アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 18時。

 マンションの敷地内にある中庭に来ている。よく訪れている場所だ。俺たちが住んでいるマンションは、湾沿いに開発された土地に建てられている。目の前にはスーパーがあり、買い物に困らなくて便利だ。自然が多くて公園もあり、この辺りはゆったりした時間が流れている。

 俺のために黒崎が選んでくれた。彼と一緒に暮らし始めた時に住んでいたマンションは繁華街に近かった。アンの散歩コースがなかったし、セキュリティーが強化された場所がいいからという理由で、ここに引っ越してきた。

 敷地内には大きな庭とドッグランがある。アンの散歩の帰りに、この中庭へ立ち寄った。この時間は仕事帰りの住人が多いし、晩ご飯の支度をしている人が多いだろうから、滅多に人がいない。

(でも、ここ、人が多いなあ……)

 引っ越して来た時はこの中庭には人がいなかったのに、今ではたくさんの男性達がいる。黒崎からは気をつけるように言われている。声をかけられた時には簡単な会話だけして、立ち去るようにしている。黒崎が言うには、夫婦や家族連れから声をかけられるのはOKだそうだ。俺も黒崎が女性からモテるたびに怒っているから、黒崎に言い返しができない。

 するとその時だ。近くに居た男性から声をかけられた。下の階にいる細川さんだ。優しそうな人だ。話しているとホッとするから、ついつい話し込んでしまう。でも、黒崎の機嫌が悪くなるから、長話はしないようにしている。

「こんにちは、夏樹君」
「こんにちは」
「この間の話なんだけど、君によく似合いそうな服のショップを見つけたんだ。行かないか?」
「ありがとうございます。でも、俺、服にあまり興味がないので……」
「残念だなー。そうだ、近くのカフェへ行こうよ。今日も黒崎社長の帰りが遅いんだよね?今から行かないか?少しぐらい時間があるよね?」
「もうすぐ帰って来ます。ロビーで待ち合わせて、一緒に部屋へ帰るから」
「そうだったんだ……」
「もっと遅いだろう?普段は……」
「今日は違います。そろそろ失礼します」

 会話を切り上げて、足早に中庭を立ち去った。アンがお腹を空かせているのを口実にした。そうなると誰もついて来ない。猫や犬を飼っているから、気持ちが分かる。そういうことで話が合う分、嫌えない。

(機嫌が悪くなるもんね……。一昨日は大変だったし)

 一昨日も似たようなことがあった。何だかんだいっても、黒崎のことが好きだ。早く仲直りがしたいと思った。
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