アイアンエンジェル~あの日の旋律

夏目奈緖

文字の大きさ
19 / 283

3-4

しおりを挟む
 彼らが気づかないであろう位置へ立ち、成り行きを見守った。以前の自分では考えられないことだ。全ての事から守ろうとしたが、今は違う。あの程度の揉め事には対処できるようにさせたい。それが本人を守ることに繋がる。恐れるに足らぬ相手への距離の取り方を身に着けさせるためもある。

(成り行き次第では、俺が出て行くしかない。指一本でも触れたら……)

 夏樹のことを静かに見守った。女子生徒を背中に庇い、真っ直ぐに男達へ視線を向けている。そして、夏樹が一言だけ告げた。俺達から離れてくださいと言った。はっきりとした声だった。しかし、相手は絡んできた。後は夏樹の自由だ。どの言い方でも構わない。俺は静かに見守った。

「あんたら。どっか行けよ」
「はあ~?」
「返事する時間があるなら、早く行けよ」
「おまえ、カレシか?」
「早く行け。息を吐きかけるなよ」
「……っ」
「10代の子相手に男2人も絡んでくるな。バカヤロウ」
「何だと~?」

 夏樹が男から胸倉を掴まれた。夏樹は彼の手首をねじり、持ち上げた。男が痛みで顔を歪めた。教えた通りの形だ。真っ直ぐに相手を睨みつけている。そして、夏樹が右脚を振り上げて、男に当たるギリギリの位置の壁に蹴りつけた。その音と同時に相手が怯んだ。

「早く行けって言ってんだろ。聞こえないのかよ?」
「……っ」

 さらに男達が顔を歪めた。男達が離れようとした素振りを見せた後、掴んでいた手首を乱暴に突き放し、男が前のめりに倒れ込みそうになった。

「俺達から離れろ!」
「あ……っ」

 夏樹が強く言い放った後、彼らに鋭い視線を向けた。これで怯まない相手がいるのかというぐらいの強さがあった。男がその場から離れようとこちらを振り返った。俺の方へ歩いて来たから視線を向けると、さらに顔を引きつらせた。仲間が居たことが分かったようだ。

(何もしていないぞ。失礼だな……)

 完全に姿が見えなくなった後、夏樹が子供のような笑顔を浮かべて、大きく手を振って来た。そして、彼女のことを連れて歩いて来た。

「黒崎さ~ん!ちゃんと上手にねじり上げてただろ?練習の成果が出たよ~」
「はいはい。カッコ良かったぞ」
「剣道の部活で来ていたんだってさ」
「うん。トイレへ行きたくなったの。さっきの人に囲まれて。無理に逃げると面倒くさいし……。ごめんなさい。一人で戻れるので」
「いや、まだ居るかも知れない」

 女子生徒は万理の親友の愛良という子だった。さっきの男が近くにいないとは限らない。生徒達の待ち合わせ場所へ送って行った。

「夏樹が良いところを見せてもらえた。彼は強かったかな?」
「もちろん。すごくカッコ良かった!」
「そ、そう?」
「夏樹お兄ちゃんは、ずっと前からカッコいいよ。ずっと前も男の子から庇ってくれたことがあるの」
「可愛いから苛めていたんだよ。その子達は……」
「お兄ちゃんが助けに来てくれた時、男の子たちが喜んでいたの。人気があったから。男の子からも、憧れの子だったのよ?……夏休みの自由研究が凄くて、変なことを言ったら馬鹿にされるかもって思って、話しかけられなかったんだから。今は話しかけやすくて、うちの学校で有名なの。優しくて強いから。……あれ?お兄ちゃん、知らなかったの?」
「いつから女の子に人気があったんだよ~。相手をしてもらえるなら、黒崎さんを選んでいないよ~……」

 夏樹へ視線を向けると、俯いて唇を噛んでいた。本気のときの仕草だ。思わず手が出てしまった。

「いたっ。何するんだよっ」
「ん?デコピンだ」
「ふふん。あっさり認めたね。この暴力亭主!」
「何だって?……ああ、あの子たちかな?」
「うん。お兄ちゃん達、ありがとう。美也ちゃーん!夏樹お兄ちゃんがいるよー」

 愛良が女子生徒達に声をかけると、彼女達が夏樹を見て悲鳴を上げた。どうや彼は彼女達に人気があるようだ。生徒会のつながりもあるのかも知れない。
しかし、夏樹自身はそれを知らないようで、彼女達の反応に驚いていた。そして、彼女達が夏樹のそばに走ってきた。

