?」
「もちろん行くよ。チケットを取ってある。俺は桜木君のファンだからね」
「まだ言っているんですか?伊吹に言いますよ?」

 桜木が枝川に言い返した。枝川は桜木をデートに誘い続けているらしい。その度に伊吹がいるからと断られているが、しつこくしているようだ。すると、夏樹が驚いた顔になった。

「本当に横恋慕してたんですね」
「本気だ。中山伊吹さんとは飲みに行く仲になった。俺も混ぜて貰いたい。常務にはひどい目に遭わされてさーー。愚痴を聞いて貰いたいんだ!ああーー、何でもありません!」
「……ははは。常務が枝川君からイジられているのか」

 深川さんから笑いかけられた。俺は枝川のことを軽く睨み付けると、謝られてしまった。しかし、また舌を出された。それには反応せずに、深川さんと話を続けた。

 さっきまでの話題は、午前中の出来事のこと。トイレに行った夏樹の帰りが遅く、様子を見に行った。すると、エレベーターのそばで、参加者の大学生3人に囲まれていた。その空気は悪く、言いがかりをつけられていたから話に行こうとすると、深川さんに止められた。その時の会話を思い起こした。

(……もう少し様子を見よう)
(……あれほど近い距離で立っている。行ってくる)
(すぐに行けるから、ここで見ていればいい。自分で乗り越えさせよう)
(大学ではそうさせている。今回は初めてのケースだ)
(だったら尚更だ。あとでアドバイスが可能だ。何でも手元で守るのは、いけないことだ)
(ああ……)

 彼らから見えないように立ち、深川さんと一緒に会話を聞いていた。夏樹の声色は安定していたが、相手が押し黙った。夏樹の正論に言い返せなくなっていた。しかし、夏樹は挑発せずに、あの場を治めることができた。彼が会議室に戻ってきた姿は普段通りだった。冷たくも、怒りもない顔だった。それが嬉しい反面、俺の手を必要としなくなる日がくるのが寂しく思えた。

「圭一君、追加オーダーの料理が来たぞ」
「ああ……」

 すると、料理が運ばれてきた。このタイミングで、深川さんに確認したいことがある。さっき、R&W社の社員と一緒にいた理由を知りたい。今日は訪問の予定がないはずだった。

「深川さん。R&W社の高野君が一緒だったな?今日は会議がなかっただろう」
「ああ、別件だ。高野君は打ち合わせついでに同行してきた」
「どういうことだ?」
「晴海君のことだ。来月にR&W社の役員を退任する。任期満了だ。ただし再任されることはない。つまりは解任だ」
「そうか……」

 晴美兄さんは数年前からR&W社の役員のポストについている。意思決定の役割を持たされているものの、お飾りであることは周知の事実だ。本人が動く気がない以上、どうしようもない。俺たち兄弟は黒崎製菓グループ内や取引先へ就職している。晴海兄さんも同じだ。しかし、全くやる気がなく、辞める意思もない。なぜか父が役員というポストを与えたのだろうか。すると、深川さんが言った。

「この8年間の実績をみれば、遅すぎる流れだ」
「どうして今のタイミングなんだ?」
「新しく経営陣を入れ替えるためだ。このグループへ、圭一君と早瀬君が来た。晴海君はこの件を知っている。私のところへ恨みを向けてきた。圭一君にも向けられる可能性がある」
「すでにそれらしいことが始まっている。夏樹の養子縁組のことで文句を言っていたのかと思えば……」

 この間、一貴の母親から電話が入った。文句の電話だった。それ以外の親戚も家に訪ねて来たが、父があしらったそうだ。夏樹本人に会いたがるのは、彼がどういう人物なのかを見るためだ。自分の利益を考えての行動だ。俺のパートナーという立場で迎えた時は意に返していなかったが、養子となると話は大きく変わるようだ。俺は夏樹の身に危険が及んでいる気がしている。その夏樹に声をかけた。

「……夏樹」
「ん?どうしたの?」
「帰りはタクシーを使え。今から呼んでおく」
「もう少し話をしてから帰りたいんだ」
「分かった。一時間後に帰れ」
「りょーかい!」
「後で僕が正面エントランスへ送って行くよ」

 深川さんが夏樹に声をかけた。そろそろ午後の時間に入る。それぞれのメンバーが立ち上がった。
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