アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

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 洗面所に入った。とても広くて快適だと思った。寒いかと思えば、そうでもないし、ちょうどいい温度のお湯が出るから良かった。

 大きな鏡には真っ赤な顔をしている自分の姿が映っていた。黒崎から言われた言葉が嬉しかったからだ。これだと、車に戻った後でイジられる事が決定したようなものだ。赤みがおさまった後で戻ろうかと思ったけれど、黒崎からの言葉を思い出す度に顔が赤くなるから、諦めて外へ出ることにした。

「赤くなった顔は隠せないよね。黒崎さんの魔力だから。またの名を新婚パワーという。……あれ?黒崎さんがいないなあ?」

 洗面所を出ると、待っているはずの黒崎の姿がなかった。きっと仕事の電話がかかってきたのだろう。車に戻ろうと思った。

 歩きながら、近くを通っている人達を眺めた。友達同士、カップル、親子、家族。そして、団体旅行客がいる。駐車場には大きなバスが何台も連なって停まっていた。

「あ、清真女子の制服だ!」

 するとその時だ。向こうから開明高校の系列校である清真女子の生徒が歩いて来た。何かイベントがあったのだと思う。その列を通り過ぎたところで、さっき行った洗面所の近くで、見慣れた女の子の姿があった。万理の親友の愛良ちゃんだ。一緒にいるのは、20代ぐらいの男2人だ。

(愛良ちゃんだよね?あの男の人って誰だろう?うーーん。何だか危ない気がする。気軽に話すタイプじゃないもんな。いくら剣道部でも……)

 どう見ても、女の子が男から絡まれているとしか見えない。こうなると厄介で、問題が起きれば、それが些細なことでも剣道の大会に出場ができなくなりそうだ。心配になったから近くまで行った。すると、ちょうど愛良ちゃんが立ち去ろうとしていた。でも、男達が邪魔をした。

(マジでヤバイ奴だったんだ!助けに行こう!そうだ。黒崎さんに声をかけないと叱られるよね……)

 黒崎の姿が見当たらない。勝手な行動を取ると叱られそうだけれど、今すぐに愛良ちゃんのそばに行った方が良さそうだと思った。人目につく場所へ誘導して連れ出そう。そうすれば安全だ。荒っぽいことはしてこないだろう。まずは気を落ち着けて、愛良ちゃんの元へ向かった。
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