「きゃーーー」
「かっこいい!マジで?中山君だーー」
「えーーっと……」

 夏樹が恥ずかしそうにして俯いた。その姿を見て、彼にも居場所があることを知り、今後のことを思って胸が痛くなった。そして、ホッとした。

 春から環境が変わる。お互いに居場所が出来るなら、すれ違いが出て来るだろうかと思ったからだ。それはさせない。散々泣かせた以上、喧嘩以外では悲しませない。引率の教師が彼女達を迎えに来た後、夏樹の手を握り、車に乗り込ませた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

嘘つき王と影の騎士

篠雨
BL
「俺の役割は、貴方を守ることだ。……例え、貴方自身からも」 国の平穏を一身に背負い、十二年間「聖王」という偶像を演じ続けてきたセシル。 酷使し続けた心身はすでに限界を迎え、その命の灯火は今にも消えようとしていた。 そんな折、現れたのは異世界からの「転移者」。 代わりを見つけた国は、用済みとなったセシルからすべてを剥奪し、最果ての地へと追放する。 死を待つためだけに辿り着いた冬の山。 絶望に沈むセシルの前に現れたのは、かつて冷徹に王を監視し続けていた近衛騎士団長、アルヴィスだった。 守るべき王も、守るべき国も失ったはずの二人が過ごす、狭い小屋での夜。 無価値になり、壊れかけた自分を、なぜこの男は、そんな瞳で見つめるのか。 なぜ、そんなにも強く、抱きしめるのか。 これは、すべてを失った「聖王」が、一人の男の熱に暴かれ、再生していくまでの物語。

イケメンモデルと新人マネージャーが結ばれるまでの話

タタミ
BL
新坂真澄…27歳。トップモデル。端正な顔立ちと抜群のスタイルでブレイク中。瀬戸のことが好きだが、隠している。 瀬戸幸人…24歳。マネージャー。最近新坂の担当になった社会人2年目。新坂に仲良くしてもらって懐いているが、好意には気付いていない。 笹川尚也…27歳。チーフマネージャー。新坂とは学生時代からの友人関係。新坂のことは大抵なんでも分かる。

とある執事の日常 ~お嬢様の中身は恐らくギャル~

冬兎
ファンタジー
うちのお嬢様は絶対におかしい。 「道路やばくない? 整備しよ」 「孤児院とか作ったら?」 「困ってる人助けるのなんか当たり前っしょ」 貴族令嬢らしからぬ口調で突拍子もない提案を次々とぶつけてくるお嬢様、レティシア・リオネール。執事の俺、クラウスは今日も彼女の無茶振りに振り回される。 不思議なことに、お嬢様の理想論は必ず実現し効果を発揮する。 孤児院は完成し、医療制度は整い、領地は驚異的に発展していく。 元勇者の伯爵様、脳筋騎士団長、くのいちメイド長、双子の妹たち―― 濃すぎる面々に囲まれながら、俺は今日もお嬢様の思いつきを形にしていく。 気づけば、振り回されることに悦びを感じ始めている俺はもう手遅れかもしれない。 R8.1.20 投稿開始

悠と榎本

暁エネル
BL
中学校の入学式で 衝撃を受けた このドキドキは何なのか そいつの事を 無意識に探してしまう 見ているだけで 良かったものの 2年生になり まさかの同じクラスに 俺は どうしたら・・・

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

純白のレゾン

雨水林檎
BL
《日常系BL風味義理親子(もしくは兄弟)な物語》 この関係は出会った時からだと、数えてみればもう十年余。 親子のようにもしくは兄弟のようなささいな理由を含めて、少しの雑音を聴きながら今日も二人でただ生きています。

【完結】極貧イケメン学生は体を売らない。

紫紺
BL
貧乏学生をスパダリが救済!?代償は『恋人のフリ』だった。 相模原涼(さがみはらりょう)は法学部の大学2年生。 超がつく貧乏学生なのに、突然居酒屋のバイトをクビになってしまった。 失意に沈む涼の前に現れたのは、ブランドスーツに身を包んだイケメン、大手法律事務所の副所長 城南晄矢(じょうなんみつや)。 彼は涼にバイトしないかと誘うのだが……。 ※表紙をAI君に描いてもらいました。(2026.2.21) ※本作品中の公判、判例、事件等は全て架空のものです。完全なフィクションであり、参考にした事件等もございません。拙い表現や現実との乖離はどうぞご容赦ください。

処理中です...